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霊ノ謳  作者: しろくろあめ
第4章 霊界襲撃

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第58話 想いは交差して

 火の手は収まり、瓦礫を片付けるだけとなった霊界(れいかい)で、淡々と瓦礫を運んでいく劉兎(りゅうと)

 

 軍神部(ぐんしんぶ)との合同で行われている活動中、劉兎の視線が一点に釘付けになる。

 

 そんな劉兎を傍らで見ていた琴葉(ことは)は、おもむろに近づいて話しかける。


「劉兎さん……?」

「なに?」

「いや、何を眺めているのかな、と」

「仕事しろって?」


 冷たい劉兎の返しに、大げさに首を横に振って否定する琴葉。

 既に活動を始めてから二時間が経過しており、お互いの顔には疲労が見て取れる。

 

 視線は変わらず一点を見つめていたが、琴葉の否定を受けると、視線を琴葉に移し、頭を抱えた。


「ごめん、気が立ってた」

「いいえ、大丈夫ですよ……でも、一体何を――」


 劉兎の視線を追い、固まる。

 

 琴葉の視線の先に居たのは萌葱(もえぎ)

 

 まるで「誰も話しかけるな」と言わんばかりにオーラを出す萌葱は、一人淡々と瓦礫を移動させていた。

 

 その顔は劉兎達と同じく、死んでいる。


「あ……」

「会長……」


 そんな萌葱にも果敢に話しかけるのは幸太郎(こうたろう)

 しかしそこに普段の優しい微笑みは無く、ただ淡々と、真顔で短く何かを伝え合う姿を見て、逆に居た堪れなくなった琴葉は視線を逸らした。


「私達は、一体何をやっているんでしょう」

「馬鹿らしいと思った?」

「いえ……」

「俺は思ったよ。一体何をさせられているんだろうって……それに、まだ(りゅう)さんが消えたって実感が沸かないな。今でも、ゲートで戻って来るんじゃないかって思う」


 劉兎の視線を追う琴葉。視線の先にあるのは壊れた建物達。

 

 火で燃やされ、焦がされ、人々の血に塗れたそれは、元々は何だったか検討すらつかない。

 

「薄々気づいてたけど、萌葱さんて竜さんのこと、好きだったんだよな」

「そうですね……おっしゃってました」

「それなのに、俺は、萌葱さんに竜さんを……殺させたのか」


 事実を再確認し、頭を押さえる。

 肩を震わした劉兎は、静かにその場にしゃがみ込んだ。




「……状況は」

昴流(すばる)!」


 復興作業を続ける軍神部(ぐんしんぶ)の下に現れた昴流。

 華鈴(かりん)によって回復を施された後、昏睡状態だったものの、意識を取り戻して直ぐに合流を果たす。

 

 そんな昴流を見て表情が明るくなったカナデと、数名の軍神部隊員達。

 昴流の下に集合すると、かいつまんで状況の説明をした。


「……そうか、悪霊退散会あくりょうたいさんかいも深手を……しかも俺達軍神部は一部隊丸々無くなってしまったのか」

「うん……今消えた第五部隊の反応があった場所に向かうつもりだったの」

「最後の反応はどこだ?」

「霊界の南側――その端っこ」


 カナデ達がその話をしている中、件の霊界の端は壊滅的状況だった。

 

 無惨に蹂躙されたその土地は、もはや復興すらままならない程壊されていて、瓦礫に潰されて動けない軍神部隊員が一人呻いている。


「伝え……ないと、香月(かづき)隊長に……伝え、ないと!」


 声を発する度、喉から押し寄せる血液に咳き込む。

 耐えきれず吐き戻すも、一向に無くならない異物感に隊員は眉をしかめていた。

 

 それでも誰かに届けばいいと、その思いで声を上げる。


「ゲート……ゲートを使う悪霊が――」


 しかし、その思いも阻まれるように、大きく吐血する。

 

 吐き出された血液は血溜まりを作り、およそ人の身体から出してはいけない量が溜まっていた。

 

 やがて、呼吸すらままならない程衰弱した隊員は、静かに事切れる。

 

 昴流達が到着したのは、隊員が霧散してから一時間半後だった。


「……すまない、すまないッ!」

「一体何が……何があったの?」

「全員、なにか手がかりがないか探せ! 今この場で、バラクラバ以外の脅威があると言う前提で動く!」


 簡易的な小隊を指揮し、霊界南側、その端の端へ訪れるも、そこは既にもぬけの殻。

 昴流達が周りを見渡し、色々精査するも、残っているのは血溜まりのみ。

 

 その中で、カナデが奇妙なものを見つける。


「これって、まさか――」




 その頃、簡易的なプレハブが完成したことにより、復興も半ばであるが、悪霊退散会全員がそこに集結した。

 

 もちろん、全員の顔は晴れない。


 軍神部、および悪霊退散会、そして霊界の住人によって復興は続く。

 しかし軍神部の緻密な調査で、事実上脅威は去ったと認識された。


 今回のこの襲撃事件は、未曾有の大災害として【神様】から直々に通達が降りる。

 

 霊力の消費、および強制的な転生者は、この日だけで百人を超え、負傷者は重軽問わず、五百人に昇る。

 霊界全体が壊滅的被害に遭い、特に南側の端から中心部に掛けては徹底的に破壊し尽くされていた。


 軍神部でも南側の調査に当たっていた第五部隊全員が【殉職】。また、その他複数名が同じ道を辿る。悪霊退散会でも一名が【引退】となった。


 殉職も転生も引退も、全て同じ意味であるが、この言葉の違いには、各々の組織の誇りがあった。


 そして、夜は明けていく。


「よし、お疲れ様。みんな、各々の部屋が確保されているはずだから、ゆっくり休みなさい。今後の活動方針と内容は、また後日連絡する」


 幸太郎(こうたろう)の指揮の下、全員が死んだ顔のまま無言で自室に向かっていく。

 詰所と同じ形で作られたプレハブは、横に長いものである。しかし部屋の大きさは以前の詰所より狭く、心休まるものではなかった。

 

 それでも疲労がピークに達していた劉兎は、ベッドを見るや否や、そのまま倒れ込む。


「……慣れないね、この瞬間は」

「そうね……幸ちゃん」


 去っていく仲間達の背中を追いながら、呟く幸太郎。

 そんな幸太郎の憂いげな顔を見て、華鈴もまた表情を曇らせる。


「すみません、お休み中のところ失礼します」

「……どうしたんだい?」


 そんな二人の下にやってきたのは、昴流。

 

 目の下に隈を作り、疲労が隠せない表情ながら、肩で息をしながらもやってきた姿に、すぐさま幸太郎は椅子に座らせる。

 

 華鈴に飲み物を用意させ、自分も対面の座席に座った。


「単刀直入に言います。今回の元凶が何か、わかりました」

「……聞こうか」


 机の上に置かれたペットボトルを一瞥し、飲み干す。

 そして一息つくと、昴流は口を開いた。


「ゲートを使った形跡がありました。信じられませんが、悪霊はここの座標を掴み、ゲートを使役してきたのです」

「ゲートを……!?」


 昴流の発言に驚きを隠せない幸太郎。

 生界(せいかい)と霊界を繋ぐ架け橋であるゲート。

 しかしそれを使えるのは悪霊退散会でも華鈴だけであり、幸太郎ですらその使役はできない。


 それが今回、悪霊の中で現れてしまった。そして、まだ祓除は完了していない。


「……休んでる暇は無さそうだね」


 疲労、悲哀、後悔、様々な負の感情に囚われている悪霊退散会だが、戦いはまだ終わらない。

 

 休んでは、居られなかった。

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