第109話 天王山
「もうここで終わりにする!」
ジュンの首を掴んで落下した祥蔵。
そのままビルの壁に叩きつけると、追撃で蹴る。
ビルの壁を抉りながら落ちていくジュンを追うように、霊鞭を硬化させた祥蔵も落ちていく。
未だ劉兎達の姿を視認してない祥蔵は、霊鞭を構えなおす。
そこに現れたのは、血だらけで同じく落下していくカイ。
「止まれ!」
「……ッ! こんなこともできるのか!」
空中で祥蔵の周りだけ空間を固めるカイ。
一瞬拘束された祥蔵は霊鞭が解除されるものの、即座に力技で拘束を解くと、次はカイに向かって霊鞭を構える。
「そいつは殺させねぇよ!」
そんな中で突然飛び出してきたのはノイ。
カイとジュンがやられる様子をただ見ているわけもなく、跳び上がったと同時に祥蔵を蹴り飛ばした。
「邪魔すんな!」
「どけ!」
そのノイを殴りつける劉兎と仁志。
同時に繰り出された拳がノイを殴り飛ばす。
「全員死にやがれ!」
いつの間にか地面に落ちていたジュンが両手を機関銃に変化させ、劉兎達に乱雑に発砲する。
喰らってしまえばひとたまりもないその攻撃に後退を余儀なくされた二人は、静かに舌打ちをしていた。
「仁志! 梓を保護しろ! この乱射に当たっちゃまずい!」
「了解!」
銃弾を躱しながら、仁志に命令する劉兎。
仁志も横目でビルにもたれる梓を視認すると、間髪入れずに駆け出して抱え上げた。
勿論仁志に撤退する意思は無い。あくまで梓を安全な所に移動させてから戦闘に戻るつもりだった。
「クソ……バラクラバめ……まずは僕を助けろよ」
路地裏に入ろうとした仁志。
そんな彼の後ろ髪を引いたのは、ジュンと同様に地面に着地していたカイ。
シワだらけで弱そうな姿だが、口ぶりから極悪霊であることを察すると、忍び足で近づいた。
「ジュンも乱射しやがって……僕に当たったらどうする――」
「悪いな」
背後から近づき、カイを殴る仁志。
梓を抱えながらのため、倒すことはできなかったが、その一撃でカイの意識が途切れた。
瞬間、全員の視界が暗転し、結界が音を立てて壊れた。
そして各々が全く別の座標に押し出される。
「は!? ここどこ……」
劉兎も同様に、突然起こった視界の変化に驚きを隠せない。
未完迷宮の破片と思わしきものが散らばっていく中で、劉兎が降り立ったのは最初に居た住宅地ではなく、謎の森の中。
戸惑いながらも周りを見渡す、目の前にはノイも立っており、その表情は驚きに満ちている。
「劉兎さん! 梓が居ない! どっか消えた!」
「なっ!」
背後から聴こえる仁志の言葉に思考がクリアになる。
目の前に立つノイも重要だが、それよりも大切なのは仲間である梓の命。
結界が解かれたというのを肌で感じた劉兎は、即座に梓の安否を確認するために踵を返そうとした。
「くっ……カイ!」
「えっ」
しかしあろうことか、先に動いたのはノイ。
先程までの、人を馬鹿にしたような表情から一転、真剣な眼差しに変遷すると、拳圧を劉兎達に繰り出した。
咄嗟に防御した劉兎だったが、その霊力の塊となった拳圧は触れた途端に爆発を起こし、その間にノイはその場を離れることとなる。
そしてノイが向かう先には、未完迷宮から弾き出された祥蔵達が居た。
「カイめ……意識飛ばす前に私達をどこかに飛ばしたなぁ……!」
「ぐっ……クソ……」
その場に居た全員が満身創痍だった。
何とか立てたのはジュンと祥蔵のみ。萌葱は左眼の喪失と薄氷の反動で意識を失いかけており、梓に関しては既に意識を失くしている。
極悪霊側も、仁志に気絶させられたカイが傍らで眠っていた。
「先にお前からだ!」
先に動き出したのは祥蔵。
カイはもはや使い物にならないと判断し、先にジュンを仕留めに掛かる。
地を蹴り、弧を描きながら低い姿勢でジュンに向かっていく。
二日間の継戦、幾度も繰り返された転送、無数の分離霊鞭、その全てが祥蔵の身体に疲労としてのしかかっている。
それでも祥蔵は、拳を構え、ジュンに接近した。
「小細工は要らない……このまま、仕留める――」
ブツブツと自分にだけ聴こえるように呟く。
最早拳から伸びる霊鞭は限界を迎えていた。
対するジュンも意識を朦朧としており、木に身体を預けている状態。
今なら決まる、祥蔵はそう思った。
「ここが天王山だ!」
「ガハッ!」
滑り込みざまに繰り出した拳がジュンに刺さる。微量の霊鞭も打撃を促進し、更にダメージを与える。
ジュンの口から漆黒の血液が噴き出され、祥蔵諸共汚していく。
飛び散る血液のことなど気にする余裕もなく、逆手の拳を構える祥蔵。刹那、ジュンと祥蔵の目線がかち合う。
「舐めんな!」
血を吐き出しながらの叫び、祥蔵の繰り出した右拳がジュンの左腕に止められる。
同時に右手で拳銃を構えたジュンは、間髪入れずに発砲した。
銃弾を浴び、背後に飛ばされる祥蔵。寸前で左手を使って防いでおり、致命傷を逃れていた。
「しぶといヤツめ!」
地面を転がる祥蔵の、光が灯った眼を見て叫ぶ。
木を背にしっかり立ち、拳銃を再び構える。
しかし、それだけでは飽き足らず、ジュンは周りの物質を吸収し始めた。
ジュンの周りに集まる廃材、物質、木々。その全てがジュンに味方をするように轟くと、瞬く間に大きな大砲を創り出した。
「灰すら残さん! 全員ここで死ね!」
「させるか!」
何とか起き上がった祥蔵は、目の前に構えられた大きな大砲に息を呑む。
ジュンもここまでの大技は限界なのか、白目を向き始めていた。
それでも大砲の中には黒い霊力が音を立てて溜まっていく。
漆黒の怒槌が来る、そう確信した。
「喰らえ! 『極光』!」
近づこうとした脚を止める。
既に攻撃は繰り出されようとしている。祥蔵に打つ手はなかった。
それでも躱せばいい話だと、踵を返そうとした時、先程のジュンの言葉が脳裏に刺さる。
「全員……と言ったか?」
眼前でバチバチと黒い霊力が音を立てる中で、祥蔵はその脚を止めて背後に振り返る。
背後には項垂れる萌葱と、倒れる梓。
自身が避ければ、確実にこの二人を飲み込んでしまう。
全てを察した祥蔵は、強く歯を食いしばった。
「ぬおおおおおおッ!!」
普段なら出すこともない野太い叫び声。
繰り出されたジュンの『極光』が、その声をかき消すように大きな塊となって放出される。
まるで極太のレーザー、プラズマ砲、光線、なんとでも形容できる漆黒の光が迫りくる。
祥蔵が選んだのは、今出せるだけの霊鞭と、自身の身体を使った防御だった。
「ハハハハハ! 死ね死ね死ねぇ!」
白目を向き、狂いに狂ったジュンの声が木霊する。
全力を出し切った『極光』は、祥蔵を起点に大きく森を焼き払った。
そしてその中心で、梓と萌葱を守るために仁王立ちする祥蔵。
その右腕は、焼き切られていた。




