第40話 地を伝って
「うおおおおッ!」
「覇気や良し、しかしまだ青いな」
劉兎が落武者と戦闘を始めている頃、竜と琴葉も同様に槍を持つ落武者との戦闘を始めていた。
槍相手に拳で対抗する竜だったが、間合いが測れず苦戦を強いられている。
琴葉も矢を射ることで支援するも、繰り出す矢の全てがいとも容易く叩き落とされていた。
「ふむ……二対一か、少し不便だな」
「何だ……?」
再度繰り出された矢を叩き、一歩下がる落武者。
逃がさないと言わんばかりに追う竜だったが、落武者の身体から放出された黒い霊力にその足を止める。
「今だ……!」
「待て! 琴葉!」
対する琴葉は二人を囲うように走り回っていた。
竜が足を止め、一時的に隙ができたのを感じ、矢を放つ。
竜が静止するのも厭わず地を疾駆した矢は、落武者に当たる寸前で霊力に叩き落とされてしまう。
驚愕する琴葉。叩き落とした霊力は流れるように形を帯び、小動物程度の大きさに分かれる。
「弓の者、貴様は少し厄介だ。我はこちらの男との戦いに専念させてもらおう」
「何これ……式神とでも言うの……?」
形を帯びた霊力はさらに五つに分かれ、人型となり琴葉へと同時に襲いかかる。
「琴葉!」
「貴様の相手は我だ!」
咄嗟に踵を返し、琴葉を救いに走る竜だったが、目の前を槍が通りその足を止める。
追撃で繰り出される突きを避けながら後退する竜は、結果的に琴葉から距離を離すこととなってしまった。
「何これッ!」
咄嗟に霊器でナイフを創造し、迫り来る五体の式神に向かって構える琴葉。しかし、琴葉の主力は弓矢での遠距離支援。近接の才能は無いに等しかった。
式神達は琴葉の目の前で大きく広がると、囲うように整列する。
「んべっ」
「……えっ」
どこから攻撃が来てもいいようにと、腰を低く構える琴葉。しかし、式神の一体が大きく口を開けると、その中にあったのは手裏剣。
驚く琴葉を他所に、口内で突然回転を始めた手裏剣は、琴葉に向かって高速で迫る。
「あー」
「今度はこっち!?」
迫る手裏剣をナイフで防ぐも、次に口を開いたのは背後の式神。その口内にはクナイが備えられていて、素早く口内から出すと、琴葉に急接近を仕掛ける。
その後も続々口内から暗器を取り出して琴葉に攻撃を仕掛ける式神達。暗器の種類は鎌や鎖、果てには小さな爆弾にまで発展する。
「手数が足りないッ!」
目の前に迫る二体の式神を突き飛ばし、背後から迫る式神にナイフを突き立てる。クナイを構えて背中を刺そうとしていた式神は、琴葉の振り向きざまのナイフに貫かれて破裂した。
式神を型どっていた黒い霊力が泥のように散り、琴葉の手にまとわりつく。不快感に眉をしかめるも、投げられた鎖が琴葉の脚に巻き付き、そのまま転んでしまう。
「鈍いッ!」
「……ふん、いい拳だ」
琴葉が苦戦を強いられている中、竜も同様に苦戦を強いられていた。
幾度となく襲う槍は避けることが容易ではあったが、問題は竜から繰り出す攻撃も意に返さないところにある。
「なんつー硬さだ……それ、普通の甲冑じゃねぇな?」
「ああ、我らの甲冑は黒い霊力により硬度をかなり強化してあるからな、残念だが貴様の拳は通じない」
自身の甲冑を叩きながら話す落武者。槍を手で回転させると、鋒を竜に向けて再度構える。
竜も落武者に呼応するように拳を構え直すが、その拳は皮がめくれ血が滴り落ちていた。
両者が地を蹴る。先んじて懐に入った竜が拳を繰り出すも、槍の柄で防がれてしまう。
「速さやよし。しかし、そろそろ見えるようになってきたぞ」
「悪いがアンタの攻撃は鈍すぎて当たんねぇよ?」
「そう思うだろう?」
「……は?」
霊力の出力を上げ、柄ごと槍を押す竜。口角を上げる竜に対し、槍の鍔がカタカタと音を立て出した。
同時に、落武者の口角が上がる。その表情を垣間見た竜は、即座に背後へと跳んだ。
刹那、鍔から生えた黒い触手が鞭のようにしなり、竜が先程まで立っていた床を斬り刻む。
「普通の槍じゃねえってのか!」
「これを避けるとは……やるな。しかし、空間に敷き詰めてしまえば避けることなどできまい」
着地する竜を追い掛けるように、鋒を竜に向ける落武者。同時に触手は肥大化し、渦を作って竜へと迫る。
肥大化したことにより壁や天井を這いずり回る触手は、塵一つ残さないと言わんばかりの勢いで空間に敷き詰められる。
「それならこっちも力技だよ!」
「なんだと……!?」
迫る触手に対し、竜が選んだ選択肢は接近。
空間を敷き詰める四本の黒い触手に向け、拳を構えて叩き落とす。追随する触手に対しても拳で叩き、できあがった空間に対して身を捩って突入する。
「空間が無いなら作ればいいんだよ!」
「……ふむ、流石だな」
地面を転がり、触手を抜けた先には落武者の姿。
拳を構え、再度走り出す。鋒を構えている落武者は隙だらけ、のはずであった。
「故に、残念だ」
「は――?」
落武者が笑ったのを、竜は見逃さなかった。
しかし、何かあると察して停止するよりも早く、地面から伸びた触手が竜の背中を刺す。
そしてそのまま地面に叩きつけられ、竜の意識が飛ぶ。
「竜さん!」
傍らで式神と凌ぎを削りあっていた琴葉が異常に気づく。しかし、竜の下に向かおうにも式神が立ちはだかり上手くいかない。
更に、式神から無限に繰り出される暗器に、琴葉の身体は傷だらけになっていた。
「邪魔だァ!」
額に青筋を浮かべ、奥歯を強く噛んだ琴葉はデタラメにナイフを振るい、式神達を弾き飛ばす。即座に弓を構えると、竜にゆっくり近づく落武者に向かって矢を番えた。
「竜さんは殺させない! そんなの、私が許さない!」
「……弱き者だと思っていたが、やはり貴様も悪霊退散会の端くれか」
琴葉の番える弦がギリッと音を立てる。狙いを落武者に澄まし、弦を離す。地を疾駆する矢は落武者へと飛んでいき、落武者に当たるよりも早く割り込んできた式神に命中した。
「しかし、貴様の力では我には及ばない」
「邪魔するな!」
弾き飛ばした式神が琴葉の下へ戻ってくる。再度接近戦を挑まれた琴葉は、ナイフ片手に応じることとなる。
しかし、そんな琴葉の視界の端では、既に竜の下へ到達した落武者が静かに槍を構えていた。
「竜さん! 起きて!」
「さらばだ、強き者よ」
槍を倒れた竜に刺すべく、地面に向ける。
琴葉の声掛けも虚しく、起きる気配のない竜。それを確認した落武者は、表情ひとつ変えずに槍を繰り出した。
刹那、突如起き上がった竜は、両手で身体を支えながら、両脚で挟むように落武者を蹴りつけた。
「貴様ッ……! 意識を取り戻して!」
「オレがこの程度で死ぬかよ! そして、ありがとうな、琴葉」
咄嗟に跳び退く落武者。その目に映ったのは、竜の足から伸びる半透明な桜色の紐のようなもの。
「なるほどな、霊力譲渡か」
「そういうことです。私は取り乱した振りをして、ずっと竜さんに霊力を送っていました」
竜の足から伸びる桜色の霊力は琴葉へと収束している。地面を伝って琴葉が竜へと霊力譲渡をしている証だった。
「ふむ、弱き者と見せかけた策略、見事」
首を鳴らしながら、二人を見すえる落武者。
「故に、ここからは惜しみなく貴様達と交えるとしよう」
落武者の黒い霊力が更に吹き出した。




