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霊ノ謳  作者: しろくろあめ
第7章 極悪霊

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第86話 一芝居

「ちょうどいいや、仁志(ひとし)。ついてこい」

「……うす」


 琴葉(ことは)を連れ、任務の準備をしていた劉兎(りゅうと)は、ちょうど自主トレを終えた仁志を見つけると任務へ誘う。

 

 浮かない顔だが逆らえない仁志は、言われるままに劉兎についていった。


「ついに始まるんですね……!」

「まぁ、長期休暇を取ったと思えばこんな感じじゃないか?」


 お盆明け初の任務に奮い立つ琴葉(ことは)

 

 生界(せいかい)との接続を終えたゲートが、同期の証として光ってみせると、三人は思い思いに準備運動をしながら中に入る。

 

 ゲートの先は、山道の中にあるひとつのトンネルだった。


「……トンネル?」

「ここは心霊スポットみたいだな、工事してる時に何人も死んだとかいう話だ」

「こりゃまたベタな話っすね」


 仁志を先頭に臆せず突き進む三人。

 

 黒い霊力(れいりょく)での結界が確認できることから、誰かしら悪霊がいることは確定していたが、トンネルは薄暗い照明が照らすだけで気配がない。

 

 そのままトンネルに突入するも、嫌な気配だけがあって誰も居ない状態だった。


「……隠れてるんでしょうか」

「恐らくは、トンネルの中なのか、外なのか……とりあえずここが奴らのナワバリであることは間違いない」


 全方位を警戒しながらトンネルを見渡していく。

 黒い結界こそあれど、人っ子一人居ない状況に空気だけが張りつめていく。

 

 数分トンネルを練り歩く三人。それでも現れない悪霊に、警戒の糸が少しずつ解けていた、そんな時だった。


「うっ!」

「……え?」

「劉兎さん!」


 琴葉の横で、劉兎が背後から光線に撃ち抜かれる。

 

 貫かれたのは左肩。血飛沫が舞い、膝から崩れ落ちていく中で、振り返った仁志は劉兎の背後に人影を見る。


「てめぇ!」

「仁志くん! 前!」


 倒れていく劉兎に掌をかざし、桜色の霊力を発動させた琴葉が仁志に叫ぶ。

 

 咄嗟に前方に振り返る仁志。眼前には既に黒い玉が迫ってきていた。

 

 スーパーボールさながらに地面を跳ねて飛ぶ黒い玉は、トンネルの薄暗い照明に当てられて正体を表す。


「……目玉か! 趣味が悪い!」

「一旦後退しましょう!」


 迫ってきていたのは目玉。

 

 無数に迫ってきたそれは、仁志の眼前まで到達すると突然爆発する。

 

 爆風と同時に目玉の中から放出されたのは無数の針や破片。

 

 急いで薙刀を創造した仁志が退けるように振るう。初撃の防御は完遂できたが、それでも目玉は幾つも迫ってきていた。


「この物量じゃ弓矢は無理か……! 仁志くん!」

「そんな腑抜けた奴ほっとけよ! 腑抜けてるからそんな攻撃も避けれなかったんだ!」

「いいえ、劉兎さんを置いてはいけない! 一旦撤退しましょう!」


 倒れたら劉兎を抱えて逃げる準備をする琴葉に対し、複雑な思いが募っていた仁志は思いの丈を爆発させる。

 

 同時に迫る目玉も爆発していき、中にあった針や破片が仁志達に向かう。

 

 言葉とは裏腹に、飛び退いて避けることしかできなかった三人は後退を余儀なくされる。


「下がってどうするんだ! そいつを治して、勝機はあるのか!?」

「劉兎さんが居ないと絶対に勝てないです! まずは劉兎さんの意識を取り戻させるのが先決です!」

「んなわけあるか! こいつはお盆で変わっちまった! あの戦慄するような強さがもう無いんだよ!」

「一体……あなたは何を――」


 売り言葉に買い言葉、反論をしようとした琴葉を遮り、飛び出てきた目玉が二人の間で爆発を起こす。

 

 お互いに防御の姿勢を取るも、爆風に押されて琴葉はトンネルの外に、仁志は逆にトンネルの中へと戻された。


「仁志くん!」

「どうせ……倒さなきゃならないんだ、オレ一人だろうがやってやるよ! あんたはその腑抜け者でも治しているといい!」


 琴葉の呼びかけに反するように、薙刀を振るって構えなおす仁志。

 

 踵を返し、襲ってくる目玉達の集団を睨むと、容赦なく斬り倒していく。


「……すごい」


 トンネルの外で劉兎を寝かせ、霊力譲渡による回復を施す琴葉は、圧巻とも言える仁志の進撃に目が釘付けになる。

 

 地を蹴り、目玉達の中に向かっていく仁志は、一切怖気ることはない。自信たっぷりに地を踏み、薙刀を振るう背中はとても頼もしく見える。


「どうせ隠れるしか能がないんだろ! こういうのは中心部に隠れてるって相場が決まってんだよ!」


 爆発しようとする目玉を迷いなく斬り伏せていく。

 誘爆で飛んだ破片や針が身体を傷つけていくが、皮膚に走る痛みを感じつつも歩みを緩めない。

 

 一歩、また一歩とトンネルの中心部に向かっていく仁志は、蒼い霊力を存分に出力して進み続ける。


(まず、このトンネルの攻撃は三つ!)


 浮かび上がるだけの目玉から繰り出される光線を刀身で防ぎ反射させる。同時に爆発するために迫った目玉を両断していく。


(一つ目は、一番厄介な光線を放つ目玉! 数は多くないが、劉兎さんの背後から肩を貫くほど隠密性が高い!)


 中心に進む脚は止めないものの、いつ光線がやってきてもいいように全方位警戒を続ける。


 間髪入れずに迫りくる爆発する目玉を斬り捨て、段々とトンネルの照明が暗くなってきた。


(二つ目は分かりやすい! 爆発する目玉! そして三つ目!)


 眼前に迫っていた目玉を斬り飛ばし、突然薙刀を地面に刺す。

 

 刹那、トンネル内を人間の物とは思えない慟哭が走った。


「三つ目……トンネル自身がしてくる攻撃、この場合は照明を弄って視界を狭くさせたな?」


 すかさず飛んでくる光線をのけ反って避け、地面に刺した薙刀を引き抜いた。

 

 引き抜かれた瞬間、傷口からあふれ出すは赤黒い血のような液体と肉片のような塊。歪に噴き出したそれらは数秒で固まり、人の形を取った。


「ほらな、ビンゴだ」


 肉片たちが人型を作り切る前に薙刀を振るった仁志。

 抗う余裕もなく到達した刀身は、いとも容易く人型の首を斬り飛ばす。

 

 ぐちゃり、と落ちた首は溶けるように霧散していき、全身が形成されかけていた人型は静かに項垂れた。


「ふん、子供騙し、所詮は悪霊だな」


 薙刀を担ぎ、静かに霧散させる。

 

 戦いは終わったのだと一息つく仁志に対し、背後で見ていた琴葉は突然起き上がった劉兎に驚いて身体を撥ねさせた。


「さて、どんなもんかな」

「……劉兎さん? お身体は大丈夫なんですか?」

「ん? ああ、全然大丈夫」


 ケロっとした様子で笑顔を見せる劉兎に戸惑いを隠せない琴葉。

 

 自身が治していたのはもちろんのことだが、数刻前まで意識を飛ばしていた人物の余裕な姿に怪しささえ覚える。

 

 しかしそんな視線を感知した劉兎は、あくまで仁志を見続けつつ、話す。


「さっきの攻撃には気づいていたよ、気づいている上で受けた」

「な、なんでですか?」

「仁志の矯正だよ、荒療治のね」


 肩目を瞑り、ウインクする劉兎に琴葉はますます困惑する。

 

 瞬間、仁志の背後で爆発が起きた。

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