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霊ノ謳  作者: しろくろあめ
第4章 霊界襲撃

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第52話 光芒

「さあ、行くぞ!」

「合わせろよ! (りゅう)!」


 地を蹴り、同時に迫る萌葱(もえぎ)と竜。

 お互い弧を描く様に走り出すと、最初に肉薄したのは竜。右脚で刀を蹴り、着地と同時に左脚を回し蹴りで繰り出す。

 

 落武者は冷静に縁頭で脚を受け止めると、そのまま左から右へ刀を薙ぐ。しかし竜がそれをしゃがんで避け、立ち上がる勢いと共にアッパーカットを繰り出し、顎を殴る。

 

 それでも落武者の身体は殆どびくともしない。


「貴様の拳では、我の鎧は剥がせない」

「なら、アタシならどうだ?」


 竜に向かって刀を振り上げる落武者。しかし、そんな竜を跳び越えるように現れた萌葱が、真向斬りを繰り出す前に首に刀を振る。その攻撃は甲高い音を立てて通るものの、やはり甲冑を斬るには至らない。

 

 更に、落武者の振り上げた刀に黒い霊力が集まる。


「萌葱! 避けろ!」

「『天地開闢(てんちかいびゃく)』」

「――ッ!」


 刹那、振り下ろされた刀。黒い斬撃が二人の間を分かつ様に抉っていく。

 

 間一髪左右に跳び、避けられた二人だったが、空中で体勢がままならない間に落武者は追撃で肩越し構えを取った。


鎌鼬(かまいたち)

「『円華(まどか)』――ッ!」


 咄嗟に刀に霊力を付与し、空中に円を描く萌葱。ギリギリ『円華』が成立したことにより、繰り出された一文字斬りを防ぐ。

 

 しかし、その攻撃は一文字斬りの斬撃と共に、幾重にも重なる小さい斬撃が襲う技であり、防御手段を持ちえなかった竜は、腹部を大きく斬られると同時に、小さい斬撃がその傷を更に抉っていた。

 

 堪らず吐血する竜を横目に、萌葱は絶望から目を見開く。


「竜!」

「敵前で余所見か」


 その一瞬が命取りだった。竜に視線を向けた一瞬で落武者は萌葱の目と鼻の先に接近する。そして、肩上で刀を持ち、(きっさき)を向ける、霞の構えで懐に入る。


「『鋒牙(ほうが)』」


 『円華』の効果はすでに無く、間一髪肩上で刀を持ち、鋒を下に刀身を身を防ぐように構える、柳の構えを取る萌葱。

 

 繰り出された黒い霊力を纏う突きは、萌葱の構えた刀身に激突し、勢いのまま刀身を砕く。そして、防がれたことで狙いは反れるものの、そのまま萌葱の左肩を貫いた。


「萌葱さん――! クッソ、動け動け動け!」


 萌葱が肩を貫かれる瞬間を間近で見ていた劉兎(りゅうと)。先程繰り出された『天地開闢』の衝撃で目を覚まし、必死に飛ばされた腕の接合に掛かっていた。

 

 しかし、幾多の戦いで霊力などまともに扱えるわけもなく、その上深く斬られた傷は動く事さえも許さなかった。

 それでも足掻く劉兎は、這いずるように琴葉(ことは)の上から降りると、小さな声を聴く。


「……琴葉?」

「劉兎さん……わたしが、私が一発……手が、あります……だから、起こして」

「手ぇ? いいや、分かった」


 声の主は琴葉。萌葱と落武者の剣戟(けんげき)で音が遮られる中、吐血と共に弱々しく吐き出された言葉を、劉兎はしっかり聴く。

 

 そして身体に鞭を打ち、潜り込むように肩を貸し、壁にもたれながら起き上がった。


「ごめん、俺もボロボロだからこれくらいしか……」

「大丈夫です。ありがとうございます。でも、肩借りますね」


 壁を背に座り込む形になる二人。

 劉兎に寄りかかるように肩に頭を置くと、ゆっくりと弓を落武者に向ける。

 

 二人の視線の先には、ボロボロになりながら落武者と戦う萌葱と竜が居る。

 既に萌葱と竜も満身創痍であり、時間は限られていた。


「必要なのは、一撃……」


 ふらつく腕で弦を引き、矢を創造する。桜色の矢は段々とその輝きと大きさを増していく。

 一撃、この一撃が当たれば鎧など簡単に砕けるのではないかという圧を放つ琴葉。

 

 しかし、段々と照準が下へと向かっていくことに、二人は気づいた。


「だ、だめ……腕が……もたない」


 原因は琴葉の疲労。度重なる戦闘と、劉兎や竜の回復に霊力を割きすぎたこと、その上長時間戦闘のプレッシャーに晒されたことなど、複合的な理由がその手を地面に降ろさせる。

 

 萌葱も竜も長くはもたない。そんなことは誰よりも琴葉が分かっていた。それでも出ない力に、自身の弱さを痛感して唇を震わせる。

 しかし、そんな琴葉を救うように、劉兎が手を差し伸べた。


「劉兎さん……?」

「照準は……奴の胸でいいな? 俺が合わせるから、琴葉は力を貯めることに集中してくれ」


 ゆっくりと琴葉の腕を支え、照準を取り戻す。その優しさに目に涙を浮かべながら、琴葉は頷いた。

 

 やがて、矢は桜色と琥珀色の光に包まれ、廃墟一帯を照らしていく。

 桁違いの輝きに、流石の竜達も気づき、落武者含め三人の視線が集まる。

 

 反射で察した竜と萌葱はその場から飛び退き、落武者に向けた一本の道ができあがった。


「琴葉! 今だ!」

「『光芒(こうぼう)』!」


 繰り出された矢は地を疾駆し、落武者が防ぐ余裕もなく胸元に激突する。

 桜色と琥珀色が混ざり合うその矢は、黒く輝く甲冑など気にも留めず、数秒と掛からず貫いた。

 

 辺り一面に散る甲冑の破片と、落武者の黒い血液。

 琴葉の矢は落武者の胸に風穴を開け、更にその背後の廃墟にも風穴を開ける。


「なんと……見事な」


 自身の身体に開いた風穴を見て驚く落武者。未だに生きていることに驚く琴葉だったが、すかさず萌葱が走り出す。


「今だ! 一気に畳みかける!」


 刀に紅い霊力を付与し、落武者へと肉薄する。

 そして繰り出されたのは、逆袈裟斬りと袈裟斬りで両腕を落とす萌葱の技『桜吹雪』。

 

 琴葉の一撃により、甲冑自体の強度も既に無くなっており、簡単に飛ばされた落武者の腕は空中で霧散する。


「お前が最後を決めろ! 竜!」

「言われなくても!」


 そして萌葱を跳び越えるように現れたのは竜。

 拳には既に蒼い霊力が纏われており、空中で正拳突きの構えを取った竜は、風穴の開いた胸に向かって『正拳一閃』を繰り出した。

 

 とてつもない衝撃が辺りを壊し、落武者の風穴は更に開き、上半身と下半身を離れさせる。

 流石に回復の余地を無くした落武者は、その場に崩れ落ちた。


「見事……だ」

「おい……流石にお前で最後だよな!」


 着地する余裕もなく、その場に落ちた竜は、即座に起き上がると落武者に向かって拳を構える。

 

 しかし、落武者には既に戦意がなかった。


「ああ、我が最後、我が頭だからな」

「お前が殿様ってやつか」

「……殿様か、所詮は敗戦武士よ。昔は沢山の部下が居たが、それも皆消えてしまった」

「それでも、お前はとんでもない強さだった」

「消え逝く部下の霊力を貰っていただけに過ぎない」


 自嘲する落武者。萌葱の肩を借り、竜は立ち上がる。

 落武者の身体はすぐに霧散していき、祓除は完了となった。


「琴葉、劉兎、よくやった。お前たちが居なかったら今頃オレらは死んでたな」

「ハハ……大げさですよ」

「大げさじゃないさ、アタシももう動けない」


 覚束ない足取りで琴葉と劉兎の下に歩んだ萌葱は、力が抜けたようにその場に座り込み、竜を横に倒す。

 

 すぐに琴葉が回復のために三人に霊力を付与していく。

 癒される感覚に、三人は目を瞑った。


「……そういえば、結界が閉じないな」


 ある程度身体を癒された竜が起き上がり、周囲を見渡す。

 未だに劉兎と萌葱は傷と疲労から立てずにいたが、竜は立ち上がると視線を泳がせる。

 

 竜の言う通り、ゲートは出現せず、悪霊達が使う黒い結界も薄く張られており、解除された様子はなかった。


「それは、まだ悪霊が潜んでいるってことですか?」

「でも奴は自分が最後と言っていたじゃないか」

「もしかしたら、残党が居るのかもしれない。ちょっと見てくるよ。琴葉は二人の回復を優先してくれ、歩けるようになったら来てくれればいい」


 気を付けろよ、と声をかける萌葱に対し、グッドサインを見せて笑う竜。

 残党と聞き、気がかりな劉兎だったが、身体が動きそうにないため竜を止めることはできなかった。

 

 暗闇に消えていく竜。その背中を見ながら、琴葉は劉兎達に霊力を付与し続けた。




 しかし、その判断は間違っていたと、直ぐに竜は気づくこととなる。


「オイオイ……嘘だろ?」


 捜索を開始してすぐ。別の部屋に入った竜はあり得ない物を見て固まる。

 

「楽しんでくれたかな?」


 ほとんど崩壊した廃墟は、容易に月明かりを通す。

 そうして照らされたソレは、全身に黒い霊力を纏っていた。

 

 人なのかも怪しいと思えるほど漆黒の姿を、竜は知っている。


「霊の歌……何故お前が」


 そこに居たのは、竜もとい、悪霊退散会あくりょうたいさんかい全員に因縁のある。霊の歌だった。

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