第48話 怪物の掌
「爆発音が近い! こっちだ!」
「劉兎さん! 生きていて!」
劉兎と忍者の戦闘が佳境を迎えている頃、劉兎を探している竜と琴葉もその戦場へと向かっていた。
しかし、地図も無く、構造が複雑になっている廃墟では、劉兎の頼りは鳴り響く爆発音しかなく、捜索は困難を極めている。
それでも、爆発音を頼りに向かい続けた二人は、ついに音の根源へと足を進めていく。
「……急に、静かになりましたね」
「こりゃ、やばいかもな」
竜がデバイスを触り、劉兎に連絡を試みるも、劉兎は一切それに応じることは無い。
焦りと悪い妄想が二人の脳内を埋め尽くす中、ついに二人は白煙が漏れる一室を視認した。
「劉兎!」
罠や敵の策略など考える余裕もなく、警戒をすることもなく部屋に突入する竜。遅れて入ってきた琴葉。二人は目の前の光景に絶句した。
「何だ、まだ仲間が居たのか」
「……劉兎、さん?」
ボロボロの一室。激しい戦禍に見舞われたとひと目でわかる光景と、その中で佇む一人の落武者。
仰々しい兜に、般若のお面が目立つそのモノは、刀を傍らに立ち尽くす。
そしてその目の前には、膝をつき、戦意をなくした劉兎が居た。
まるで二人が来るのとタイミングを合わせるように、倒れる劉兎の身体はおびただしい傷が塗れており、誰がどう見ても敗北を意味する姿に、二人の表情が険しいものになっていく。
「てめぇ……劉兎に何をした!」
「この者は、我の部下を倒し、忍も倒した。だから報復に来ただけだ」
「そうかよ……琴葉ァ!」
「……はっ、はい!」
落武者と睨み合いながらも、叫ぶように呼ばれた琴葉は驚きながら身体を跳ねさせる。
同時に竜は全身に蒼色の霊力をまとい、戦闘体制を整えた。
「オレの援護を頼む! そして劉兎を救出する!」
「ふむ、救出か、やってみろ」
刀を構える落武者に対し、竜は地を蹴った。
刀と拳が激突する。
同時刻、廃墟の別の部屋にて――。
「見事……だ」
「悪霊に褒められたって嬉しくないね」
竜達と合流すべく、霊界から突入した萌葱は、相対した落武者を祓除していた。
突入後間もなく落武者と遭遇した萌葱は、即座に戦闘に入り、そして勝利していたのだ。
刀を振り、付着した落武者の血を払う。
首を斬られた落武者は、静かに霧散していった。
「……ところで、さっきから聞こえた爆発音はなんだったんだ」
落武者の霧散を確認し、劉兎と忍者の戦いで起きた爆発音の方向へと視線を向ける。
現時点では暗闇に沈む通路しか見えない状況に、息を飲みつつも萌葱は足を進めた。
「竜! 琴葉! 劉兎!」
通路を歩きながら三人の名前を呼ぶ。
しかし誰一人反応を見せない状況に、萌葱はゆっくりと焦りを感じていた。
「緊急通報から既に三〇分……いや、一時間か」
デバイスの時計と、そこから出せる緊急通報の履歴を見ながら思案する。
最初の竜による緊急通報から、現在は既に約一時間が経過しており、余談は許せない状況である。
更に、竜達が突入した場所と同じ場所に降り立ったにも関わらず、そこに居たのは落武者ただ一人。
萌葱の脳内に悪い妄想が巡る。
「何の音かは分からないが……爆発音が止んだってことは何かしらの戦闘が終わったってことだ」
廃墟の各部屋をクリアリングしながら進む萌葱。
刀を握る手には力が入り、焦りが身体にも滲み出ていた。
「みんな、生きていてくれよ……!」
部屋のクリアリングを終え、異常が確認できなかったことで駆け抜ける。
新たな悪霊に注意しながら、萌葱はその足を着実に爆発音がしていた戦場へと運んでいた。
更に同時刻、霊界では――。
「嘘……だろ」
「嘘では無い」
バラクラバの一人が地に伏せていた。
目の前には怒りで眉をしかめ、歪んた表情を見せる幸太郎が立っている。
悪霊退散会に襲撃しに来た四人のバラクラバは、程なくして幸太郎と戦闘を開始し、終わりを告げる。
「これが……【研ぎ澄まし】の力かよ!」
「お前達、霊の歌から知らされていなかったのか? あまり舐めるなよ、ウチを」
地に伏すバラクラバの両脚は既に無い。
幸太郎の猛撃により、両脚を失ったバラクラバは、身動ぎするので精一杯だった。
無慈悲に、冷酷に、淡々と近づいた幸太郎は、足でバラクラバの頭を潰し、一撃で仕留める。
「幸ちゃん……」
「流石に会長か」
そんな幸太郎を憂いげに見つめるのは、月音に膝枕をし、霊力を送ることで延命させている華鈴。
襲撃した敵を全員倒したと言うのに、その表情は晴れない。
それは、戦禍に巻き込まれた霊界を見てか、はたまた普段は見せない怒りを顕にして、容赦なくバラクラバを祓う幸太郎を見てか、またはその両方か――。
「オイオイ、マジかよ」
「……なんだお前、新手か」
そんな幸太郎の神経を逆撫でするように現れたのは、梓とカナデを襲った銃を持つバラクラバ。
既に戦闘が終えていることに驚きを隠せないバラクラバは、手に持っていた銃を構えることすら忘れていた。
「アンタ、そんなに強えのか? みんな祓っちまったってのか!」
「ああ……お前達のことは知っている。バラクラバ、ドイツ語の一から十の名前を冠した、特別な悪霊だろう」
「……なるほどね、それを知ってるってことは、あんたが会長の幸太郎か」
「そうだ」
やっと自分の持つ銃を思い出したバラクラバは、ゆっくり幸太郎に銃口を向ける。
しかしそのような状況にも関わらず、据わった眼でバラクラバを見つめた幸太郎は、刹那の間でバラクラバに接近すると、両腕を折り、その場に蹴り倒す。
「……なんて速さだよ!」
「私がその程度の玩具で慄くとでも思ったのか? 心外だな、私は悪霊退散会の会長だぞ」
両腕を折ったことで地面に捨てられた銃を足で踏み壊し、バラクラバの胸ぐらを掴む。
「答えろ、お前達の目的はなんだ、何故このような襲撃を起こした……いや、そもそもどうやって霊界に侵入した」
「……質問はひとつにしてくれよ」
「お前にそれを言う権利は無い」
言わないならこうだ、と言いながらバラクラバの腕を手刀で飛ばす幸太郎。激痛で叫ぶバラクラバの事など気にせず、幸太郎は怒鳴った。
「答えろ!」
「ハハ……アイツだよ」
「アイツ……?」
顎で背後を示唆され、振り返る幸太郎。
その先に居たのは、華鈴と月音。
「……まさか」
「ああそうさ! ここにはバラクラバ十人と、数十体の悪霊が襲撃した! でもなぁ、もう一人居るんだよ、そもそもこの襲撃の根源となった、十一人目のバラクラバが!」
高笑うバラクラバ。狂ったようにその笑い声だけが辺りを飛び交い、声を上げる度にバラクラバの口内からは血が溢れ出す。
胸ぐらを掴んでいる幸太郎の手に更に力が入る。しかしそれは無意識だった。
幸太郎とバラクラバから視線を向けられた華鈴は、バツが悪そうに視線を逸らし、月音も半開きの眼で幸太郎達を見つめる。
「……あやつは、何を言っておるんじゃ?」
「……月音」
「妾が、なんじゃって?」
状況が理解できてない月音は、視線を幸太郎と華鈴へ右往左往させる。
しかし、華鈴の憂いげな表情を見て、何かを察した。
「そうか」
静かに息を吐く月音。
「妾が、元凶か」
その視線の先には、戦禍に苛まれる霊界。
「ハッハッハ! お前達は元からあの方の掌の上だ! 悪霊を幽霊にィ!? そんなことできるわけねぇんだよ、バーカ! 死ね!」
「……まさか、私達の行動を予測したというのか? そんなこと、有り得ないだろう!」
「いいや有り得るね。あんたの左腕が教えてくれるからな!」
叫び終わった瞬間、バラクラバの首が飛ぶ。いや、捩じ切られる。
胸ぐらごと首を掴んでいた幸太郎の手によって、バラクラバは葬られた。




