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霊ノ謳  作者: しろくろあめ
第6章 黄昏時に思い馳せ

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第74話 受け入れる覚悟

「どうなっちゃうの……」

「劉兎さん……」


 翌日、プレハブ脇の草原で思い思いの準備運動をしていた劉兎(りゅうと)仁志(ひとし)

 

 不安で仕方ない(あずさ)琴葉(ことは)。そして顛末を見届けるために他のメンバーも固唾を呑んで見守っている。

 

 身体を伸ばし、温め終わった二人は静かに向き合った。


「俺が勝ったら、お前も明日の温泉旅行に来い」

「いーッスよ、悪霊さーん」


 真剣な眼差しを向ける劉兎に対し、仁志は煽るように舌を出す。

 空気がひりついていくのを周りで見ていたメンバーが感じるものの、誰も声を上げなかった。

 

 刹那、地を蹴ったのは劉兎。ただの決闘であるため殺意は無いが、琥珀色の霊力(れいりょく)を纏う身体は一直線に仁志へと向かう。

 

 戦闘の開始を察知した仁志は即座に構え、劉兎に向かって拳を振るうも不発。

 

 拳が繰り出されるタイミングで跳び上がった劉兎は、そのまま仁志の頭に両手を置いて側転すると、背後に回って蹴り飛ばした。

 

 対する仁志も背中で上手く蹴りを受け、前傾と同時に地面に手を着き、その反動を使って足裏で蹴り上げる。

 

 空中で両腕を使って防ぐ劉兎。勢いに押されて背後に飛ばされて着地する。対する仁志はその場でカポエイラの要領で旋回するとすぐに立ち上がった。


「なんか、劉兎さんの動きが前と違う気が」

「あいつは自分が悪霊だと知った日から毎日精神統一訓練をしていた。頭の中のイメージと今の自分をよく理解し、冷静に対応できているからだろうな」


 傍らで見届ける琴葉は劉兎の変化に気付く。同じく萌葱(もえぎ)もその変化に気付いていた。

 

 普段から共に戦うことが多かった二人は、劉兎の動きが以前より滑らかになっていることにいち早く察知する。

 

 そんな考察をよそに、劉兎達は接近戦を続ける。

 仁志の力任せな拳の連撃を劉兎は()なし続けていた。


「なんで攻撃が当たらねぇ!」

「さあな、お前が俺より弱いからじゃないか?」

「うるせぇ! あの時手を抜いてやがったな!」

 

 拳の連撃を続けるものの、その全てが往なすか躱すかの二択で終わる。

 

 次第にフラストレーションが溜まっていった仁志はラッシュの速度を速めるが、見切った劉兎が拳を掌で受け止め、仁志は掴まれる前にその場で回転する。

 

 同時に仁志の掌で創造された薙刀が劉兎を襲う。


(こいつ……霊器(れいき)を使わずに創造しやがる。しかもその速度がとんでもないな)


 薙刀での横振りを上体を反って躱し、薙刀を蹴り上げて飛ばす。

 

 そして上体を戻すと同時に仁志の鼻っぱしに頭突きを食らわせ、そのまま拳で二撃。先程まで薙刀を掴んでいた腕を掴み、引き寄せざまに腹部に膝蹴りをお見舞いし、流れるままに跳び上がって顔面に膝を入れた。


「うわぁ……モロだ」


 鼻血を噴き出しながら倒れていく仁志を見て、思わず声の漏れる梓。

 

 同じく「モロだ」と考えていた琴葉も顔が青ざめる。

 

 仁志は強烈な攻撃に失神していたが、直ぐに目を覚ますと立ち上がった。

 一番最初に視界に入ったのは、無傷で自分を見下す劉兎で、仁志は負けを悟る。


「オレは……どうして……クソが!」


 片手で頭を抱え、白いタオルをむしるように取る。

 

 露わになった鮮やかな青色の髪の毛を見て、(りゅう)を思い出した劉兎は、静かに眼を細めた。

 

 仁志は見られていることなど気にせず悔しさに苛まれ、音が鳴るくらい強く歯を食いしばる。

 

 そんな姿を哀れに思いつつ、手を伸ばしたくなった劉兎はその場に屈んだ。


「お前さ、もっと他人を受け入れたらどうだ? お前は俺達のことを『竜さんを忘れて遊ぶ愚か者』って思ってるみたいだけど、俺達も苦しい、悲しい過去を飲み込んで、受け入れて乗り越えるために戦ってるんだ」

「……ってるよ」

「俺達だって、竜さんのことを片時も忘れたことなんかない……だから強くなろうとしてる」


 俯き歯を食いしばり続ける仁志の表情は見えない。

 どうにか諭そうと言葉を選び続ける劉兎だったが、突然顔を上げた仁志を見て絶句した。

 

「分かってるよ!」


 仁志は泣いていた。


「分かってるから! オレはずっと辛いんじゃないかよ! 今だって、今だってなぁ! オレが弱いから! お前にすら勝てない!」


 仁志の慟哭を聞き、周りにいたメンバーも浮かない顔をする。

 そして仁志は蹲った。


「アニキィ……何で、何でオレを置いて逝っちまったんだよ……オレはまだ、アニキに教えて欲しいことが沢山……」


 皆が固唾を呑む中、仁志の嗚咽と風に揺れる草木の音だけが反芻する。

 

 劉兎は黙って仁志の姿を見つめ、おもむろに仁志の髪の毛を掴むと、力任せに顔を上げさせて仁志と目線を合わせる。


「いい加減にしろ!」

「……へ?」


 鼻水と涙と血でぐちゃぐちゃな顔をしている仁志に対し、劉兎の表情にあったのは純粋な怒り。

 

 突然のことで驚く仁志を置いて行くが如く、劉兎は言葉を紡ぐ。


「いつまでもウジウジと過去に縋ってんじゃねぇよ! 竜さんは死んだ! 受け入れろ! そして強くなるんだよ! お前は竜さんに何を教わった!? 過去に縋ってその場で脚踏みする方法か! 違うだろ!」


 依然止まらない涙を流しながらも、仁志は力強く首を振る。


「教わって……ねぇ!」

「だったら立ち上がれ! 悪霊退散会あくりょうたいさんかいとして戦っていくなら、そう簡単に涙は見せるな! 精神を強く保って戦うんだよ!」


 掴んでいた髪の毛を離し、その場に項垂れる仁志。

 しかし反発するように立ち上がると、雑に涙と鼻血を拭い、劉兎に向かって頭を下げた。

 

 その行動で戦闘の終了を察した劉兎は、仁志の肩を軽く叩いてその場を後にする。

 

「劉兎さん……彼は、変われたんですか?」


 琴葉に呼び止められて脚を止める劉兎。

 華鈴(かりん)に回復を施されている仁志を横目に、琴葉に向き直る。


「いいや……この戦いで俺に対する偏見は無くなったかもしれないけど、組織に対する偏見は、まだ残っているよ」


 首を振り、答えた劉兎は琴葉の言葉を待たずしてプレハブに帰っていく。


「それをどうにかしないと、俺達は奴には勝てないだろうな」


 空を見上げ、呟く。

 

 その背中を見つめていた琴葉だけが、その言葉を受け取っていた。

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