魔物に狙われる体質の私、拾った年下の護衛がなぜか魔物より私を狙ってくるんだけど
ドスッ
鈍い音が、森に響いた。
ウィルの放った破魔矢が、森の覇者キングオークに突き刺さり、その巨体がぐらりと揺れた。
私の頬が引きつる。
「よーし、オッケー」
肩口から、この場にそぐわない明るい声がした。
私は振り向きざまに手にした扇子でその頭を思いきり叩きつけた。
ばしっ!
「痛っ!何すんだよ、お嬢様!」
「『オッケー』じゃないわよ、この乱暴者!」
涙目になっているのが自分でも分かるくらい、目頭が熱い。
「泣くことねぇだろ、めんどいな」
「泣いてないわよ、無礼者!」
目の前の少年――ウィルの無礼さにカッとする。
条件反射で怒鳴りつけると、ウィルが肩をすくめて適当な返事を返してきた。
「へーへー。お嬢様は繊細なこって」
バカにした態度は出会ったときから変わらない。
「お前みたいな礼儀知らず、絶対に解雇してやるわ、覚えてなさい!」
悔し紛れの私の言葉なんて、そよ風みたいに聞き流される。
「できるならしてみろよ?お嬢様の魔物に好かれやすい体質が直んなきゃ、無理だろ」
平民の年下の男に鼻で笑われた。
確かにこのむちゃくちゃ生きにくい体質は事実だけど――
…なんて、なんて、なんて!!
ムカつく男なの!!
貴族として蝶よ花よと育った私は、初めてウィルに出会ったとき、あまりの粗雑さに気を失うところだった。
口が悪い、態度が悪い、柄が悪い。
「なんで、お前のような男に神の加護が付いてるのよ!」
「知らねぇよ。神の気まぐれだろ?人の領分じゃねぇ。考えるだけ無駄だ」
神殿の僧侶たちさえも凌駕する神の加護を持つ男――それがウィルだ。
魔物を一撃で仕留める破魔矢を扱えるのはこの辺りでは彼だけだ。
「お嬢様の魔物に好かれ放題な体質だって神の気まぐれだ」
「神殿にも神にも不敬だわ!」
信仰心の欠片もないくせに。
神殿の僧侶たちが泣いてたわ。私だって泣きたい。
「こんな男に頭を下げなきゃいけないなんて!」
「下げたのは、あんたのお父様だろ?」
思わず声に出してしまった。
ウィルがいつもの生意気な顔で鼻を鳴らす。
「お父様が下げたことが、嫌なのよ!」
「選民思想で死にてぇの?止めねぇけど」
何を言っても口で勝てたことがない。
悔しくてまた、扇子で頭を叩いてやった。
「暴力反対。ははっ、どっちが乱暴者だよ」
「笑いながら言わないで!」
倒れた魔物の前でするようなやり取りではないと思うけど、一言文句を言わずには気が済まない。
不意にウィルの手がすっと私の頬に触れた。
真っ直ぐな視線に落ち着かなくて、顔を背ける。
「こっち向け」
顎をつかまれて視線を戻された。
「怪我はねぇな?」
……黙って頷く。
正面から見据えられると、いつも逆らえない。
こういうときだけ、真剣な顔をするのはずるいと思う。
「まぁ、俺が付いてんだから当たり前か」
私の気持ちなんてお構いなしにウィルが笑った。
「自信過剰だわ。年下のくせに」
口を尖らせるとウィルが目を細めた。
彼が一番嫌がるセリフだと分かってて言ったのだから、機嫌を損ねるのも当たり前だ。
「三つしか変わんねぇ」
出会った頃はもう少し幼さが残ってた気がするのに、いつの間にか背も追い越された。
あの頃より、ずっと低い声。
「一生、縮まらない三つよ」
「ちっ…」
ウィルが舌打ちする。
ちょっと仕返しできたかしら。
「お嬢様がババァの行き遅れってだけじゃねぇか」
前言撤回。
「誰が行き遅れよ!」
「貴族の女は二十歳過ぎたら行き遅れだって、あんたの『お父様』が泣いてたぜ!?」
……っく!
お父様め。平民の小僧に何を言ったのよ。
「あんたの『体質』ごと、面倒見れる男なんて、俺以外にいるわけないだろ」
「いるかもしれないじゃない!」
「いねぇよ!どんだけ自己評価が高ぇんだよ」
また鼻で笑われた。悔しい。
当たってるだけに、悔しすぎる。
「…あんたが俺を拾ったんだろ?」
路地裏で死にかけていたウィルを神殿に押し込んだのは私だ。
自分の領地で倒れてる男の子を放っておくなんてできなかった。
その後、なぜか神の加護を受けて、神殿でがんがん出世したのはウィルの実力だけど。
「神の加護持ちなら、私が手を出さなくったって…」
「…はっ!神の加護は気まぐれだって言ったろ?俺を助けたのはあんただよ、エレーナお嬢様?」
ウィルの視線が強く私をとらえた。
アメジストみたいな綺麗な目。
いつも名前なんか呼ばないくせに。
本当にずるい。
ウィルの視線が逃げ場を奪う。
「ちゃんと、最後まで責任持てよ?」
「犬猫じゃあるまいし、なんで私が…」
言いかけて、目が合う。
薄く、その唇が上がった。
「良かったよ、犬猫だと思われてなくて」
意味ありげに笑われて、思わず後ずさる。
なんか、魔物より追い詰められてる気がする。
「だ、男爵以上じゃないとダメよ!?」
魔物狩りのできる神殿出身者が手に入れられる爵位の上限。
思わず上ずった声で叫んだけど、これって私がウィルを待ってるみたいじゃない?
気がついたときには、ウィルがお腹を抱えて笑っていた。
「逆プロポーズみてぇ!」
「違うわよ!!」




