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【スライム特化型無双】一振りに百の残影を重ねる者~「スライムを倒し続ければ、誰でもこれくらいできますよ」~  作者: 寝不足魔王


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第二十五話:宝物庫の鉄巨神、千界の完成

 王城の地下深く。幾重もの封印を解き、黄金の鍵を差し込んだ先に待っていたのは、煌びやかな財宝の山ではなかった。

 重厚な石の扉が音もなく開くと、そこには肺を押し潰すような、濃密で、冷たい魔力の澱みが立ち込めていた。

 通路の両脇には、価値も知れぬ古の武具や宝石が積み上げられている。だが、俺の視界にはそれら一切は映っていない。俺のサーチが捉えているのは、この通路の突き当たり、空間そのものを支配するように居座る巨大な「熱」の反応だけだった。


《個体名:シン・カミシロ。王宮最深部、高密度魔力領域を検知。……前方に自立防衛機構を確認。……硬度、魔力伝導率ともに、これまでの計測不能域に到達》


 脳内に響く無機質な報告。俺は歩みを止めることなく、その熱の源へと直進した。

 突き当たりの広間。そこに鎮座していたのは、鈍い銀色の光沢を放つ、巨大な自動人形だった。



 鉄巨神。



 伝説の硬度を誇る特殊な金属で構成された、王室の最終防衛装置。俺が足を踏み入れると、その巨躯が駆動音を上げ、周囲の魔力を一気に吸い込み始めた。

 巨神の表面に、目に見えるほど濃い魔力の被膜が形成されていく。自己修復結界。

 俺は、その圧倒的な質量と防御の構えを前にして、静かに真剣を抜き放った。


(……なるほど。あの峡谷の暴君よりも、遥かに頑丈だ。そして、どれだけ叩いても瞬時に元通りになる)


 これまでの「的」は、俺の全力を注ぎ込む前に壊れて消えてしまった。

 だが、この鉄の塊は違う。

 俺がどれほど意志を重ねようとも、それを全て受け止め、何度でも元の形に戻り、俺の前に立ちふさがる。


 俺の胸の奥で、かつてないほどに純粋な、反復への渇望が燃え上がった。

 これは、俺の魔力操作の精度を、もう一つ上の階梯へ引き上げるための、最高の練習台だ。


 鉄巨神が、その巨大な腕を振り下ろす。

 俺は最小限の足さばきでその衝撃をかわし、懐へと潜り込んだ。

 

 一を振り、千を重ねる。

 

 俺は、真剣の刃に千の意志を重畳させた。

 一振りの軌道の間に、千の断裂を、一点へと収束させて叩き込む。

 

 パシィィィィィィン……ッ!

 

 鉄巨神の銀色の装飾に、深い窪みが穿たれる。

 だが、その傷は一瞬にして魔力の輝きに包まれ、何事もなかったかのように修復された。

 普通の剣士なら、その「絶望的な硬度」と「異常な再生」に戦意を喪失するだろう。だが、俺にとっては、それこそが望んでいた環境だった。


「……いい。壊すことを恐れずに、全ての熱を注げる」


 俺は、再び踏み込んだ。

 一回、十回、百回。

 鉄巨神の単調な反撃を紙一重で避け続けながら、俺は同じ箇所へ、千の重畳を何度も何度も叩き込んだ。

 一を振る刹那に、千の衝撃を「同時に」ではなく「一点に、順番に、重なるように」貫通させる。

 

 水滴が岩を穿つように。

 だが、その速度と密度を、神の理に届くほどに加速させる。

 

 俺の肉体は、次第に周囲の魔力と同期し、時間という概念さえも消失し始めた。

 一振りの精度が、一振りを放つたびに極限まで削ぎ落とされていく。

 無駄な魔力の漏出を消し、意志の矛先を、髪の毛一本分さえも狂わせず、巨神の内部へと浸透させる。

 

 数万回の打撃の果て。

 鉄巨神の胸部、幾重にも重なった装甲のさらに奥底。

 俺のサーチが、そこに埋め込まれた「異質な熱」を捉えた。

 鈍く、重く、世界の底に沈んでいるような、圧倒的な密度の鋼。

 王が語っていた、建国以来一度も加工されることのなかった、神代の鋼。

 それが、この巨神を動かす核として利用されていたのだ。


「……それが、俺の新しい腕になる素材ですか」


 俺は、最後の一振りを構えた。

 これまでの一万回、数万回の反復は、すべてこの一瞬のためにあった。

 体内の魔力を、一滴の残らず剣先へと集束させる。

 一を振り、千を重ねる。その理が、いま、完璧な一つの型となって結実する。


 俺は、静かに真剣を振り下ろした。

 

 音が、消えた。

 空間が、俺の意志の重なりに耐えきれず、一筋の黒い断裂となって世界を割った。

 

 伝説の硬度を誇った鉄巨神の装甲が、まるで水面に投げられた石のように、衝撃を透過させた。

 千の重畳は、装甲の表面を一切破壊することなく、その奥にある「核」へと一気に到達し、そこにある神代の鋼を固定していた術式だけを、精密に断ち切った。

 

 ズゥゥゥゥン……。

 

 巨神の動きが、唐突に停止した。

 銀色の巨躯が、音もなく左右に割れ、その胸から、鈍く輝く一つの鋼の塊が、俺の足元へと転がり落ちた。

 

《個体内の魔力操作、極限を突破。……『千界』の完全同期を確認しました。レベルアップです》


 脳内に響く声。

 俺は、自分の手が僅かに震えているのを見つめた。

 それは、新しい技術を掴み取った確信の震えだった。

 

 俺は足元に転がった、神代の鋼を拾い上げた。

 冷たい。そして、恐ろしいほどに重い。

 今の真剣を数十本合わせても届かないほどの密度が、その小さな塊に凝縮されている。


「……これで、ようやくまともな『作業』ができそうだ」


 俺は折れかかった真剣を鞘に収め、新しい鋼を懐へ入れた。

 

 宝物庫の最深部、守護者を失った静寂の中で、俺は次なる反復の地を想った。

 この鋼を、どう鍛え、どう振るうか。

 効率の怪物による、本当の意味での「究極の一撃」への道程が、いま、新たな素材を手にしたことで、さらなる次元へと突入した。


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