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霊ノ謳  作者: しろくろあめ
第7章 極悪霊

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第94話 仁志の決意

 翌日になっても劉兎(りゅうと)は目を覚まさなかった。

 

 帰還後、華鈴(かりん)は即座に三人に治療を施し、傷自体は全て治っている。現に同じく意識を失っていた琴葉(ことは)は意識を取り戻し、今は華鈴に変わって劉兎の治療を行っていた。


「恐らくは薄氷(はくひょう)使用における反動だと思う。傷は治っているし、息もしているから、蓄積された疲労が回復できたら起きてくると思うわ」

「私も最初に薄氷を使った時はそうだった……それにしても実践で成功させて帰って来るとは、彼の才能には驚かされるね」


 劉兎を看ている琴葉の傍らで、華鈴と幸太郎(こうたろう)はそう呟く。

 

 心配そうに見つめる琴葉だったが、段々眉間のシワが緩くなってくると、最終的には華鈴達と医務室を後にした。


「アニキの……アニキの心臓を使って、アニキの声とアニキの顔をした悪霊が居ました」

「……おい、なんだそのタチの悪い冗談は」


 カフェテリアに帰ってきた一同は、丁度仁志(ひとし)がカミングアウトをする瞬間に立ち会うことになる。

 

 話を最初から聴いていたであろう萌葱(もえぎ)は、今にでも暴れ出しそうなくらい顔を赤くして眉間にシワを寄せていた。


「オレだって、嘘だって思いたかった。でも、あの声、あの顔、あの髪の毛……それに何よりも、あの拳はずっとオレが受けてきたアニキの拳だった」

「……霊の歌か、本当に悪趣味だな!」


 怒りに任せ椅子を蹴る萌葱。霊力強化のない自力での蹴りだったものの、その威力は簡単に椅子を壊してみせた。

 

 椅子を壊したことで少しだけ怒りが鎮まったのか、壊したことを幸太郎に謝罪し、破片を拾っていく。


「仁志。とりあえず何があったか教えてくれるかい?」

「え、ええ……」


 萌葱の謝罪を軽く承諾した幸太郎は、すぐさま仁志に視線を移す。

 

 同時に華鈴と琴葉も視線を向け、突然白羽の矢が立ったことに驚く仁志だったが、唾を飲み込むとすぐに説明を始めた。


「最初は任務の内容通り、ただのトンネルに現れる怪奇との戦いでした。オレがポカして、劉兎さんに助けてもらって、戦いは終わったと思った時、突然奴らが襲ってきたんです」

「奴ら?」

「はい……バラクラバのノイを名乗る、アニキに……胡堂(こどう) (りゅう)に似た悪霊と、極悪霊(ごくあくりょう)を名乗る、更に強い悪霊が――」

「……ちょっと待ってくれないかい?」


 仁志の説明を遮るように、幸太郎が口を挟む。

 咄嗟に紡いだ言葉を手放した仁志は、幸太郎に視線を向ける。

 

 幸太郎と華鈴が、目を丸くしていた。


「極悪霊……と言ったかな」

「ええ、御存じだとは思いますが――」

「いいや、知らない」


 幸太郎の言葉で空気が凍る。

 文字通り一瞬の硬直の後、幸太郎が再度口を開いた。


「私は少なくとも知らない、そんなものに会った事がない……私が昔霊の歌と戦った時は、配下はバラクラバだけだったはずだ」


 徐に幸太郎が華鈴に視線を向ける。華鈴も同意だったのか、頷くだけしてみせた。


「霊の歌め……また厄介なことを始めたな……!」


 ギリっと鳴るほど奥歯を食いしばる。

 

 竜に似た悪霊が出没したという事実もそうだが、何よりも幸太郎に刺さったのは知らない情報だった。

 

 劉兎達が入会する約三十年前。幸太郎と華鈴は当時のメンバーで一度霊の歌討伐に赴いている。その時の生存者が二人であり、現在はその時に得た情報を基にして動いている状態である。

 

 その情報に欠陥があるとなれば、幸太郎の焦りに拍車がかかる。


「華鈴、『あの件』急いだほうがよさそうだ」

「ええ、【神様】に通達しておくわ」

「『あの件』?」


 聞き馴れない単語に、ここまで黙っていた琴葉が訊き返す。

 幸太郎と華鈴は何気ない顔を琴葉に向けた。


「恐らく決戦が近い……バラクラバ以上に極悪霊とやらは霊の歌に近しい存在だろう。だからこそ、我々も進めていた案件があってね、それを早めることにした」


 全員揃った時に話したかったが……と呟く幸太郎だったが、直ぐに切り替えると強い視線で琴葉を見た。


悪霊退散会あくりょうたいさんかいの米国支部との交流会だ」

「米国……アメリカですか!?」

「ああ、詳しい話は後で全員が揃った時にしよう」

「それは構いませんが……そもそも悪霊退散会って日本以外にもあったんですね」

「ええ……と言っても()()()()()()()()()()()()()()って言うのが正しいのだけど」


 突然の新情報に戸惑う琴葉達。

 

 しかし、現状別の依頼に出ている祥蔵(しょうぞう)達と、劉兎が居ないまま話を続けることもできないのも事実。

 

 この場は一度お開きとなり、各々が自室や医務室へと足を運んでいく中で、仁志だけが幸太郎に声を掛けた。


「アメリカはいつ行くんですか?」

「具体的なことは【神様】と相談する形にはなるが、一ヶ月以内には行きたいと思っているよ」

「……分かりました」

「どうしたんだい?」


 浮かない顔をする仁志に、幸太郎は訝しむ。

 仁志の降ろしている手に力が入り、再び唇を噛んだ。少し赤くなった頬で、仁志はゆっくり幸太郎を見上げる。


「オレは、勘違いしていました。様々なご無礼、申し訳ありませんでした」

「……気にしなくていい、兄貴分を愚弄されたんだ、荒れるのも致し方ないさ」


 謝罪のため頭を下げる仁志。

 鳩が豆鉄砲を食ったように驚いた幸太郎だったが、直ぐに切り替えると仁志の頭を撫でる。

 

 そんなやり取りを、戻ろうとしていた他の面々も眺めていた。


「だから……折り入って頼みがあります」

「頼み?」

「オレを、一週間生界(せいかい)に置き去りにしてください!」


 仁志の宣言に、騒然とする面々。

 

 しかし、そんな中で驚きもしなかった幸太郎は、華鈴に目配せをしてゲートを開かさせた。


「危ない橋だと分かっての行動だね?」

「……もちろん。生界で霊力を切らせたらオレは死ぬし、悪霊や小人もうじゃうじゃいる。だからこそ、生界に身を置いて自分を叩きなおしたいんです!」

「……いざとなったら、デバイスの緊急通報を使いなさい」

「はい! ありがとうございます!」


 仁志の決意と同時に、ゲートが開かれる。

 

 全身に蒼い霊力を纏った仁志が、ゲートへと駆けだして、消えていった。

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