第13話 後味は悪く
「やべぇな……これは」
反射を続ける光線の檻に囚われた劉兎。刀で往なし、避け、防ぎつつ反撃の一手を探るも、反射する度に速度が上がり、なおかつ反射角が予想できない状況でそれは難しいものだった。
「さあさあ、あの子たちに詫びなさい!」
「コイツ!」
反射する光線に気を取られている劉兎に迫る別の光線。
光線同士は触れ合うことがない。お互いがすり抜ける性質を持つことを利用し、容赦なく花子さんは追撃で劉兎を狙う。
何とか咄嗟の反射神経で弾くものの、弾かれた光線は別の目玉に当たって檻の一部となる。
「こうなったら、多少食らってでもそっちに行く!」
「そう来ると思ってたよ!」
霊力を高め、地を蹴る劉兎。
多少の被弾は想定内とし、ゴリ押しで花子さんと肉薄しようとするも、予想していた花子さんは自身に近くなるにつれて反射と光線の量を増やし、対抗してきた。
「こんなもん!」
「……やるじゃん」
しかし、往なしながら被弾しても足を前に出す劉兎を見て、花子さんは感嘆する。
そして光線の檻を抜けた劉兎にやってきたのは、硬化した着物だった。
防御が間に合わず、モロに顔面に喰らった劉兎は、光線の檻すら通過する速度で殴り飛ばされた。
「いってぇ……そうか、あの二人の力も取り込んでるのか!」
鼻血を出しつつ起き上がるものの、そこに現れたのは鋭く尖った髪の毛達。
すぐに刀で応戦に入るも、光線に背中を刺され、よろめいた所を髪の毛に奇襲される。
「何か、手は無いのか……?」
髪の毛達を避けるために跳び退くものの、段々と離れていく花子さんとの距離に劉兎は唇を噛んだ。
間合いに無いうちに往なしても意味が無いと判断した劉兎は、一旦体勢を立て直すために廊下の突き当たりまで走り、角を曲がって壁に隠れた。
「何をするにしても、あの光線の檻をどうにかしないと……霊力で強化し続けるのも枯渇したらおしまいだ……」
壁にもたれて肩で息をしながら思案する。
炎のように燃え上がる霊力を、最低限の身体強化に留め、出力を抑えることで枯渇を抑制する。
「刀で敵わないなら拳くらいしか戦う術が……」
そこまで独りごちた刹那、劉兎は何かを思い出したかのように目を見開く。
そして行動に移そうとした直後、隠れている劉兎を追うように目玉が飛んでくる。その目玉に反射した光線が、劉兎を襲った。
「俺にはまだ『アレ』がある!」
光線を跳んで避け、追撃でやってきたもう一本の光線を刀で受け流す。
どちらの光線も行き場をなくし、床と天井に相殺されていく。
間髪入れずに動き出した劉兎は、そのまま目玉を叩き斬った。
「痛ッ! あの男、目玉を斬りやがったわね」
斬られた目玉に呼応するかのように神経がひりつく花子さん。そしてもうひとつ目玉を飛ばして劉兎を襲おうとした途端、壁から劉兎が跳び出してきた。
「何のつもり……!」
劉兎の左手に集中している霊力。琥珀色に光るそれは、ゆっくりと何かの形をかたどっていく。
遠目では視認ができていない花子さんは、髪の毛と光線を飛ばして先手をつこうとしていた。
「遠距離武器なら、こっちにだってあるさ!」
迫る髪の毛と光線を刀で弾き、その場で左手の霊力を振るう。振るわれた霊力は瞬時にナイフの形に変わり、地を疾駆する。
ナイフは絶妙な投擲能力で髪の毛たちを、光線の檻を抜け、そのまま花子さんへと向かう。花子さんが気づいた時には既に目と鼻の先にあり、避けようとする間もなく花子さんの左眼に刺さった。
「まさか……創造!」
「そうだ、創造だ。霊器を介さず霊力のみでものを創り出す力……戦闘時は霊力の枯渇を恐れて原則しないように言われてるがな!」
もう一本ナイフを創り出して投擲する。
痛みでよろめく花子さんに対応できるわけもなく、ナイフは無抵抗の彼女の肩を襲う。
一歩後ずさる花子さんに対し、劉兎は走り出す。
「いい気になるなよ!」
左眼に刺さるナイフを強引に抜き、肩にナイフが刺さったまま劉兎に向き直る花子さん。既に劉兎は髪の毛群を抜けており、光線の檻へと突入していた。
しかし、今の劉兎に使役者をなくした光線の檻など敵では無い。往なす必要も無くなった光線を刀で叩き落としていく中、三本目のナイフを創造する。
「そうはさせない――!」
咄嗟に両手をかざして光線を追加しようとする花子さんだが、飛んでくるナイフに弾かれて体勢を崩す。
その隙を見逃さず、劉兎は霊力の出力を上げて、身体を補助する。
光線の檻を跳び出した劉兎に対し、花子さんは髪の毛を密集させて壁を作り出した。
「時間稼ぎなんかさせねぇよ!」
ナイフを創っていた霊力を全て刀に預け、身体強化の出力もあげていく。
燃え上がる霊力を携えて、劉兎は居合いの構えを取った。
「『迅』ッ!」
たちまち繰り出された劉兎の斬撃は、髪の毛を密集させた壁を容易に両断する。
その上、霊力と共に放たれた斬撃は、琥珀色の衝撃波を伴って花子さんごと攻撃する。
「な……なんですって……!」
斬撃は花子さんの身体を捉え、袈裟斬りのような傷を与える。一瞬のことに驚きを隠せない花子さんは、身体から溢れる血液を認識するよりも早く着物を硬化させる。
「許さない……許さないわ!」
「ここで祓除する!」
硬化させた着物を眼前に構える花子さん。
この期に及んで防御の構えを取る姿に眉をしかめる劉兎だったが、刀を左手に移し、右拳に霊力を集約させると、乱雑に繰り出した。
「このままぶち破ってやる!」
「ふざけるな! 小僧!」
ぶつかり合う両者。
力が拮抗した刹那、劉兎の霊力が出力を増し、花子さんを押していく。
咄嗟に髪の毛を伸ばして反撃を行おうとした花子さんだったが、それよりも早く劉兎の拳が着物を打ち破り、そのまま顔面を殴り付けた。
「な……なんで……」
「これが俺達、悪霊退散会だ」
力なく地面に横たわる花子さんを見下す劉兎。
そして刀を再度右手に戻すと、静かに構えた。
「待って――」
「待たない」
着物が砕け、腕すら飛んだ花子さんは命乞いをするために首を振るも、劉兎は静かに首を振り、刀を花子さんの首へと通す。
花子さんの首が飛び、間もなく霧散が開始した。
「……くっそ、疲れた」
その場に座り込む劉兎。
程なくして花子さんが霧散して消えると、ゲートが開く。
「……華鈴さん」
「初戦闘お疲れ様。どうだった?……ってのは言うまでもなさそうね」
「悪霊の祓除って、なんか普通に人を殺してるみたいです……」
「まぁ間違いないわ、そこに関しては慣れるしかない……でも、生界の治安維持のためには必要よ」
ゲートからやってきた華鈴の手を借り、劉兎は立ち上がる。劉兎の脳内には首を斬る直前の花子さんの顔が浮かんでいた。
「首を斬る前に、コイツ『待って』って言ったんです」
「誰だって言うわ、そんなこと」
「……俺が、悪霊退散会がやってることって本当に正しいんでしょうか」
「それはこれから君が長い時間をかけて納得する必要があるわ、私からどうこう言えた話じゃない」
ゲートに入り、悪霊退散会のカフェスペースへと戻る。
無言で嘆息するだけの劉兎を見て、幸太郎は何も言えずにいた。




