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霊ノ謳  作者: しろくろあめ
第5章 悪霊の友

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第63話 再会

「さて、簡易的に突入班と防衛班で分けたから、すぐに入るわよ」


 煌びやかに光る【ゲート】の周りには、悪霊退散会あくりょうたいさんかいと数名の軍神部(ぐんしんぶ)隊員がカナデの指揮で集まっていた。

 

 指示を出しているのは華鈴(かりん)で、突入班には自身と劉兎(りゅうと)琴葉(ことは)が選出された。


「他の皆は各地で防衛に当たって、もしかしたら、これは霊界(れいかい)生界(せいかい)を行き来する長期戦になる」


 【研ぎ澄まし】を発動し、白髪へと変化した華鈴。

 そこに追随する形で劉兎と琴葉がゲートに進む。

 

 華鈴に促され、先に入る二人。その刹那、ゲートからすれ違いざまに現れた無数の手が華鈴を襲った。


「これは――小人!」


 現れたのは無数の小人。

 即座に祓除に掛かるが、あふれるようにやってくる小人達に押され、華鈴はゲートに入れない。

 

 そうこうしている内にゲートは閉じられ、早々に分断が始まった。


「華鈴さん!」

「私のことはいいわ萌葱(もえぎ)! 軍神部と連携して次の発生予測地点に急いで!」


 駆け寄る萌葱を止め、小人を葬っていく。

 

 軍神部が手に持つのは、技師(ぎし)が作成したゲートの発生予測ツール。

 その内実は、霊界で黒い霊力が増えた場所をリアルタイムで観測するだけだが、それだけでも何もないよりかはマシであった。

 

 予測された地点に向かう萌葱達。

 小人を全て祓除すると、華鈴も次いでその場を軍神部に預け、移動を始めた。





「やられた! 華鈴さん!」


 閉じられたゲートを見つめ、悪態を吐く劉兎。

 即座に連絡を取ろうとするものの、真横に炎が通った事ですぐに振り返る。

 

 そこに居たのは、炎を全身にまといながら、ミヂミヂと音を立てる不気味な悪霊だった。


「ゲートの悪霊じゃないな!」

「気を付けて! あの火、普通じゃないです!」


 飛ばされた火の玉を刀で弾き飛ばし、直ぐに戦闘態勢を整える劉兎。

 

 迫る第二波を矢で相殺する琴葉だったが、先程避けた火の玉が燃え続けていることに気付く。


「消えない炎か、やっかいだな」

「おおかた、火災で亡くなった幽霊でしょうか、炎に苦しんでいるようにも見えます」

「……苦しんでいるなら、直ぐに祓ってやらないとな」


 地を蹴り、走り迫る劉兎。

 悪霊は呻き声を上げながら三発の火の玉を繰り出すものの、そのうちの二つが琴葉の矢によって相殺され、さらにもう一つも劉兎によって両断される。

 

 慌てて全身から炎を噴き出す悪霊だったが、次いでやってきた琴葉の矢が心臓を貫き、動きを停止した。


「悪ぃな――『(じん)』」


 動きを止めた悪霊の首を、すれ違いざまに『迅』で落とす劉兎。

 

 突然燃え上がった悪霊はそのまま地面に伏し、霧散を始めた。


「今回は正式な任務じゃない。黒い結界がない可能性がある。霊力は全身にまとい続けよう」


 霧散していく悪霊をよそに、霊力状態を確認する二人。

 ゲートの先に悪霊が居るとは限らず、黒い結界が張り巡らされている確証がない今、うかうかとしれいられなかった。

 

 しかしその瞬間、劉兎の背後に人影が現れる。


「劉兎さん! 後ろ!」


 劉兎が反応するよりも早く、触手のようにうねる何かが劉兎を襲う。

 

 ギリギリ防御が間に合った劉兎だったが、押される力には勝てず突き飛ばされてしまう。

 

 バックステップで距離を取った琴葉は、そのまま弓を番える。

 現れたのは、まるで壊れかけの糸人形のようにぎこちない動きをする、少女の悪霊だった。


「アアアッ!」

「正気じゃない……小人? 悪霊? どっち――」


 覚束ない足取りで琴葉に迫る悪霊。

 けれどもその背中からは触手が生えて、琴葉に威圧を掛けている。

 

 一撃で仕留めるために十分な距離での攻撃を望む琴葉だったが、悪霊の顔を見るや否や、絶句した。


「琴葉!?」


 戻ってきた劉兎が驚きを隠せず声を上げる。

 だがその声は琴葉には届かない。


「嘘……嘘よ、なんで、何であなたが」


 琴葉の目の前まで到達する悪霊。

 触手は直ぐに琴葉を攻撃しようと動くものの、その動きは空中で停止する。

 

 そして、悪霊と相対する琴葉。その顔には見覚えがあった。


「なんで……優香(ゆうか)が……?」

「琴葉……助けて……」


 悪霊の名は結城(ゆうき) 優香。琴葉の生前の親友である。

 

 整えられていたミディアムヘアな茶髪も、綺麗だった茶色の眼もどす黒く漆黒に染まっているが、その顔と声は優香そのものだった。

 

 驚きを隠せない琴葉だったが、直ぐに切り替えて再度バックステップで距離を取る。

 待ち受ける現実に涙を滲ませるが、それでも弓を構えた。


「優香、何で死んじゃったの? あの時、私はあなたを守ったはず」


 大きく息を吐き、流れる涙を乱雑に拭う。

 劉兎も意図を察知し、駆けだそうとした足を一旦止めた。

 

 しかし、優香は気にせず琴葉に迫る。


「待って、そこで止まって……これ以上近づくとあなたを撃つことになる」

「何言っているの……? 助けてよ……それに、元はと言えばアンタが、アンタガァ!」


 突然発狂した優香は、背中に生える触手で地面を叩いて跳び上がる。

 同時に放った琴葉の矢は優香の真下を通過し、攻撃を仕掛けてきたのを見ると、口角を上げる。

 

 驚く琴葉をよそに、触手を琴葉の足元に刺した優香は、即座に巻き取って琴葉に接近、そのまま体当たりをして突き飛ばす。

 

 地面をころがった後、四つん這いで咳込む琴葉を、追撃で蹴り飛ばす優香。


「助けて助けて助けてよォ!」

「くっそ! 近づけん!」


 琴葉を助けるべく地を蹴った劉兎だったが、狂ったように触手を伸ばして四方を攻撃する優香に近づけない。

 

 更に、触手を伸ばす度に全身を破壊している優香は、生々しい音と血液を飛ばしていた。

 それでも迫る触手を()なし、走り迫る劉兎。

 

 しかし、突然顔を手で覆う優香。

 劉兎の刀が優香の頸に触れようとしたその瞬間、さらに背中から生えた二本の触手が劉兎を貫いた。


「劉兎さん!」

「このやろッ!」


 けれども、ただ刺されただけではやられない劉兎。

 ナイフを創造して優香の背中に投げ刺し、爆発させることで触手を切り離す。

 

 身体に二つの穴が開いた事すら気に留めず、霧散していく触手の霊力を取り込んで回復に掛かる劉兎。

 

 そんな中、突然優香の前にゲートが現れた。


「コイツがゲートの悪霊か!」

「まさか……なんで優香が……?」


 口を開けるゲート。咄嗟にナイフを投げる劉兎だが、触手に阻まれてしまう。

 傍らでナイフが爆発する中、逃げるようにゲートに入る優香。

 

 優香を入れたゲートは、直ぐに扉を閉じていく。


「追いかけろ!」

「はっ、はい!」


 劉兎の叱責で走る琴葉。

 

 ギリギリゲートが消えるよりも前に跳び込めたものの、消えゆく景色の中で琴葉が最後に見たのは、謎の小人に首を掴まれている劉兎だった。

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