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霊ノ謳  作者: しろくろあめ
第8章 未完迷宮

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第97話 新たなる極悪霊

 悪霊退散会あくりょうたいさんかいは閑散としていた。


 幸太郎(こうたろう)琴葉(ことは)は予定通り米国支部の前乗りに行き、劉兎(りゅうと)達は謁見中。更に萌葱(もえぎ)は鍛錬に勤しんでおり、会の中に居たのは(あずさ)祥蔵(しょうぞう)だけだった。

 

 そんな二人は、カフェテリアで真剣な表情で向かい合い将棋を指していた。


華鈴(かりん)さんと劉兎くん、【神様】と何話しているんだろう……」

「……さあな」

「華鈴さんは何やら【神様】と縁が深そうだけど、劉兎くんが呼ばれたのは何でだと思います?」

「……さあな」


 祥蔵が長考しているのもあり、暇な梓は劉兎達について話を広げようとする。だが考えている最中の祥蔵は機械のように同じ言葉しか返さない。

 

 そんな祥蔵をつまらなく思ったのか、梓は頬を膨らませて睨みを利かせる。

 

 沈黙が続き、やっと祥蔵が動き出したのも束の間、いつの間にかカフェテリアに帰ってきた萌葱が呟いた。


「少なくともアタシ達に内容は開示されないだろうな」

「あ、おかえりなさい萌葱さん……何でそう思うんですか?」


 将棋に集中していたこともあり、萌葱に気付かなかった梓は挨拶を挟む。

 

 梓の疑問を聴きながら挨拶を交わすと、萌葱は水を飲みながら告げた。


「もし悪霊退散会全員に知らせるべき内容なら、それこそ全員で赴くか会長と副会長だけ呼ぶだろ。今回華鈴さんが呼ばれたのはそうだろうが、劉兎が呼ばれたのなら全員に通達される線は薄いな。もしかしたら、劉兎に関わることかもしれない」

「劉兎くんに関わること……」


 梓の脳内に逡巡するのは、劉兎が悪霊であるという記憶。

 

 優香(ゆうか)戦で辛うじて息があった悪霊から告げられたカミングアウトに、当時は組織が空中分解しかけていた。

 

 勿論、実際にそうなっていても悪霊退散会は存続していたが、あの場面では明確に琴葉が反論していたこともあり、ギスギスしていたのも事実。

 

 しかし、そんな劉兎の黒い霊力の問題は、お盆を機に解消されており、結果的には小人になりかけていた過去を持つ萌葱と同じ状態のため、【神様】から方針の言及がある程のことではない。


「梓、王手だ」

「えっ、嘘」


 そんなことを梓が考えている内に、盤面は進んでいく。

 無意識のうちに指していたこともあり、いつの間にか王手にまで縺れ込んでいた。

 

 驚く梓は長考に入るが、やがて匙を投げる。


「もう無理だ~! やっぱりあたしこういうの向いてないや~」


 椅子に身体を預けてもたれ掛かる。

 最早全てを諦めた梓が放心状態になったのを確認すると、祥蔵はそそくさと将棋盤を片付け始めた。

 

 そんな一幕を、鍛錬の汗を拭いながら見ていた萌葱。刹那、デバイスが音を立てた。


「……誰のデバイスだ?」


 しかし、鳴ったのは一つだけ。

 梓のデバイスは鳴っておらず、祥蔵と萌葱も一様に確認するが通知は無い。


「あっちから鳴りませんでした?」


 梓が指さすのはキッチン。

 

 カウンターとキッチンが一体化しているその場所は、普段であれば華鈴の定位置である。

 

 将棋盤を片付ける祥蔵を置いて、キッチンに入る梓と萌葱。通知音とバイブレーションを繰り返すデバイスは、直ぐに置き場所を顕わにした。


「これは、華鈴さんのデバイス……置いて行ったのか?」

「それにしても、華鈴さんのデバイスしか鳴らない事ってあるんですね、相当レベルの高い任務ですか?」


 デバイスのロックは同じ会員であれば簡単に解除できる。

 間髪入れずにロックを解除した萌葱は、直ぐにその画面を注視した。


「……祥蔵さん、極悪霊(ごくあくりょう)です」

「……分かった」


 デバイスに書かれていた任務の内容は、一言『極悪霊』とだけ記載があった。

 

 緊急事態であると判断した萌葱は、乱雑に汗を拭って戦闘の準備を始める。同じく呼ばれた祥蔵も、片付けていた将棋盤を机に置いて立ち上がった。


「梓、お前はここに残れ。華鈴さん達の謁見が何時間掛かるか分からない以上、伝達役といざとなった時のゲートを開く役割が必要だ」

「で、でもゲートって華鈴さんしか開けないんじゃ……」

「華鈴さんのデバイスがあれば、任務の場合のみ開閉を一度だけ使えるようになってる」


 そう言いながらデバイスを手渡す萌葱。渡された梓はアタフタしながら受け取ると、任務を受領する。

 同時に現れたゲートは、次第に生界(せいかい)との同期を始めていった。


「アタシも詳しい使い方までは理解していないが、確か会長・副会長のデバイスは特別製で、任務に行っている会員の座標とかが分かるようになっているはず」


 梓の手の中にあるデバイスを出鱈目に操作する萌葱。

 幾つかの画面を移動すると、生界の地図と会員の名前が羅列した画面が出てきた。


「よし、何かあったら直ぐにアタシ達を連れ戻してくれ、そして劉兎に連絡! 頼んだぞ!」

「は、はい……! ご武運を!」


 デバイスにでかでかと表示された『開扉』を押す。

 瞬く間に金色のオーラを纏ったゲートがその口を開いた。

 

 既に生界と同期しているゲートは強く光っている。

 萌葱達は顔を見合わせると、即座に突入した。


「い……行っちゃった」


 デバイスを握りしめ、去っていく二人の背中がゲートに消えたのを確認すると、その場に座り込む。

 

 ゲートは自動的に閉扉され、デバイスには生界の地図と、萌葱達の座標が表示されていた。

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