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霊ノ謳  作者: しろくろあめ
第7章 極悪霊

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第92話 ホワイトプラズマ

 土壇場で薄氷(はくひょう)を発動させた劉兎(りゅうと)。急激に促進される身体の治療に、爛れていた腹部が見る見るうちに治っていった。

 

 ゆっくり自身を見つめ直し、状態を確認する。先程の無理矢理押し込もうとした感覚とは違い、精神を深く集中させることで成し得た薄氷は、体内で激しく循環する霊力とは裏腹に、静かに表面に揺蕩っていた。


「悪いな、待たせてしまったみたいだ」

「いいや……面白いな、キミ!」


 冷静に言葉を紡ぐ劉兎を見て、オツは激しく興奮する。

 

 極彩色(ごくさいしき)とはまた違った変化、目に見えるものではなく、肌で感じる強い圧に、皮膚が割れそうなくらい口角を上げる。


「まだまだ楽しめそうだなァ!」


 喜びを顕にしながら、迸るプラズマを劉兎に繰り出していく。

 

 指向性を持たせたプラズマは抵抗なく向かっていき、静かに拳を振り抜いた劉兎に霧散させられた。


「……へぇ、やるじゃん」

「さっきのようにはいかないぞ」


 空中を漂うプラズマの光。一瞬動揺したオツはたじろいだものの、直ぐに気を取り直す。

 

 徐に劉兎は人差し指を立てた。

 

 薄く琥珀色の霊力を纏ったその指を、空中に走らせる。

 まるで空中に絵を描くように、琥珀色の線が残った。

 

 刹那、琥珀色の線が無数のナイフに代わり、オツに迫り来る。


「なっ!?」


 一本の線から創造された無数のナイフは、オツの創造した空気の壁など無視するように容易に貫き、そのままオツに刺さった。


「ハハハ! 最高じゃないか……!」


 しかし、身体に刺さったナイフなど気にも留めず、劉兎に向かって走り出すオツ。

 

 狂笑に包まれた表情で肉薄を図るものの、突然オツの身体が地面に倒れる。


「……なん、だ?」


 不用意に転けてしまったことを怪訝に思いながら立ち上がるオツ。

 そこでやっと、オツは現実を見ることになった。


「……なるほどね」


 オツの右腕が、肩ごとどこかへ消えていたのだ。

 困惑することもなく、黒い霊力で腕を創ったオツが劉兎を睨む。そこに先程までの笑みはなかった。


「最初、お前の出したプラズマをかき消すために殴ったろ、その時に()()()()腕も飛ばした」

()()()、ねぇ……本当にやるじゃないか」


 淡々と告げる劉兎に、オツも強く据わった眼を向ける。

 逆立った紫色の髪の毛が揺れ、既に嘲ることも油断することもない。

 

 目の前に居る劉兎を、真の強者だと認めていた。

 

 だからこそ、オツは両手を構える。


「俺の能力は空気を操ること……でも、空気ってのは奥深いんだ。黒い霊力でエネルギーを掛け、空気を分子レベルで操作する。正のエネルギーと負のエネルギー……その二つでプラズマを作る」


 オツの両手に白と黒、反する色のプラズマが纏われていく。

 先程とは様相を呈した姿に、劉兎も再び構え直す。


「そしてこのプラズマを再度合体させる! お互いがお互いを反発しあい、相乗的に力を増していく!」


 両手を胸の前に持っていき、白と黒のプラズマが合体、増幅していく。

 とてつもなく迸るその圧に、劉兎の額に汗が滲んでいった。

 

 対するオツも、制御しきれないほどの大技に身を焦がれている。


「お前はさっき大技が無いと言ったな! ならばコレで潰えてしまえ!」

「……やってみろよ」


 両手に溜めたプラズマを凝縮し、激しく反発し合う力を劉兎に向ける。

 

 空気中を走る稲妻は付近の植物に引火し、その火は明るく二人を照らしていた。


「『ホワイトプラズマ』!」


 そして放たれるプラズマの凝縮体。

 地を抉り、空気を走り、猛る力に劉兎は息を飲んだ。

 

 確かに今の劉兎に大技はない。繰り出されたホワイトプラズマに対し、対抗するような力は無い。

 

 それでも、劉兎は腰を深く落とし、構えを取った。


(りゅう)さん……俺に力を貸してくれ」


 劉兎は今、薄氷を発動させている。

 だからこそ、彼の体表には琥珀色の霊力が吹き出していない。

 

 体内を循環する霊力の速度を高め、強化量を上げていく。そこに焦燥や昂りはなかった。

 

 深く拳を構え、息を吐く。その一瞬の動作に、まるで竜を宿らせるがごとく丁寧に行う。

 

 先程真似たものとは違う、形から入り、目の前のプラズマを見た。


「『正拳一閃』」


 流れるような動きで繰り出された正拳突きは、先程の非ではない威力を叩き出した。

 

 目と鼻の先まで迫っていて、スパークが劉兎の身体に傷を付けるような距離で放たれた拳は、琥珀色の閃光となりプラズマに激突する。

 

 一瞬の膠着、霊力と霊力がぶつかり合い、その場で停止する。しかし鍔迫り合いは続き、両者が両者を削っていく。

 

 そして、勝負は決した。


「クソッ!」


 勝利したのは劉兎の『正拳一閃』。

 壊れて霧散していく『ホワイトプラズマ』を垣間見て、オツは咄嗟にバックステップで距離を取る。

 

 逃げると判断した劉兎が即座に地を蹴った。


「バーカ」

「ッ! 身体がッ!」


 しかし、その動作はブラフ。

 舌を出して煽ったオツが両手を翳すと、劉兎の身体は空中で停止した。


「空気を操るって言ったよなぁ! 圧縮ができるんだ、真空にすることだってできるんだよ!」


 真空になった空間に固められた劉兎の身体。

 身動ぎすら許さない空間は、劉兎を磔にしていた。

 

 直ぐに追撃のプラズマを纏うオツだったが、劉兎も一筋縄では行かない。


「小賢しいんだよ!」


 一瞬、たった一瞬だけ薄氷を解き、霊力を噴出する。

 全身から琥珀色の炎が上がり、真空の拘束を無理矢理弾き飛ばした。


「力業かよ!」

「今なら……できる!」


 慄くオツに対し、着地と同時に肉薄を図った劉兎。

 再び構えられた拳は、白くなるほど強く握られていた。

 

 霊力もまた、薄氷を発動するために薄く薄く纏われ、膜のようになっていく。

 

 無意識に行っていた操作を、次は意図的に行う。無理に押し込むのではなく、身体に循環させるように、先程の感覚と同じように。


「薄氷ォ!」


 オツの懐に入ったと同時に、発動した薄氷。

 更に繰り出された拳が、オツの腹部を強く貫いた。

 

 背後に飛ばす訳ではなく、その場で貫く攻撃は、正しく薄氷そのもの。オツから抜けた衝撃波は、そのままトンネルを壊していった。


「……まだだ!」

「ッ!」


 刹那、劉兎の身体が空中に停止する。

 即座にオツが真空にしたと悟り、まだ終わりではないと全身を強ばらせ、霊力を爆発させる。

 

 拘束から抜け出し、着地した劉兎の視線の先には、腹部にぽっかりと穴が空いたオツ。

 

 その穴が、黒い渦を巻いた。


「これは……真空を突きつめて創った『ブラックホール』だ! 俺自身も飲み込まれるが……お前は強い! 全身全霊で叩き潰す!」

「いいぜ……かかってきな!」


 両手にプラズマを纏い、ブラックホールに付与していく。

 発動させまいと駆け出した劉兎、オツを殴り飛ばし、更に追う。

 

 ブラックホールを携えたまま地面を転がったオツは、即座に空気を固めて放つ。迫る空気の塊を殴り壊し、劉兎は更に加速した。

 

 腹部に触れないよう、顎を殴り、突き飛ばし、回し蹴りで顔面を蹴り飛ばす。苦し紛れに繰り出されたプラズマが劉兎に掠り、傷を与えていく。

 

 ほぼ同時に繰り出された劉兎の拳も、オツの顔面に掠った。


「ホワイトプラズマッ!」

「なっ!?」


 地面を転がったオツは、少量のホワイトプラズマを繰り出す。起き上がりざまの攻撃に防御しかできなかった劉兎は為す術なく突き飛ばされた。

 

 地面を擦るように着地し、再度前方を見据える。

 

 既にオツの準備は完了していた。

 プラズマを纏ったブラックホールが口を広げている。


「喰らえ! ブラックホール!」

「竜さん! 俺に力を! 勇気を!」


 天を仰ぎ、叫ぶ。竜に届くように。

 

 薄氷を突きつめ、再び正拳突きの構えを取る。

 

 しかし、ブラックホールの圧で地面が破壊され、足場を無くした劉兎の構えは中途半端になってしまった。

 

 迫るブラックホールは、忽ち周りの物を飲み込みながらやってくる。


(体勢が……! 『正拳一閃』を出せない!)

「ハハハ! 俺の勝ちだ!」


 口から血を流しながらも勝ちを確信するオツ。

 体勢が狂った今の劉兎には、『正拳一閃』を繰り出す余地は無かった。


「いやっ……まだだァ!」


 壊れ行くコンクリートの破片に片足を付ける。そのまま蹴り、ブラックホールに跳んだ。

 

 構えた拳はそのままに、覚えたままの薄氷を全力で行使する。

 空中という不安定な場で、正拳突きの構えを取った。


「『正竜閃拳(せいりゅうせんけん)』!」


 繰り出された拳は、琥珀色の霊力となってブラックホールにぶつかる。

 

 一瞬のせめぎあいの後、霊力は龍のような姿に変わり、ブラックホールを飲み込んだ。


「……俺の、ブラックホールが!」


 驚くのも束の間、ブラックホールを飲み込んだ龍はその口を開けながらオツへと迫る。

 

 オツを飲み込み、トンネルを(ひし)めき、全てを破壊した龍は、役目を終えて霧散する。

 

 満身創痍で薄氷を解いた劉兎の眼前には、胸部にぽっかりと穴の空いたオツが立っていた。

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