第63話 再会
「さて、簡易的に突入班と防衛班で分けたから、すぐに入るわよ」
煌びやかに光る【ゲート】の周りには、悪霊退散会と数名の軍神部隊員がカナデの指揮で集まっていた。
指示を出しているのは華鈴で、突入班には自身と劉兎、琴葉が選出された。
「他の皆は各地で防衛に当たって、もしかしたら、これは霊界と生界を行き来する長期戦になる」
【研ぎ澄まし】を発動し、白髪へと変化した華鈴。
そこに追随する形で劉兎と琴葉がゲートに進む。
華鈴に促され、先に入る二人。その刹那、ゲートからすれ違いざまに現れた無数の手が華鈴を襲った。
「これは――小人!」
現れたのは無数の小人。
即座に祓除に掛かるが、あふれるようにやってくる小人達に押され、華鈴はゲートに入れない。
そうこうしている内にゲートは閉じられ、早々に分断が始まった。
「華鈴さん!」
「私のことはいいわ萌葱! 軍神部と連携して次の発生予測地点に急いで!」
駆け寄る萌葱を止め、小人を葬っていく。
軍神部が手に持つのは、技師が作成したゲートの発生予測ツール。
その内実は、霊界で黒い霊力が増えた場所をリアルタイムで観測するだけだが、それだけでも何もないよりかはマシであった。
予測された地点に向かう萌葱達。
小人を全て祓除すると、華鈴も次いでその場を軍神部に預け、移動を始めた。
「やられた! 華鈴さん!」
閉じられたゲートを見つめ、悪態を吐く劉兎。
即座に連絡を取ろうとするものの、真横に炎が通った事ですぐに振り返る。
そこに居たのは、炎を全身にまといながら、ミヂミヂと音を立てる不気味な悪霊だった。
「ゲートの悪霊じゃないな!」
「気を付けて! あの火、普通じゃないです!」
飛ばされた火の玉を刀で弾き飛ばし、直ぐに戦闘態勢を整える劉兎。
迫る第二波を矢で相殺する琴葉だったが、先程避けた火の玉が燃え続けていることに気付く。
「消えない炎か、やっかいだな」
「おおかた、火災で亡くなった幽霊でしょうか、炎に苦しんでいるようにも見えます」
「……苦しんでいるなら、直ぐに祓ってやらないとな」
地を蹴り、走り迫る劉兎。
悪霊は呻き声を上げながら三発の火の玉を繰り出すものの、そのうちの二つが琴葉の矢によって相殺され、さらにもう一つも劉兎によって両断される。
慌てて全身から炎を噴き出す悪霊だったが、次いでやってきた琴葉の矢が心臓を貫き、動きを停止した。
「悪ぃな――『迅』」
動きを止めた悪霊の首を、すれ違いざまに『迅』で落とす劉兎。
突然燃え上がった悪霊はそのまま地面に伏し、霧散を始めた。
「今回は正式な任務じゃない。黒い結界がない可能性がある。霊力は全身にまとい続けよう」
霧散していく悪霊をよそに、霊力状態を確認する二人。
ゲートの先に悪霊が居るとは限らず、黒い結界が張り巡らされている確証がない今、うかうかとしれいられなかった。
しかしその瞬間、劉兎の背後に人影が現れる。
「劉兎さん! 後ろ!」
劉兎が反応するよりも早く、触手のようにうねる何かが劉兎を襲う。
ギリギリ防御が間に合った劉兎だったが、押される力には勝てず突き飛ばされてしまう。
バックステップで距離を取った琴葉は、そのまま弓を番える。
現れたのは、まるで壊れかけの糸人形のようにぎこちない動きをする、少女の悪霊だった。
「アアアッ!」
「正気じゃない……小人? 悪霊? どっち――」
覚束ない足取りで琴葉に迫る悪霊。
けれどもその背中からは触手が生えて、琴葉に威圧を掛けている。
一撃で仕留めるために十分な距離での攻撃を望む琴葉だったが、悪霊の顔を見るや否や、絶句した。
「琴葉!?」
戻ってきた劉兎が驚きを隠せず声を上げる。
だがその声は琴葉には届かない。
「嘘……嘘よ、なんで、何であなたが」
琴葉の目の前まで到達する悪霊。
触手は直ぐに琴葉を攻撃しようと動くものの、その動きは空中で停止する。
そして、悪霊と相対する琴葉。その顔には見覚えがあった。
「なんで……優香が……?」
「琴葉……助けて……」
悪霊の名は結城 優香。琴葉の生前の親友である。
整えられていたミディアムヘアな茶髪も、綺麗だった茶色の眼もどす黒く漆黒に染まっているが、その顔と声は優香そのものだった。
驚きを隠せない琴葉だったが、直ぐに切り替えて再度バックステップで距離を取る。
待ち受ける現実に涙を滲ませるが、それでも弓を構えた。
「優香、何で死んじゃったの? あの時、私はあなたを守ったはず」
大きく息を吐き、流れる涙を乱雑に拭う。
劉兎も意図を察知し、駆けだそうとした足を一旦止めた。
しかし、優香は気にせず琴葉に迫る。
「待って、そこで止まって……これ以上近づくとあなたを撃つことになる」
「何言っているの……? 助けてよ……それに、元はと言えばアンタが、アンタガァ!」
突然発狂した優香は、背中に生える触手で地面を叩いて跳び上がる。
同時に放った琴葉の矢は優香の真下を通過し、攻撃を仕掛けてきたのを見ると、口角を上げる。
驚く琴葉をよそに、触手を琴葉の足元に刺した優香は、即座に巻き取って琴葉に接近、そのまま体当たりをして突き飛ばす。
地面をころがった後、四つん這いで咳込む琴葉を、追撃で蹴り飛ばす優香。
「助けて助けて助けてよォ!」
「くっそ! 近づけん!」
琴葉を助けるべく地を蹴った劉兎だったが、狂ったように触手を伸ばして四方を攻撃する優香に近づけない。
更に、触手を伸ばす度に全身を破壊している優香は、生々しい音と血液を飛ばしていた。
それでも迫る触手を往なし、走り迫る劉兎。
しかし、突然顔を手で覆う優香。
劉兎の刀が優香の頸に触れようとしたその瞬間、さらに背中から生えた二本の触手が劉兎を貫いた。
「劉兎さん!」
「このやろッ!」
けれども、ただ刺されただけではやられない劉兎。
ナイフを創造して優香の背中に投げ刺し、爆発させることで触手を切り離す。
身体に二つの穴が開いた事すら気に留めず、霧散していく触手の霊力を取り込んで回復に掛かる劉兎。
そんな中、突然優香の前にゲートが現れた。
「コイツがゲートの悪霊か!」
「まさか……なんで優香が……?」
口を開けるゲート。咄嗟にナイフを投げる劉兎だが、触手に阻まれてしまう。
傍らでナイフが爆発する中、逃げるようにゲートに入る優香。
優香を入れたゲートは、直ぐに扉を閉じていく。
「追いかけろ!」
「はっ、はい!」
劉兎の叱責で走る琴葉。
ギリギリゲートが消えるよりも前に跳び込めたものの、消えゆく景色の中で琴葉が最後に見たのは、謎の小人に首を掴まれている劉兎だった。




