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霊ノ謳  作者: しろくろあめ
第6章 黄昏時に思い馳せ

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第73話 新しい風

 劉兎(りゅうと)達が仁志(ひとし)と一悶着している中、プレハブの食堂では琴葉(ことは)(あずさ)が何かをひそひそと話していた。


「何をしているんだい? 二人共」


 そこに現れたのは、自室で事務仕事を終えた幸太郎(こうたろう)

 

 幸太郎の登場に驚いた琴葉が小さい悲鳴を上げる。


「す、すまないね、急に。私が聞いてはダメな話だったかな?」

「い、いいえ! そんなこと無いです! むしろ私こそすみません変な声上げちゃって!」

「私が驚かしてしまっただけだからね、そこは気にしないでくれ。じゃあ改めて、何の話をしていたんだい?」

「これです!」


 お互い謝罪して微笑む幸太郎と琴葉。

 

 そんな二人に割り込むように、梓が一枚の紙を幸太郎に見せる。その紙には『みんなで温泉旅行しましょう!』と書かれていた。


「温泉旅行?」

「そうです! やっと霊界(れいかい)も復興してきて、ごたごたも終わった事ですし、新入会員も入るらしいじゃないですか! 歓迎会も含めて、皆で疲れを癒そうかなって!」

「ふーん……」


 顎に手を当てて少し思慮する幸太郎。

 梓の言う通り、ここ一週間はかなり忙しい日々だった。

ゆえに幸太郎もだいぶストレスがたまっており、優香(ゆうか)を祓除した今も、ピリピリした緊張の糸はほどけないでいた。

 

 しかし、この梓の少し能天気とも言える提案が、その糸をほどく。


「ダメ……ですか?」


 何も言わない幸太郎を見て、不安がる梓。

 幸太郎は数秒の逡巡の後、優しく微笑んだ。


「実は温泉旅行に適しているところが霊界にはあってね」

「本当ですか!」


 幸太郎の回答に承諾を察した梓は表情を明るくさせる。

 満面の笑みで幸太郎を加えた会議を進めていくと、食堂の扉が開かれた。


「戻りました」


 入ってきたのは萌葱(もえぎ)。劉兎と祥蔵(しょうぞう)と、そして仁志を連れて入る。

 

 仁志と目が合った琴葉と梓は、真新しさで目を輝かせるも、四人の持つ独特な空気感に首を傾げる。

 

 対する仁志は、そんな二人を一瞥すると鼻で笑ってみせた。


「連れてきてくれたんだね、萌葱」

「まぁ、一筋縄じゃなかったみたいですけどね」


 萌葱の言葉に理解できずに片眉を下げる幸太郎。

 

 同時に食堂に入ってきた華鈴(かりん)を見て、幸太郎はそのまま仁志を皆の前に促した。


「紹介しよう、新たな悪霊退散会メンバー雛野(ひなの) 仁志君だ。彼は、(りゅう)の後継者で、直々に訓練を受けていた弟分だ」


 幸太郎の紹介で頭を下げる仁志。

 けれども頭を上げた後の眼には憎悪が満ちていた。


「よろしくお願いします。雛野 仁志っす……てまあ、社交辞令はここまでってことで」


 仁志の目線が強くなり、皆の中で緊張が走る。

 同時に、空気が凍った。


「オレはここに居る奴らを全員許さない。オレのアニキ分の胡堂(こどう) 竜を殺したお前らを許さねぇ」


 皆の表情が固まる。幸太郎も同様に、鳩が豆鉄砲を食ったように目を丸くしていた。

 

 そこですかさず手を上げたのは、意外にも梓。


「ね、ねぇ! 歓迎会も称して明後日から温泉旅行に行くんだけど……」

「は? んなもん行くわけねぇだろ……つーか、アニキが死んで悔恨の中必死に鍛錬するわけでもなく、お前らは遊びに行くんだな? つくづくぬるい組織だな」


 梓の提案に食い気味で吐き捨てる仁志。皆の顔を一瞥することも無く幸太郎に向き直ると、冷たく「オレの部屋は?」と言い放つ。

 

 折角の提案を頭の先から折られた梓はあからさまに気を落とし、琴葉がそれを慰めていた。

 

 それを横目で見ていた劉兎は、音を立てて立ち上がると、仁志を睨みつける。


「粋がるなよ、雑魚」

「あ?」


 劉兎の言葉に、全員の視線が集まる。

 更に険悪化が予想できる言葉に、思わず幸太郎は小さい声を発して驚いていた。

 

 そして言われた本人である仁志は、すぐさまこめかみに青筋を立てて劉兎を睨む。


「粋がってんじゃねぇよ、雑魚」

「誰が雑魚だって?」

「お前に決まってんだろ、脳みそ詰まってんのか?」

「へぇ……悪霊退散会の悪霊さんが何を言うかと思えば」


 仁志の言葉に目を見開く劉兎。その反応を見て、仁志は口角を上げた。


「何で知ってるのか、って顔だな? 知らねぇわけねぇだろ? この組織に入るって決まってる幽霊だぞ」


 驚く劉兎をよそに、いたずらな笑みを浮かべたまま近づく仁志。


「ちょうどいいや、オレが除霊してやるよ、悪霊」

「上等だ、ガキ」


 煽るように両手をポケットに突っ込み、敢えて下から劉兎を睥睨する仁志。

 そんな仁志を見据えた劉兎は、負けじと見下していた。

 

 翌日、二人の決闘がここに決まった。

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