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霊ノ謳  作者: しろくろあめ
第6章 黄昏時に思い馳せ

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第76話 裸の付き合い

 荷解きも程々に、男達は示し合わせたかのように温泉へと足を運んでいた。

 

 いの一番に入った仁志(ひとし)はさっさと身体を洗って温泉を満喫しており、続いて入った劉兎(りゅうと)祥蔵(しょうぞう)も身体を洗うとすぐに温泉に浸かる。

 

 静かに浸かる祥蔵に対し、劉兎は肩どころか顎にまで浸かって温泉を楽しむ。仁志はそんな二人から少し離れた場所にある岩に腰掛けて足湯を楽しんでいた。


「みんな早いね」

「会長……!」


 そんなところにやってきたのは幸太郎(こうたろう)

 全員の視線が幸太郎に集まり、変色している左腕と、そこに繋がる形で伸びる生傷だらけの身体を見て絶句する。


 数秒の硬直の後、言葉を紡いだのは劉兎だった。


「……その傷は?」

「ああ、私の左腕は霊の歌のものである話はしただろう? やっぱり奴の腕を移植するというのは至難の業らしくてね、私の霊力(れいりょく)と奴の霊力がせめぎ合って、私の身体に傷として刻んでいるんだ」

「その、痛みは?」

「そりゃああるさ」


 既に身体は洗い終わっているのか、備え付けられている桶で温泉を掬い、全身に被る。

 

 驚きを隠せず言葉を誰も発せない中、仁志が立ち上がった。


「良い景色見えますよ、みなさん」


 全員の視線が景色に向く。

 

 重くなった空気が少し朗らかになって行き、柵の先に見える霊界(れいかい)を皆が覗く。

 

 落ちかけた陽の光がオレンジ色の照明となり、ほとんど復興が終わって盛り上がる霊界を照らしていた。


「ありがとうございます。会長」

「急にどうしたんだい?」

「その身体、見せたいものではないはず。それでも、俺達の前に出てくれてとても嬉しかった。絶対に倒しましょう、霊の歌を」

「そう言ってくれてうれしいよ、劉兎君……いや、劉兎。君は本当に強いね」


 夕日に照らされながら、幸太郎と劉兎はお互いを称える。

 傍らで祥蔵は髪を掻き上げ、仁志はその様子をジト目で眺めていた。


「仕方ねえコミュ障達だなあ……」


 重くなった空気が無くなったのを感じ、小さくため息をつく。

 

 明るくなった劉兎の表情を見ていた仁志の視線が、ゆっくりと身体へと降りていき、鍛えられた肉体を見つめると、自身の身体と見比べた。


「……だから勝てねぇのか?」


 鍛えていないわけではない。

 それでも現役で悪霊と戦っている劉兎達の肉体は、仁志のものとは一線を画していた。

 

 特に幸太郎の肉体は傷よりも筋肉が目立つほどで、仁志の視線が鋭くなる。


「なあ、そんなに見つめないでくれないか?」


 そんな視線に気が付いたのは劉兎。

 わざとらしく身体を腕で覆い、恥ずかしそうに視線を返す劉兎に、仁志の顔が赤くなる。


「見てねぇよ! 気持ちわりぃな!」


 顔を真っ赤にしながらの返答に、自ずと全員が破顔する。

 

 ゆっくりと沈んでいく陽の光は、女子勢にも届いていた。


「うーん……」


 しかし、その夕日よりも(あずさ)は気になるものがあった。

 

 腕を組み、眺めるは他のメンバーの身体。

 自身と他のメンツを行き来する視線に、次第に劣等感を感じ始めていた。


「どうしたの?」

「いや、みんな綺麗だなぁって」


 その不思議な行動に疑問を持った琴葉(ことは)。彼女の身体もまた、女子高生らしいものであり、同じ女子高生であるはずの自分はどうかと、再度省みる。

 

 病弱だった梓の身体は、貧相ということばでは表せないほどやせ細っている。

 特に浮き出ている肋骨は、彼女の大きなコンプレックスだった。

 

 そんな中、空気を割るように萌葱(もえぎ)が温泉に入ってくる。


「それを言うならお前もだぞ、梓」

「そうよ~みんな綺麗なんだから~」

「ここに汚い者など居ない」


 強気に返す萌葱に、一番最初から温泉に入っていて火照っている華鈴(かりん)が同調する。

 

 同じく萌葱も生前は過労だったこともあってやせ細っている。出て居るところは出ていても、その身体は決して健康とは言えない。更に、髪の毛は灰色で傷んでいる。

 

 それでも萌葱は臆することは無い。


「生前の置き土産だ、この身体はは……だけどさ、自分が自分を嫌ったら、もうそこで終わるんだぞ? どんな時でも、自分だけは自分を抱きしめて『好きだ』と言ってやらんとな」


 強く微笑む萌葱を見て、梓は無意識に萌葱が輝いているように見まがう。

 不思議と自信が湧いてくる中、華鈴が自身の顔を触って呟いた。


「みんな若くていいわねぇ~私はもう肌のハリがなくなってきたわ」

「何言ってんすか……幽霊は歳をとらないでしょ?」

「それはどうかな?」

「えっ……」


 迫真な顔で告げる華鈴を見て、顔が固まる萌葱。

 

 数秒沈黙が流れた後、ただからかっていただけの華鈴が笑うと、つられてみんなが笑い出す。

 明るい空気が流れる中で、梓は一つの質問をした。


「って言うことは、食べてもお肉とかつかないんですかね?」

「いや、身体的成長はあるはず、老化がないだけで」

「えー……あたし、食べても全然お肉付かないんですよね……体質かな」


 何気ない会話のつもりだった。

 

 しかし、梓の言葉に突然華鈴の表情が()()()()()固まり、眉がピクリと動く。

 

 その機微を察した萌葱は、即座にフォローに入った。


「そういった話は華鈴さんの前ではするな」

「何故ダメなの? ねぇ、萌葱?」


 梓を小さな声で諭す萌葱だが、耳の良い華鈴は萌葱の肩を後ろから掴む。その表情は笑顔が貼り付いたまま。


「え? 華鈴さんスタイル良いじゃないですか、まさに男の子が好きな体型って感じ、ふくよかで」


 だが梓は意外にも鈍感だった。

 

 地雷を踏み続け、萌葱の表情が恐怖に変わる。

 華鈴の顔は、最早笑顔が崩れ始めていた。

 

 琴葉は傍らで震え続けている、温泉に入っているのに。


「梓ァ?」

「はっ、はい!」


 萌葱を押しのけ、梓の前に立つ華鈴。

 その時やっと事態に気付く梓だが、時すでに遅し。


「幽霊はねぇ……未練から脱すると成長しやすくなるのぉ……だからぁ……あなたが未練から脱すればぁ……お肉が着くわぁ……」

「そ、そうなんですね……う、嬉しいなぁ」


 梓の言葉は、更に油を注ぐ。

 華鈴の手が、梓の頭を撫で――そして掴んだ。


「へぇ? 嬉しいのぉ?」


 掴んだ手に力が入り、梓が悶える。


「いだだだだだだ! 嬉しくないです!」

「嬉しくないのぉ!?」

「ぎゃあああああ!」


 もはやどんな回答をしようが、梓の頭が握られる事実は変わらない。

 地雷を踏み続けた梓は、普段温厚である華鈴から制裁を受ける羽目になる。

 そんな梓を震えながら見ていた琴葉は、静かに決意する。


 もう二度と華鈴と裸の付き合いはしないと。

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