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霊ノ謳  作者: しろくろあめ
第4章 霊界襲撃

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第39話 命を懸けて

「くそッ! なんて硬さだよ……!」

「貴様こそ、なんと言う根性だ」


 不意を突いた一撃、だったはずであった。

 劉兎(りゅうと)の繰り出した拳は防御されることも、知覚されることもなく落武者の顔面に入った。

 

 左腕に纏っていた部分強化を全て移行させ、渾身の力で殴ったはずの落武者はびくともせず、代わりに劉兎の拳に激痛が走る。


「刀が刺さっていながら、よくぞこの我に一撃を入れたな」

「だから……さっきからお前は誰目線なんだよ!」


 劉兎の左腕から刀を引き抜き、再度構え直す落武者。

 全身に走る激痛と左腕からの出血で視界がままならない劉兎は、静かに二歩後ずさる。


「若い者の挑戦力にはいつも驚かされている。我はお前達のようながむしゃらな若者が好きでな、いつも讃えては葬り去ってきた」

「……なんの話だ」


「我の身の上話さ。我々は今でこそ数が少ないが、元は千人を超える大所帯でね……それも年月を深くしていくにつれ幽霊としての寿命が来て消えていったが」

「安心したよ、あんたらにも寿命があるんだな」

 

「ああ、我はあと三百年と言った所だが」

「……途方もねえ、聞くんじゃなかった」


 三百年という数字を聞き、意識が飛びそうになった劉兎。蹴り飛ばされた刀の行方を見る余裕もなく、虚な眼で落武者を睨み続ける。

 

 勝負はすでについたと言わんばかりで後ずさる劉兎を追いかける落武者は、羽織で刀身の血を拭い、劉兎に鋒を向ける。


「いい戦いだったぞ、名を聞いておこうか」

「律儀だな……(ひいらぎ) 劉兎だ」

「柊 劉兎か、いい名だ」

 

「……なんで俺が戦うやつは揃いも揃って人の名前を聞きたがるんだ」

「そりゃあ、好敵手には敬意が必要だからな」

「『敬意』……ね」


 後ずさる足を止め、項垂れる劉兎。

 ついに諦めたと認識した落武者は、間合いまで詰めると、ゆっくりと刀を振り上げる。

 刀から鳴る金属音のみが廃墟を木霊する。月が雲に隠れ、廃墟内の光源が消える。

 だからこそ落武者は気づかなかった。


「俺もある人から敵に敬意を払う大切さを教えられてな、それから意識しているんだ」

「……そうか、いいことだ。我は死ぬまで貴様のことを忘れないぞ、劉兎よ」

「俺は負けないために敬意を払う、お前はなんのために敬意を払うんだ」

「決まっている、武士として」

 

「そっか、武士としてか、だから気づかなかったのか? ()()()()()()()()()()()()


 落武者の瞳孔が開かれる。同時に閑散な廃墟内を反芻するスパーク音。

 月明かりが遮られ、劉兎の左腕が影へと隠れたことにより、寸前まで気づくことはなかった。

 劉兎の左腕に溜められた()()()()に。


「――まさか!」

「漆黒の怒槌(いかづち)!」


 落武者が刀を振り下ろすよりも早く抜かれた劉兎の左腕。

 斬られた傷が治っておらず、血飛沫を飛ばす中、左手に溜められた黒い霊力は凝縮され、スパークを放っている。

 

 落武者が防御の姿勢を取ることも厭わず、腹部に触れた漆黒の怒槌は、大槌を落としたと錯覚させる程の轟音と、大爆発を起こした。


「捨て身の一撃……! 侮っていた! 若者を、劉兎を!」


 寸前で刀を挟んだ落武者は、大爆発と衝撃に巻き込まれるも、全身から血を吹き出すのみで仁王立つ。

 対する劉兎は、爆発の衝撃に身体を持っていかれ、情けなく地面を転がっていた。


「痛え……でもこれで、傷の応急処置ができたろ」

「その腕……炭化しているのか? まさか、それで傷を焼き切ったのか!」


 漆黒の怒槌を放った左腕は炭化し、幸か不幸か切り傷すら焼き切り出血を止めた。

 虚な眼は変わりないが、あまりにも無謀な方法での応急手当に、落武者は絶句する。


「おいおい、若さゆえの無謀さってのがあるだろ。それに、アンタはそう言うのが好きなんじゃないのか?」


 虚ろな眼から力強い眼光へと遷移する劉兎に、少しだけ気圧される落武者。

 

 しかし両者の傷はどう考えても劉兎の方が重く、出血を止めたからと言っても依然として劣勢なのは劉兎だった。

 それでも、落武者は気圧されたのだ。目の前の若者に、目の前の勇気に。


「おいおい、震えているぜ」

「……何? この我が、目の前の若者に慄いていると言うのか……?」

「アンタ、随分たくさん若者と戦ってきたんだろ? そいつらは、どうやらお利口さんが多かったみたいだな」

「なんの話だ」


 カタカタと震える落武者の手。震える鋒は上手く劉兎を捉えられていない。

 嘲るように口角を上げる劉兎は、霊力の出力を上げる。燃え上がる琥珀色の炎が劉兎を包み、空気を揺らす。


「そいつらには覚悟が足りなかった。命を懸ける覚悟が」

「命を懸ける覚悟だと?」

「ああ、俺はもう充分懸けてんだ。覚悟が違うんだよ!」


 口上と共に、爆発的に増える霊力。輝きは増し、月明かりがなくても廃墟を照らす。

 そして、劉兎の身体にスパークが起きた途端、落武者の視界から劉兎が消える。


「短期決戦だ」

「なっ――」


 発動したのは『極彩色(ごくさいしき)』。スパークが起きる程練り上げられた霊力が、劉兎に爆発的な力を与える。

 

 落武者の前に現れた劉兎は、顔面に拳をめり込ませた。


 殴り飛ばされる落武者をその脚で追い、蹴り飛ばす。地面を転がっていく落武者を地を蹴ることで肉薄し、腹部を殴ることで地面に叩きつけた。

 

 先ほどの漆黒の怒槌で空いた甲冑の穴に突き刺さる拳は、ついに落武者の肉へと届く。


「このまま終わらせる!」

「思い上がるな!」


 腹部から腕を引き抜く一瞬の隙を見逃さない落武者は、刀を乱雑に振るうことで劉兎を引き剥がす。

 

 力尽くで後退させられた劉兎は膝を着きながら着地し、瞬時に肉薄した落武者の横薙ぎを寸で躱すも、遅れてやってきた蹴りに飛ばされる。

 

 地面を転がり、勢いを殺した劉兎が立ち上がると、落武者は静かに居合の構えを取っていた。


「あれは、さっきの!」

「喰らえ!」


 刹那、電光石火で飛び出す落武者。鞘にしまっていた刀を抜き、劉兎の首へと迫る。

 

 しかし、寸前で両腕を構えた劉兎により、首への一撃は防がれるも、両腕からの出血は免れない。

 さらに、背後に着地した落武者は、口から血を流しながらも刀を振り上げる。


「オオオオオッ!」

「うぐっ! 背中が斬られたのかッ!」


 着地後の崩れた体勢からの一撃は致命傷には至らない、しかし背中を一閃するように繰り出された斬撃は大きなダメージを与える。

 

 よろけながら振り向く劉兎の顔前にはすでに刀があり、後退しながら避けることを余儀なくされる。

 しかし、極彩色中の劉兎には、その太刀筋は見えていた。


「見えているよ、それ」

「な、何……?」


 冷静な劉兎の拳が落武者の脇腹を刺す。一瞬停止する落武者だったが、刀を乱舞のように振い、劉兎を引き離す。

 

 そしてそのまま、居合体勢を取った。


「また来るのかッ!」

「これでおしまいだ!」


 地を疾駆し、なんとか着地した劉兎。逃げられない状況の中、一歩下がった足が何かに触れる。


「刀……!」

「喰らえ!」


 劉兎の足に触れたのは先ほど蹴り飛ばされた刀。反射で拾い上げるも、落武者はすでに地面を蹴っていた。

 そして二人の刀が交差する。


「もう一度だ!」

「そうはいかないな!」

「肩に……!」


 先ほどと同じように振り向きざまに切りつけようとした落武者の肩に刺さるナイフ。

 

 劉兎が投げたものであると気づくのに時間は掛からなかったが、引き抜く前に爆発する。


「グアアアアッ!」

「さあ、終わらせよう」


 霊器(れいき)に折れた刀をしまい、足に装備していた別の霊器から刀を創造する。

 爆煙の中から現れた落武者は、右肩に穴が空いて左手のみで刀を握っていた。

 

 半ば半狂乱となった落武者は、左手だけでも刀を振るう。しかし、今の劉兎にその攻撃は通じない。


「『閃』」

「アア?」


 劉兎の技『閃』で繰り出された斬撃を全て()なし、体勢を崩す落武者。

 静かに『極彩色』を解きながら、劉兎は炭化した左手を添えて刀を振り下ろした。

 

 斬り落とされる落武者の首。霧散していくその体を見て、安堵から嘆息する。

 

 その瞬間、劉兎の横に落ちる麻袋。


「……なんだこれ、袋?」


 拾おうとする劉兎を阻むように、刺さる火矢。


「まさか、油!」


 劉兎が気付くよりも早く、麻袋の油に引火した矢は、大きな爆発を起こした。

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