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霊ノ謳  作者: しろくろあめ
第4章 霊界襲撃

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第54話 研ぎ澄まし

「楽しんでくれたかな? ボクの余興を」

「余興だと……? ふざけているのか?」


 あっけらかんと笑う霊の歌に対し、余興という言葉に青筋を浮かべる(りゅう)

 

 月明かりが煌々と輝く中、二人の男は相対した。


「ふざけてるに決まっているだろう? できれば悪霊退散会あくりょうたいさんかいの一人くらいは殺してほしかったがなあ」


 顎に手を当てて、わざとらしく思案するポーズを取る霊の歌に、竜の怒りはさらに増す。

 

 それを知ってか知らずか、霊の歌は鼻を鳴らした。


「そうかよ、ならついでにお前も祓ってやるよ!」


 拳を構え、蒼い霊力を全力で放つ竜。竜から放たれる圧に、霊の歌は感心したように頷いた。


「ボクを祓う……ね、さっきあの落武者にすら単身敵わなかった君に、ボクが本当に祓えるの?」

「祓えるさ!」


 地を蹴り、霊の歌に肉薄する竜。繰り出した右拳を容易に霊力の壁で止められるが、身体強化でさらに踏み込んだことにより、霊力の壁が破られる。

 

 突然のことに驚いた霊の歌は、即座に手で拳を掴むも、すかさず繰り出された左拳を避け、距離を置くために背後に跳ぶ。


「お前は今本調子じゃねえだろ」

「……というと?」

「黒い結界だ。本来ならお前ほどの悪霊が創る結界は、月明かりなんて通さないだろう。それが今、煌々とオレ達を照らしてる。すなわちそれは、大気中にある黒い霊力が少ないってことだ。黒い霊力で動くお前らにとって、それは致命傷だろ」

「ふうん、ただの直上馬鹿ではないんだね」

「あたりまえだ!」

 

 地を蹴り、再度肉薄する。

 

 更なる身体強化で速度を増した竜のラッシュが霊の歌に届くも、その全てを躱されてしまう。舌打ちしながら右脚で蹴り飛ばしにかかるが、それも避けられてしまう。

 

 脚を掴まれる前に左脚で跳び上がり、落下の勢いと共に右拳を叩き込むも、これも飛び退いて避けられたことで、行き場を無くした拳は地面を壊した。


「それでもやっぱり、君は馬鹿だね」

「……待てコラ!」


 霊の歌が着地するのに合わせるように、三歩強く踏み込んだ竜。

 そして着地と同時に繰り出されたのは、渾身の『正拳一閃』だった。

 

 先の戦いからの疲労を忘れるように、最大出力で纏われた霊力は、その余波だけで部屋を壊していくも、霊の歌は容易に手で受け止める。


「なに……? 片手、だと?」

「君はさ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「ッ!」


 耳元で囁くように声を上げる霊の歌。竜が拳を掴まれたことに気付くよりも早く、竜の鳩尾に掌底が深々と刺さる。

 

 とてつもない轟音に、思わず吐き出す血。そして同時に、竜の肋骨が衝撃からミシミシと音を立てていた。


「全く、気づかなければ見逃してあげたのになあ」


 心底つまらないと言わんばかりにため息をつき、竜の顔面を掴む。そのまま地面に叩きつけると、壊れる床を気にすることなく跳び上がり、両手に黒い霊力を貯めた。


「漆黒の怒槌(いかづち)


 無慈悲に繰り出されたのは漆黒の怒槌。

 竜を撒き込み、大槌を振り下ろしたような轟音を鳴り響かせると同時に、竜ごと床を壊す。

 

 やがて轟音が鳴り止むと、怒槌を叩き込んだ床には大穴が開いていた。


「さて……死んだかな?」


 ぽっかりと口を開ける深淵を覗く霊の歌。

 ゴミを見るような眼で見つめていると、蒼い一閃が霊の歌を襲う。


「へえ、まだ使えるんだ、極彩色(ごくさいしき)


 一閃の正体は極彩色を使った竜。全身から血を噴き出し、鬼のような怒りが籠った形相で拳を振るうも、霊の歌には当たらない。

 

 そのまま天井に突っ込み、床と天井を計二回ずつバウンドし、壁に着地すると、すかさず霊の歌に跳び込む。

 

 スパークを散らす一閃が霊の歌に迫るも、ノールックでそれを避けると、避けざまに霊力だけで竜を押し、前方の柱に竜を突っ込ませた。


「無謀とはまさにこのことだねえ……ボクが、なんだったっけ? 本調子じゃないって?」


 柱を壊し、瓦礫に埋もれる竜を見ながら霊の歌は嗤う。

 

 対する竜は、頭から血を流しながら瓦礫を払いのけると、大きく息を吐いて極彩色を解いた。


「あれ、極彩色解くんだ」

「ああ、これじゃ勝てねえからな」


 血が付いて赤黒く変色したタオルを取る。

 タオルを取った事で顕になった竜の髪色は、鮮やかな青色をしていた。





胡堂(こどう)先輩! どうすか一緒に!」

「なに馬鹿なことやってんだよ」


 ある日の昼下がり、竜はいつも通り仕事をしていた。

 生前工場で働いていた竜は、既に後輩を抱える立場になっており、現場を仕切るリーダー的存在となっていた。

 

 後輩に慕われ、上司からは頼りにされ、順風満帆な人生。

 そんな中、昼休みにご飯を食べるために入った事務所で、後輩たちが何かの箱を持って協議していたのだ。


「これっす! ここ髪色には特に制限ないんで、くじ引いて当たったカラー剤で染めようって話してて!」

「はーん、面白そうじゃん」


 竜の好意的な態度に喜んだ後輩たちはすぐに竜を誘う。

 そして渡されたくじを引き、竜が当てたのは青色だった。

 

 盛り上がる後輩たちに、ため息をつきながら青色へと染める竜。

 

 しかし数日後、工場内の事故で竜は命を落とす。





「それから、この色が恥ずかしくってずっとタオル被ってたっけ……」


 血に染まるタオルを握りしめ、視界に入る青色の髪の毛を撫でる。

 

 血を使って前髪を掻き上げると、息を吐きながらゆっくりと構えなおした。


「変な髪色だねぇ、染めたのかい?」

「生前の置き土産だよ、気にすんな」


 額から流れる汗と血の混合物を拭い、霊力の出力を上げていく。しかし、目指すのは極彩色ではない。

 

 出力を無理に上げ、暴れさせる極彩色ではなく、ただただ静かに竜の中で循環させる。

 

 そこにスパークは必要なかった。


「オレは生前と決別して、お前に勝つ!」

「……へえ」


 竜の髪色が青から白へと変わっていく。眼の輝きは増し、鮮やかな蒼に染まっていく。

 

 出力される霊力も蒼から白に変わっていき、竜を包む霊力は更に燃え上がる。


「なるほどな! 本番はここからってか!」


 竜の変化に感情の昂りを抑えられない霊の歌。

 

 反して竜の意識は冷静そのもの。霊の歌を据わった眼で見つめ、ただただ自身の変化を感じるだけだった。


「オレは……どうしたんだ? いや、これはまさか……」


 両手を見て、自分の状態を自覚する。

 

 纏われる霊力の質が、今変わった。


「やるじゃないか、もう少し楽しめそうだよ」

「そうみたいだな、これは――」


 竜は【研ぎ澄まし】に覚醒した。

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