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霊ノ謳  作者: しろくろあめ
第8章 未完迷宮

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第107話 猛追

「おい! もっと速度上げろよ!」

「これが限界だっつーの! お前こそさっさと回復しろや!」

「あまり揺らすな!」

「ワガママばかり言うんじゃねえよ!」


 未完迷宮(みかんめいきゅう)内のビルとビルを転々と移動するジュン。その背中にはカイを背負っており、未だダメージを回復していた。

 

 そして彼女たちが逃げている理由は、その背後にある。


霊鞭(れいべん)だ! 防げ!」

「チッ! クソが!」


 後ろを首だけで見続けていたカイが声を上げる。

 

 直ぐに空中で翻したジュンは、背後から迫る霊鞭を視認すると同時に、右手に備え付けていた散弾銃を発砲した。

 

 霊鞭を飛ばしたのは勿論祥蔵(しょうぞう)。何度分断されようとも、何度転送されようとも、分裂させた霊鞭を駆使して座標を把握し、ジュン達を追いかけていた。

 

 その表情は般若にも勝る怒りを孕み、眉間に加えられたシワはとても深い。

 目つきは鋭く二人を刺していて、それだけで身の毛がよだつ。


「クソ、逃げようがないぞ! 室内に入るか!?」

「暫く強制転移は使えん……そうだ、あそこのビルへ行け!」

「命令すんな! ぶっ殺すぞジジイ!」


 額に汗が滲み、次第に息も荒くなっていくジュン。

 こめかみには血管が浮き出ていて、明らかに湧き上がる怒りがあった。

 

 先の戦いで二度強制転移を祥蔵に付与したカイは、既に力を失っている。いくら未完迷宮の顕現者だとしても、座標すら指定せず人を移動させるのには充分なクールタイムが必要だった。

 

 そんな中、傍らの一際大きなビルを指さすカイに、ジュンは悪態を吐きながらも従う。


「着いたぞ!」

「それでいい……しっかり地に足つけろよ!」


 壁を駆け上がり、ビルの屋上に到達する。

 ジュンが両足で着地したのを確認したカイは、即座に黒い霊力を纏う両手を上空に振り上げた。

 

 刹那、二人が降り立ったビルが植物のように伸びていく。

 見る見るうちに空へと伸びていくビルを見て、祥蔵は嘆息した。


「またこの攻撃か、レパートリーのないヤツめ」


 驚くことも無く、冷静に目の前の壁へ霊鞭を刺すと、間髪入れず霊鞭で登っていく。

 

 祥蔵から逃げるように伸ばし続けるビルだったが、やがて結界の天井に激突すると、それ以上伸ばせず停止した。


「どうするんだ、こんなの時間稼ぎじゃないか」

「そんなこと僕に聞くな、お前が考えろ」

「――ッ! マジで殺してやろうか……」


 地面に座り込み、自身の回復に専念するカイ。

 一旦屋上で身を潜めようとするジュンだったが、カイの返答で潜伏を中止した。


「せめてお前も戦え」


 湧き上がる怒りを抑えるように眉をしかめたジュン。

 対するカイはそんな機微など一切気にせず溜息をついている。

 

 ジュンも冷静になるべく大きく息を吐くと、呟きながら懐から出したモノをカイに渡した。


「……時間稼ぎか」


 霊鞭を壁に刺し、直上していく祥蔵。

 その速度はとてつもないものであったが、上がっても上がっても先が見えない状態に舌打ちを鳴らす。

 

 瞬間、祥蔵の真横を銃弾が通った。


「……狙撃銃か」


 まだ見えない空の先、雲を隔てた最奥から撃鉄音が響く。

 

 咄嗟に上昇ではなく左右に身を翻させる祥蔵。回避された銃弾は真っすぐに地面へと向かっていく。

 ジュンからの攻撃であると悟ると、直ぐに上昇する動きを変えた。

 

 真っすぐに屋上に向かう点の動きから、左右に翻す動きを採用した線の動きへ、上昇する速度は減っても、停止はしない祥蔵の身体は、次第に雲を突き抜けていく。


「当たらねえ……当然か」


 屋上で狙撃銃のスコープを覗くジュンは溜息をつく。

 

 上空からの銃弾の雨は、遠距離ということもあって有効打になり得るものの、今回はその距離が遠すぎる上に祥蔵は絶え間なく線の動きを繰り返し狙いを定めきれない。

 

 近づいてくる祥蔵の影を追いながらも、最早狙撃ができないことを悟ると銃撃を止めた。

 

 そしてやって来る祥蔵。霊鞭を巻き戻して屋上に到達する。


「ッ!」

「死ね!」


 しかし、眼にしたのは二丁の散弾銃。

 祥蔵に向けられたそれは、屋上に到達したばかりの身体に無慈悲に撃ち込まれた。

 

 即座に霊鞭での防御に掛かる。ジュンとカイ、二人の悪霊から発砲された散弾銃は、ギリギリ防ぐことができたものの、祥蔵を再び空中に戻す。


「今だ! 戻せ!」

「言われなくても!」


 ジュンの言葉で、両手を下に振るカイ。

 ビルの大きさが元に戻っていく。

 

 祥蔵だけを空中に残し、ビルは遥か眼下へ。

 けれども、冷静に俯瞰した祥蔵は、防御に使った霊鞭をそのまま脚に巻いた。

 

 そして、祥蔵の身体は重力に従って落下していく。上昇の時とは違い、距離があればあるほど速度が増す身体は、ジュンにも補足できないのか銃撃は来ない。

 

 瞬時にその事実を察した祥蔵は、やがて見える屋上に向けて集中し――。


「来る! 避けろ!」


 落下地点から飛び退いた二人を無視して両脚で着地した。

 

 雲の上からの勢いと、元々の祥蔵の自重を足された衝撃は、簡単にビルを崩壊させる。

 

 崩れ去るビルの中で、両脚に巻いた霊鞭を戻す祥蔵は、再度強くカイ達を睨む。


「何だよ! 全然ダメージ無いじゃないか!」


 落下によるダメージを霊力強化と巻き付けた霊鞭により凌いだ祥蔵を見て、慌てるカイ。

 

 そんなカイを一瞥する暇も無く、肉薄した祥蔵は拳をぶち込んだ。


「お前は後で始末する、まずは貴様だ」


 カイを殴り飛ばしながらジュンに振り返る祥蔵。

 

 やはりカイを祓ってしまったら結界がどうなるか分からない関係上、先に仕留めるのはジュン。

 

 散弾銃を構えようとするジュンより先に地を蹴って懐に入ると、霊鞭を撒いた腕で腹部を殴る。

 仰け反るジュンの身体に霊鞭を撒きつけると、アンダースローで付近のビルに投げつけた。


「観念しろ」

「しないね!」


 直ぐにジュンを投げたビルに移動する。

 霊鞭でトドメを刺そうとするも、それよりも早く指に拳銃を創り出したジュンが発砲した。


「チッ……」

「ほんと便利だよなぁ! それ(霊鞭)!」


 矢庭に分離させた霊鞭を地面に刺す。

 簡易的な壁になった霊鞭は、銃弾を容易に防いで見せた。

 

 気にせず発砲を続けるジュン。祥蔵は霊鞭の裏で様子を伺っている。


(弾切れと同時に畳みかける……!)


 霊鞭を硬化させ、弾切れの時を待つ。

 そしてジュンから発砲音がしなくなったと同時に、壁から飛び出した。

 

 しかし、ジュンは口角を上げて散弾銃を構えていた。


「引っかかったな……! 私の力に際限があると思ったのか!」

(まずい……! やられた!)


 ジュンの創り出した銃に弾切れは無い。

 それを知らなかった祥蔵はまんまと策にハマる。

 

 ジュンの発砲した散弾銃が祥蔵の身体を抉り、空中へと弾き飛ばした。

 

 意識は残っている。けれども、祥蔵の目線はジュンではなく、先程壊したビルの瓦礫の中で吐血するカイに向いていた。

 カイは、祥蔵に両手を向けている。


「飛べ!」


 祥蔵の視界が暗転した。

 そしてビルの瓦礫にもたれかかり、カイも目を閉じる。

 

 そこに血相を変えたジュンが駆け付け、再び近くのビルの屋上へと跳んだ。


「意識は失うなよ! 失ったら全部終わっちゃうからな!」

「分かってる……大丈夫だ……」


 腹部から流れるどす黒い血液が止まらないカイ。

 目を閉じ、息が荒いものの、ジュンが心配する程でもないのか、その場に寝かせるように命令する。


「強制転移……使ったのか」

「ああ……だがどこに飛ばしたか分からん」

「どうせすぐに突き止められる……まさか私達が未完迷宮(ここ)で追い詰められるとはな。それもこれも、使い手が貧弱すぎる所為だが」

「僕の所為じゃない、二日も使っておいて奴らを仕留め切れないお前達に問題があるだろう」


 口論が始まる予感を察知したジュンは、小さく嘆息して踵を返した。


「お前の減らず口は本当にイラつくが……実際お前の意識が無くなったらこの結界も無くなるしな」

「良いことを聞いた」

「ッ! 嘘だろ!」


 聴こえる筈のない声に驚きを隠せないジュン。

 どこにいるのかとカイも含めて視界を右往左往させる。

 

 そんな中、堂々と跳び上がった祥蔵が、霊鞭を構えながら着地した。

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