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霊ノ謳  作者: しろくろあめ
第5章 悪霊の友

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第60話 悪霊憑依

「何だ!? また襲撃か!」

「総員戦闘準備!」


 瓦礫を片付けていた劉兎(りゅうと)達。

 

 突然聞こえた爆発音に、その場に居た軍神部(ぐんしんぶ)隊員含めた全員が戦闘態勢を取る。


「爆発!?」

華鈴(かりん)! 下がってくれ! 私が出る!」

「大丈夫です! ここはアタシが!」


 時を同じくて、爆発の渦中となった悪霊退散会あくりょうたいさんかいでも、残っていた幸太郎(こうたろう)、華鈴、萌葱(もえぎ)がそれぞれ戦闘態勢を取る。

 

 幸太郎の制止を振り切り、飛び出した萌葱は霊器(れいき)を握り、爆煙漂う部屋へと突入する。

 切っ先を構え、鋭い目つきで睨む萌葱だったが、爆心地で呆然とする(あずさ)を見て、訝しみながら刀を下ろした。


「……何してる、梓。随分と騒がしい目覚めじゃないか」

「えっと……えーっと……スミマセン」


 呆れたように視線で刺す萌葱。

 

 梓は数秒硬直していたが、夢の中での月音(つきね)との邂逅、そして今自分の身に起きたことを思い出すと、縮こまりながら俯く。


「また襲撃ですか!」

「今回は市街地には悪霊は発生しておりません! 恐らく残党……ここで祓いましょう! バックアップします!」


 そんなこととは露知らず、悪霊退散会に続々と集まる軍神部隊員達。

 

 遅れて昴流(すばる)を背負った祥蔵(しょうぞう)まで現れると、ゆっくりと爆煙から萌葱が現れる。

 

 梓の襟を掴んで。


「……梓?」

「おい、なんとか言ったらどうだ」

「スミマセン……アタシデス」


 今にでも涙が流れそうなほど萎縮した梓が、萌葱に持ち上げられたまま謝罪をする。

 

 張り詰めていた空気が段々と絆されていくが、同時に梓へ多方面からの視線が襲う。


「いい加減にしてくださいね!」

「ハイ……ホントウニゴメンナサイ……」


 やがてやってきたのは、軍神部の建築部。

 復興が続く中、優先的にプレハブの修理にやってきてはくれたものの、その表情は怒りに満ちている。

 

 ガミガミと文句を言われ、縮こまる梓が謝罪を繰り返しながら、小さな襲撃未遂事件は幕を閉じた。




「さて、梓の良い目覚ましのおかげでそろそろ皆起きたところだろう」

「いやもう本当に、どう謝罪したらいいか……」


 プレハブの修理を終え、仮であてがわれている会議室に、全員が集まる。

 

 幸太郎が前に立ち、全員に視線を合わせる。

 

 誰の表情も暗く、酷いものであるのを確認すると、横で正座する梓に席に座るように促し、会議を始めた。


「まず、分かっていると思うが、今回霊界(れいかい)に悪霊が出現し、突如して襲撃された。我々も死力を尽くして戦ったが、尊い犠牲もあった」


 幸太郎の言葉に俯く劉兎。

 頭の中に浮かんでいるのは、もちろん(りゅう)。そして横目で萌葱の顔色を伺い、小さくため息をついた。


胡堂(こどう) 竜。皆もよく知っていると思うが、今回はその話ではない。申し訳ないが、竜の死を悼むのはまた今度にしてくれ。今回はこの襲撃で得たいくつかの情報を共有する。主に話すのは三点」


 指を三本立てて表す幸太郎。

 

 劉兎含め、皆が竜の話だと思っていたため拍子抜けする。

 しかし、幸太郎はそのまま続けた。


「まず一点目、この襲撃事件はまだ終えていない。襲撃の開始となったのは月音の悪霊化だが、本当の元凶は別に居る」

「……本当の元凶?」


 オウム返しする梓に頷く幸太郎。


「今回戦闘後の調査を行っていた軍神部が発見した。どうやら月音の悪霊化にあやかるように、悪霊を霊界に忍ばせたのは、【ゲート】を使う特殊な悪霊だ」

「ゲートを使う……!? あれって、華鈴さんしか使えないのでは!?」


 立ち上がる萌葱。

 

 ゲートを開くことができる幽霊はかなり特殊となっており、使役できる華鈴でも【神様】の許可なしに開くことはできない。

 

 そのゲートを、あまつさえ悪霊が開いた。その事実が焦燥を加速させる。


「ああ、十中八九霊の歌の息がかかっている悪霊だろう。そして二点目。今回襲撃して来た悪霊についてだ」


 指を二本立てる幸太郎。全員の表情が引き締まる。


「今回、この霊界を襲ったのは無数の小人と【バラクラバ】と呼ばれる特別な悪霊達だ」

「あのよく分からない奴らですか」


 呟くように話す祥蔵(しょうぞう)に、幸太郎は同意した。


「奴らはドイツ語の一から十までの名を冠し、霊の歌の加護を受けた特殊な悪霊だ。だからこそここまでの被害になった」

「ここでも霊の歌かよ……」

 

 実際に遭遇していない劉兎は伝聞でしか聞いていない。

 しかし、実際に霊界に帰ってきたときに見た戦禍で、とてつもない戦いだったと察していた。


「そして三つ目、梓の変化と、私の左腕について」


 突然呼ばれ、驚きから立ち上がる梓。

 全員の視線が集まり、頬を赤く染める。


「先程梓が突然爆発したが、それは霊力の暴発ではない。梓は【悪霊憑依】に覚醒した」

「悪霊憑依……?」


 当の本人である梓でさえ首を傾げている。

 聞きなじみのない、それでいて不穏な単語に、空気がさらに重くなる。


「今回梓に起きた変化、それは月音の意志と力を引き継ぐものだ」

「意志と……力」


 両手を見て、自身の変化を再確認する梓。

 そんな梓を、少しだけ訝しみながら、劉兎は見つめていた。


「悪霊憑依って、すごい不気味な名前ですけど、梓は月音に乗っ取られたりしないんですよね?」

「そこは安心していいよ劉兎君。名前は仰々しいが、いわば悪霊を取り込んで自分の力として行使するものだ。むしろこれは梓の強化につながるよ」

「月音は感じるのか、梓」

「うん、実はさっきの爆発の前、あたし月音と夢の中で話してたの……それで、いつでもあたしのことを支えてくれるって言ってた」


 そうか、ならいい。と心配そうに見つめていた祥蔵は押し黙る。


「本来、このような形での悪霊憑依は成し得ない。基本的には悪霊を無理矢理取り込んで、力技で調伏するのがセオリーだ。今回、月音の暴走で様々な損失が出たが、梓の強化という面で見れば、それは利益だった」


 そして……。と続けざまに左腕を上げる幸太郎。

 

 ゆっくりと着用していた手袋を外すと、そこには痛々しい傷の痕が特徴的な、変色した腕が現れる。

 空気に緊張感が走り、小さい悲鳴を上げた梓はその場に着席する。

 

 そして何よりも、劉兎の眼には、あふれるように漏れる()()()()が見えていた。


「なん……ですか、それ」

「これは、()()()()()()()。三〇年前、霊の歌との大抗争で奴からもぎ取った左腕だ」

「霊の歌の、左腕……!?」


 驚きと慄きが同時に襲い、動揺が隠せない劉兎。

 幸太郎の左腕から感じるプレッシャーに、身体が震えていた。


「これが本来あるべき悪霊憑依の姿だ」

「……でもさっき、会長さんは言ってましたよね? ()()()()()()()()()調()()()()って……相手が霊の歌ならそんな事できるんですか?」

「鋭いね、その通りだよ劉兎君。この左腕は常に霊の歌と共鳴しているらしい。だから今回の霊界襲撃事件も、実は奴が私の腕を経由して情報を知っていたことになる」


 空気が硬直する。全員の表情も固まった。

 左手に手袋を着け直し、頭を下げた。


「申し訳ない。私も知らなかったことだった。我々は会長である私の所為で、掌の上に乗せられていた」


 重々しい空気は続く。

 しかし、幸太郎は頭を上げると、強く眼を据えた。


「だが、逆に言えば私に左腕があることで、奴の情報も仕入れることができるということ。この機会を逃すわけにはいかない。左腕が私のものとして顕在してる限り、奴は弱体化し続けている」

「……霊の歌くらいなら、左腕なんてすぐに作れるのでは?」

「それは、斬り落とされて霧散した場合だ」


 訝しむ目線を隠さない劉兎にも、真摯に対応する幸太郎。

 

 疑念点が全て払拭されたわけではない。しかし今回の襲撃事件は様々な原因が複合的に発生したもので、幸太郎だけが原因とも言えない。


「よし、方針を決めるよ。まずはゲートを使う悪霊を早急に見つける事、そして見つけ次第、祓うんだ」


 強く据わった眼が劉兎を射る。

 気圧されて眉をしかめた劉兎は、観念して頷いた。

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