表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【スライム特化型無双】一振りに百の残影を重ねる者~「スライムを倒し続ければ、誰でもこれくらいできますよ」~  作者: 寝不足魔王


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/13

第四話:二十五匹のノルマと、拭えぬ違和感

 八歳の誕生日の翌朝、俺の頭の中に数年ぶりの明確な指示が響いた。

 庭で新しい木刀の重さを確かめ、最初の一振りを放とうとしたその瞬間だ。


《個体名:シン・カミシロ。管理システムより通達。本日のノルマ、スライム二十五匹の処理》


 無機質なその響きは、かつてのリングで聞いた開始のゴングよりも冷徹だった。

 二十五匹。

 昨日、森の入り口で一匹仕留めたばかりの俺にとって、それは未知の数だった。

 だが、前世で地獄のような練習メニューをこなしてきた俺の魂は、その数字を「こなすべき作業」として即座に受け入れた。

 俺は木刀を握り直し、朝露に濡れる村の外縁へと足を向けた。


 森の境界線。

 昨日の今日だというのに、俺の感覚はさらに研ぎ澄まされていた。

 木々の隙間、茂みの影、湿った土の上。

 そこかしこに、あの水色の粘体が放つ独特の気配が漂っている。

 視界の端で何かが動く。

 俺は無駄な動きを排し、最短の歩法でその場所へ肉薄した。


 一匹目。

 スライムがこちらの存在に気づく前に、木刀を一閃させる。

 パチン、と乾いた音がして、中心の核が砕け散る。

 霧散する魔物。

 腕に残る手応えを確かめる間もなく、俺は次の気配へと意識を向けた。


 二匹、三匹、四匹。

 処理は順調だった。

 三年の素振りで体に叩き込んだ型は、実戦という名の舞台でも寸分の狂いもなく機能していた。

 スライムが跳ねる予備動作。

 核が移動する軌跡。

 それらすべてが、止まっている的を叩くように容易く感じられる。

 十匹を数えたあたりで、俺の呼吸は全く乱れていなかった。

 だが、その代わりに、腹の底で名状しがたい苛立ちが首をもたげ始めた。


(……効率が、悪すぎる)


 十一匹目のスライムを仕留めた直後、俺は木刀を下げて足を止めた。

 一匹を探し、間合いを詰め、一振りを叩き込む。

 確かに確実だ。一撃で仕留めているのだから、これ以上の正解はないはずだ。

 だが、前世で一秒の隙、一動作の無駄さえ嫌ってきた俺の合理主義が、この「一対一の繰り返し」を時間の浪費だと断じ始めていた。


 森の奥を見れば、まだ多くの気配がある。

 それを一匹ずつ、同じ手順で処理し続けるのか。

 二十五匹ならまだいい。だが、これが百、千となった時、このやり方では日が暮れてしまう。

 もっとまとめて、一気に終わらせる方法はないのか。

 たとえば、一振りの動作の中に、複数の打点を作るようなことはできないのか。


 十五匹目。

 目の前に二匹のスライムが並んで現れた。

 俺はそれらを一度に視界に入れ、一本の木刀を構え直す。

 一振りで二つの核を貫く。

 イメージを膨らませ、鋭く横になぎ払う。

 だが、結果は非情だった。

 最初の一匹の核は砕けたが、その衝撃で木刀の軌道が僅かにそれ、二匹目の核は捉えきれずに弾かれるだけに終わった。

 結局、二振り目が必要になった。

 一振りに、一撃しか乗らない。

 それが今の俺の肉体と技術の限界だった。


 二十匹。

 作業は後半に入っていた。

 一匹ずつ処理する速度は上がっているが、心の中の違和感は膨らむ一方だ。

 三年間、庭で繰り返してきた素振り。

 あの時、時折感じた「重なり」の正体は何だったのか。

 ただの棒を振るだけで、周囲の草がなぎ倒されたあの現象。

 あれを意図的に引き起こせれば、この非効率な現状を打破できるのではないか。


 二十四匹目を倒し、最後の一匹が茂みから這い出してきた。

 俺はそのスライムを前にして、あえて攻撃を遅らせた。

 じっと見据える。

 核の位置を確認し、体内の力を一点に集中させる。

 その瞬間だった。

 これまでのレベルアップとは明らかに違う、全身が内側から沸騰するような熱い感覚が俺を襲った。


「……ッ!」


 手のひらから溢れ出した見えない力が、木刀へと吸い込まれていく。

 樫の木で作られたはずの得物が、生き物のように不自然に震え始めた。

 熱い。

 体中を駆け巡るこの「何か」が、行き場を求めて暴れている。

 俺は、その奔流を抑え込むように最後の一撃を振り下ろした。


 手応えはなかった。

 ただ、木刀がスライムの核を通り抜けた瞬間、これまでにはない鋭い衝撃が足元まで伝わった。

 パシィィィン!

 スライムは霧散するどころか、その衝撃の余波だけで周囲の草木ごと吹き飛んだ。


《本日のノルマ達成。……個体内の魔力循環を確認。次段階の解放を準備します》


 脳内に響く無機質な宣告。

 魔力循環。

 システムの言ったその言葉が、俺の中にすとんと落ちた。

 この体の中に流れる、熱く、重いエネルギー。

 これが魔力であり、俺が求めていた「効率」を底上げするための鍵。


 俺は自分の両手を見つめた。

 まだ震えが止まらない。

 一振りに、一撃。

 その常識が、いま音を立てて崩れようとしていた。

 二十五匹を倒し終えた静寂の中で、俺は次なる段階への扉が開いたことを、確信を持って感じ取っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ