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霊ノ謳  作者: しろくろあめ
第4章 霊界襲撃

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第46話 規則性

「ぐっ! 爆発ッ!?」


 昴流(すばる)がドライとの戦闘を始める最中、生界(せいかい)では爆発に巻き込まれた劉兎(りゅうと)が地面を転がる。


「痛ッ……」


 転がりながらも立ち上がった劉兎。

 

 しかし彼の足に小さな痛みが走る。

 

 表情を歪めながら足元を見ると、地面には紫色の小さな撒菱(まきびし)が広がっていた。


「どっから攻撃してるんだ!」


 軽く舌打ちをし、撒菱を踏まないように後退する。

 

 刹那、風を切る音を耳にし、咄嗟に跳び退いた。

 

 再度足裏に刺さる撒菱を気にすることなく着地すると、劉兎が寸前まで立っていた場所に二本のクナイが刺さっていた。

 

 更に、同時に劉兎の真横に落ちたのは麻袋。


「またかよッ――!」


 考えるような暇もなく、麻袋に続くように繰り出された火矢が爆発を起こす。

 爆風に地面を転がされた劉兎の身体には、おびただしい火傷跡が垣間見えていた。


「一旦隠れないと……!」


 多方面からの攻撃に敵の位置を把握できておらず、苦し紛れに柱の裏へと隠れる。

 

 痛みに眉をしかめながら、それでも息を整えて敵の位置を探っていると、金属音と共に跳ねた手裏剣が劉兎に刺さった。


(俺は敵の位置を把握できていないのに、敵は完全に俺の位置を把握している!? 何者だよッ!)


 続いて飛んできた麻袋を蹴りつけて自身から離し、火矢が刺さる前に柱から逃げる。

 

 蹴ったことで軌道がズレたことなどお構い無しに放たれた火矢は、まるで追尾機能が搭載されていると錯覚するほど正確に麻袋に刺さり、中の油に引火して爆発を起こす。

 

 咄嗟の判断で爆風から逃れた劉兎だったが、柱から抜けたことで全方位からの攻撃を可能としてしまっていた。


「どこに居る! 出てこい!」


 部屋を見渡すために回る。しかしどこにも敵の影は見られない。

 絶え間なく襲う手裏剣やクナイは、位置を把握させないように全方向から迫り来る。

 

 刀で弾き落とし、暗闇に振るうも、もちろん当たる気配は無い。


(何だ……何だこの違和感は……)


 留まるところを知らない暗器を喰らいながら、それでもデタラメに走るのを辞めない劉兎。

 進路を阻むように捨てられた麻袋を見て進路方向を変え、爆風に背中を焼かれながらも暗闇に刀を振るう。

 

 そんな中、劉兎の頭には何かが引っかかっていた。


(なんでここは、こんなに暗い?)


 迫る暗器をものともせず、全て弾いてみせた後、別の柱の陰へと転がり込む。

 相変わらず跳弾や麻袋が劉兎に迫り来るも、脳内にはある考えが逡巡していた。


「そういうことか!」


 足元に落ちた麻袋を蹴りつけ、逆方向へと跳んで爆発を回避する。

 全身に散る火傷跡など気にする暇もなく、着地と同時に霊力を放出した。

 

 琥珀色の霊力が光り輝き、辺りを照らす。照らされたことで、廃墟の全貌が明らかになった。

 そして同時に、壁に張り付く忍者のような装いをした一人の影が露になる。


「ふむ……考えたな。霊力で照らしたのか」

「お前だな、さっきからチクチクと攻撃してきたやつは」


 忍者を睨みつける劉兎。霊力を放出した副作用で傷が治っていくのを感じながらも、視線を外すことはしない。

 辺りを見渡すと、廃墟一面に黒いモヤがかかっていた。


「なるほど、お前も霊力で暗闇を作っていたんだな」

「そうだ、忍は暗闇に隠れるからな」

「じゃあコレで俺が暴いたから終わりだな」

「それはどうかな」


 左手を自然に開き、静かに霊力を集約させる。

 お互いの目線がかち合う中、突然忍者の身体から黒い霊力が煙のように四散した。


「煙幕か! させない!」


 左手の霊力で即座にナイフを創造する。

 黒い霊力が忍者の身体を隠し切るよりも前に繰り出されたナイフは、黒い霊力の煙幕を貫通して奥の壁に刺さると、たちまち爆発する。

 

 けれども、そのナイフも、爆風も忍者に当たることはなかった。

 爆風によって晴れた視界は、穴の空いた丸太が霧散していく瞬間のみを写す。


「爆発するナイフか、興味深い」

「……身代わりの術ってか?」


 ナイフが不発に終わり、冷静に構える劉兎に対し、全方向から反芻する忍者の声。

 部屋内を留まることなく移動し続ける忍者に対し、その残像しか追えない劉兎。

 

 二人の差が顕著になった途端、忍者の攻撃が開始した。


「我の動きが見えるか? 見えないだろう」

「くっそ! どこだ!」


 劉兎が目で追うよりも先に、迫り来るクナイと手裏剣。

 先程と全く変わらないその攻撃は、移動と跳弾を繰り返して劉兎を四方から狙う。

 

 刀とナイフで応戦しにかかるも、直後背中に痛みが走る。


「背後がガラ空きだ」


 痛みと同時に振り向く劉兎。視線の先には小刀を構え、鋒から血液を伸ばす忍者が居た。

 すぐに背中が斬られたことに気づいた劉兎が乱雑に刀を横に薙ぐも、もちろん忍者には命中しない。

 

 軽々しく背後に跳んだ忍者は、追撃で手裏剣を投げると、柱の陰へと吸い込まれるように消えていく。


「ガチの忍者ってやつか!」

「視界が明瞭になれば勝てると思っただろう、それは貴様の驕りだ」


 再び始まるクナイと手裏剣の連続攻撃。絶え間ないその攻撃は、劉兎の精神力を削っていく。


(クソ……こんなに攻撃し続けられたら『閃』は使えない! アレはひと呼吸おいて瞬間的に集中しなきゃいけないんだ!)


 劉兎の防御用の技となる『(ひらめき)』は、ひと呼吸おく必要がある。今の忍者の攻撃の中でひと呼吸おく暇など、訪れるはずもなかった。

 

 加えてクナイと手裏剣の攻撃の中で時折接近で攻撃しにくる忍者は、的確に劉兎の隙を突いてくる。


(ダメだ……考えろ、考えろ!)

 

 攻撃の雨の中で突然脇腹を刺した忍者は、劉兎のカウンターを待たずして陰へと消えていく。

 段々劉兎の霊力の出力が落ちていき、一望できていた部屋はゆっくりと暗闇に吸い込まれていく。


(何か、何か弱点があるはずだ!)


 集中力も落ちていき、被弾の数も増えていく。

 致命傷は避けていたクナイや手裏剣も、弾くことが精一杯になっていた。

 

 額に脂汗が滲み、焦りが呼吸に現れる。肩で息を開始したら刹那、呼吸の乱れは留まるところを知らない。


(ダメだ! 分からない! 俺は、もう――)


 正面から迫る手裏剣を避けるために後ずさる劉兎。

 しかし、足に撒菱が刺さったことにより、体勢が崩れた。

 結果的に手裏剣を避ける形でよろめいた劉兎の視界に、突然忍者が現れる。


「ッ!」

「あっぶねぇ!」


 咄嗟に刀を構え直すも、突然自身の方向を向いた劉兎に驚いた忍者は、攻撃を寸前で止めて暗闇に消える。

 一瞬の間を置いて、再度始まった遠距離攻撃に、劉兎は拍子抜けした。


(なんだ、今の……)


 迫る暗器を弾き、撒菱のない方向へと跳ぶ。

 数刻、余裕ができた劉兎は霊力を放出し直し、部屋の明度を上げていく。

 

 相変わらず残像を残して動き回る忍者を目で追うことはできないが、劉兎は何故か冷静に嘆息した。


「そういえば、萌葱(もえぎ)さんが言ってたな……」


 迫る暗器を退け、追撃の麻袋を弾き飛ばす。

 続く火矢を斬り飛ばし、爆発を未然に防いだ。

 

 そんな劉兎の脳裏には、いつかの修行の際に話をしていた萌葱が浮かんでいた。


「動きには規則性があって、誰しも動きやすいタイミングがある……って」


 呟いたのは萌葱の言葉。

 同時に、大きく深呼吸する劉兎。そのひと呼吸が発露となる。


「『閃』」


 劉兎を狙っていた暗器が全て往なされ、叩き落とされる。一瞬の硬直の後、再度迫る暗器だったが、鋭さは明らかに減っていた。

 

 すかさず第二波も叩き落とそうと刀を構え直す劉兎。

 まずは目の前のものに対処するべく横に薙ぐ――。


「そこだろ」


 しかし、横に薙ぐはずだった刀はあろう事か劉兎の背後へと延び、迫っていた忍者を刺した。

 目を見開いたまま刺さった刀を見る忍者に対し、遅れて振り向いた劉兎は告げる。


「お前の攻撃には規則性がある。まずは暗闇に溶け込み、移動しながら様々な手を使って暗器で攻撃、そして最後は背後からの奇襲……流石に何度も喰らえば分かるさ」


 忍者を刺したまま、刀に霊力を付与する。

 そのまま断ち切ろうと両手で柄を掴んだ瞬間、忍者の口角が不気味に上がった。


「いい線だが、残念だ」

「は――」


 軽い煙幕と共に丸太へと変貌する忍者。

 身代わりの術を使われたと劉兎が判断するよりも早く、劉兎の視界を埋めつくしたのは麻袋。

 

 防御も判断も間に合うことはなく、続く火矢が冷酷に麻袋を刺激した。

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