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霊ノ謳  作者: しろくろあめ
第4章 霊界襲撃

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第55話 胡堂 竜

「なんか……ヘンな感じだな、これが【研ぎ澄まし】か?」


 青色の髪の毛と決別するように変化した白髪。目の色は更に蒼く輝き、燃え上がる霊力は白く煌く。

 

 その上、おびただしく身体についていた傷は全て治り、全回復した(りゅう)

 

 竜は【研ぎ澄まし】へと覚醒していた。

 この土壇場で、霊力が更に上へと進化したのだ。


「お手並み拝見と行こうか」


 竜の変化に昂りながら、手を翳す霊の歌。

 掌から繰り出された黒い霊力は、塊となって竜を襲う。

 

 しかし、迫る霊力の塊を見てもなお冷静な竜は、片手を向けるだけでそれを相殺した。


「……ほう」

「お前、雑な攻撃だな。しかも漆黒の怒槌(いかづち)でもない。さては霊力がすっからかんだろ」

「だったらなんだい?」


 竜の考察を聞き、それでも薄ら笑いを貼り付けた顔を続ける霊の歌。

 

 その表情に憤慨することもなく、拳を構えると強く前へ踏み込んだ。


「お前はやはり本調子じゃないってことだ。オレの【研ぎ澄まし】でも十分祓える!」


 竜の燃え上がる霊力が更に燃える。

 廃墟の天井を突き抜ける勢いで出力されるそれを見て、霊の歌の表情が真顔に変わった。

 

 そんな機微に一々反応しない竜は、倒れるように前方に重心を寄せると、霊の歌の視界から姿を消す。


「なっ――」


 驚く霊の歌に対し、竜が現れたのは霊の歌の背後。

 気づいた霊の歌が振り返る暇も無く、淡々と蹴り飛ばす。

 

 蹴るだけでは物足りなかった竜は、そのまま地を蹴り、飛ばされた霊の歌を追いかけた。


「だいぶ早くなったじゃないか」


 しかし霊の歌にダメージはない。壁に激突して停止すると、迫る竜に向かって霊力の塊を繰り出す。

 直前で放たれた塊を避けることもできず、ギリギリ腕での防御を間に合わせた竜は衝撃で突き飛ばされた。

 

 同時に廃墟が半壊し、元々開いていた穴に吸い込まれる勢いで二人は空中に投げ出された。


「さて、避けられるかな!」


 空中でも調子を崩さない霊の歌は、まるで気にすることなく塊を幾つも創り出し、竜に繰り出していく。

 対する竜も迫る塊を視認し、正確に無駄なく砕いていく。

 

 深淵とも取れる穴に落ちながらその攻防を繰り返すこと数秒、竜の視界を塞ぐように放たれた塊は、一瞬だけ竜の視界を覆った。

 

「マズッ!」

「残念、もう遅い」


 乱雑に塊を払うも、既に竜の目の前には大口を開ける謎の肉塊。

 霊の歌から生えるその触手の様なものは、まるで一つの生物のように口を生成し、竜を飲み込む。


「こざかしい!」


 けれど、飲み込まれた直後、即座に攻撃に転じた竜は、触手を内部から破壊する。

 弾け飛ぶ触手に対し、既に竜に肉薄していた霊の歌は、竜の防御も厭わず殴り飛ばす。

 

 もはや半壊した部屋に留まる理由も無く、殴り飛ばされた竜は付近の林に着地する。

 

 そして、竜の視界には落ちてくる霊の歌。すかさず両手を翳し、受け止める。

 バチバチと二人の霊力がせめぎ合い、スパークを起こしていた。


「さあ、ボクについて来なよ!」

「いつまでその飄々とした態度ができる!」


 組んでいた腕を捻り、霊の歌を空中に放り返す竜。凄まじい速度で構えを取ると、霊の歌が落ちてくるよりも早く、腕を旋回しながら掌底を繰り出した。

 

 空間ごとねじるような衝撃に、落ちるどころか更に突き飛ばされる霊の歌。全身に切り傷を負いながら着地するも、眼前には衝撃波。

 

 竜の繰り出した拳圧をまともに喰らった霊の歌は、地面に後頭部を打ち付けることとなる。


「このボクを倒れさせるとは……やるね」

「まだ終わってねえぞ!」


 すぐに立ち上がる霊の歌だが、そこに迫る竜の拳圧。

 幾つかを防ぎ、腕に霊力を集めると、不可視の壁を作り拳圧を受け止めた。

 

 舌打ちをしながら接近を図る竜に対し、短く息を吐きながら足首を捻り、音を鳴らす霊の歌。


「じゃあもう少し、本気を出すことにするよ」

「ッ!」


 刹那、接近を図る竜よりも早く肉薄した霊の歌。驚きつつもフロントキックで応戦する竜だったが、蹴ったのは残像。本物の霊の歌は竜の背後に移動していた。

 

 背後の気配に竜が気づくよりも早く、襲うのは蹴り。

 蹴り飛ばされた竜はとてつもない速度で半壊した廃墟の地面に突っ込み、直ぐに起き上がるも顔面を霊の歌に踏まれて地に伏す。


「残念だけど、いくらボクが本調子じゃないからって、成りたての【研ぎ澄まし】に負けるほど甘くないんだよ」


 顔を踏む脚に力が入る。竜の頬骨を簡単に砕く圧に、思わず竜は呻き声を上げる。

 そして竜の頭を掴み、持ち上げると、離すと同時に正拳突きを繰り出し、殴り飛ばした。

 

 壁に当たり、重力に従って倒れようとする竜を膝蹴りで受け止め、うなじに肘打ちをすることで地面に倒れさせる。

 

 そのまま地面に倒れた竜の上に乗り、左腕を折ってしまった。

 叫ぶ竜。霊の歌は狂ったように嗤っていた。


「愚かだ! ああ! 本当に愚かだな君たちは!」


 叫ぶ竜を蹴り飛ばし、右手に黒い霊力を集約させる。

 痛みに悶え、額に脂汗を滲ませながらも、何とか立ち上がった竜は、霊の歌が怒槌の準備をしていることを察し、直ぐに霊力を高めることを選ぶ。


「愚かだろうが何だろうが、それはお前を逃がす理由にはならない!」


 白い霊力が更に出力を増す。折れた左腕は直ぐには治らないが、それよりも竜はすべきことがあった。

 

 右拳を強く掴み、構える。

 

 そう、正拳突きの構えだった。


「最初から勝てないとは思っていたさ」

「へえ、じゃあなぜ戦うことにしたんだい?」


 口から大量の血液を流しながら、竜は笑う。

 その表情を見て、霊の歌から笑みが消えた。


「聴こえるか、()()()()()()()()

「足音……まさか!」


 耳を澄ます霊の歌。聞こえたのは三人の足音。

 劉兎(りゅうと)達のものである。


「なるほどな、お仲間を呼ぶための時間稼ぎか」

「そうだ。でももう遅いぜ、お前はもう、オレの『正拳一閃』からは逃れられない」


 言い終わると共に地を疾駆する竜。構えられた右拳に白い霊力が集約し、更に更に光り輝く。

 

 霊の歌も同様に怒槌を構えていた右腕に霊力を集めるも、その輝きに息を呑む。


「まさか……極彩色(ごくさいしき)か!」

「気づいても遅え!」


 肉薄する両者。互いの拳が互いに命中し、大きな爆発を起こす。

 白色と黒色。決して混ざり合うことのない二色が同時に輝き、そして収束した。


「……クソ」

「まあ、ボクはその程度では負けないがな」


 二人の拳は、確かに互いを貫いていた。

 竜の拳は霊の歌の腹部を貫き、霊の歌は――。


 その手に心臓を持っていた。

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