表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊ノ謳  作者: しろくろあめ
第8章 未完迷宮

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/154

第104話 監紫獄

「さあ! 僕の可愛い子狐ちゃん! 『監紫獄(かんしごく)』はどうかな!」

「な……なにこれ!」


 ドクと戦闘を繰り広げていた(あずさ)だったが、突然地面の毒溜りから伸びた網に囚われ、空中で捕まってしまった。

 

 ドクの檻、通称『監紫獄』に囚われ、梓は身動きが取れなくなっている。

 

 捕まりながらも、なんとか霊鞭(れいべん)を身を纏い、直撃は抑えていた。

 

 毒溜りと同じく、毒でできた網も勿論触れれば毒に侵される。霊鞭から感じる痛みに眉をしかめながら、刺激臭に顔を逸らす。


「こんな檻に閉じ込めたって、触らなきゃどうとでもなる!」

「ふうん、そうかい」


 網の先に延びる毒液がビルとビルを繋ぎ、梓を空中に留まらせる中、ドクは優雅にその毒液の上に立って腹部に出来た狐火(きつねび)の火傷を治療していた。

 

 対する梓も一筋縄ではいかないと示すべく、囚われながらでも狐火を繰り出した。

 しかし、狐火を阻むように地面の毒溜りから現れた大蛇が身代わりになり、燃え上がる。

 

 大蛇が蒸発していくその裏で、ドクはギザ歯を見せて笑っていた。


「まあ、その威勢もいつまで続くのやら」

「ッ!」


 ドクを睨みつけていた梓だったが、咄嗟にその場で身を翻す。すると、梓を貫く様に毒液の光線が伸びていた。

 

 梓が間一髪避けたことで、ドクに吸い込まれていく光線。悪霊憑依による野性的感性で避けただけに過ぎない梓は、大きく息を荒げていた。


「凄い凄い! まさか、死角からの攻撃を簡単に避けて見せるなんて、君は可愛いだけじゃないんだねぇ」

「うっさい!」

「ふふ、怒っている君も可愛いよ……でも、そろそろ終わらせるね」


 一通り梓を嗤ったドクは、身体からあふれ出る毒液を四方に飛ばす。

 

 飛ばされた毒液はビルの壁や地面に付着すると、その全てが梓に向かって毒液の光線を放った。


「ごめんね……『チビ狐』!」

「ほう……」


 矢庭に淡紅色(たんこうしょく)の霊力を増幅させ、いくつかの小さな狐を創り出す。

 

 感心するドクに対し、即座に梓を守るように動いた小さな狐たちは、やってくる光線を身体を使って防ぎ切る。

 

 防ぎ切ったのも束の間、梓の眼下にある地面にヒビが入り、先程よりも巨大になった大蛇が口を開けて現れた。


「なんのこれしき!」


 監紫獄ごと梓を飲み込もうとする巨大蛇に対し、光線を防いだチビ狐たちにそのまま狐火を付与して激突させる。

 一瞬の膠着の後、元よりアドバンテージを取れていた狐火が巨大蛇を燃やしていった。

 

 監紫獄も解かれ、割れた地面の瓦礫に着地した梓。ドクを睨みつけると、同じく着地していたドクは笑みを貼り付けていた。


「茶番はここまでね」


 刹那、梓の背中を何かが貫く。

 

 貫いたのは、伸びる毒液の光線だった。

 

 痛みはそれ程ではない、細い糸のようにも見える一撃、貫かれたと言っても大きな穴が開いたわけではない。

 しかし問題は、被毒してしまうということだった。


「ぐっ……あああああッ!」

「僕の毒は被毒後だいたい二分で死に至る、残念だったね、君の命もここまでだよ」


 貫かれた直後、即効性のある毒が全身に回る。

 痛みから叫んだ梓は、無理矢理歯を食いしばりながら地面に膝を付いた。

 

 今まで喰らったものとは違う、細胞から破壊するような痛みにのたうち回りそうになるのを抑え、鼻を劈く腐敗臭に飲まれながらも、霊鞭を保つ。

 

 自身にできるだけ近づかせないように、六本の霊鞭を振るうものの、乱雑な攻撃が当たるわけもなく、辺りを壊すだけに留めてしまった。


「さあ、どうする? 君は最期に何を見せてくれるんだい!?」


 大げさに両手を広げ、梓を煽るドク。

 明らかに油断しているが、今はそれに反応できるほど梓の頭は回っていなかった。

 

 全身に走る痛みに、呼吸は荒く、額に滲む汗が垂れる。

 

 しかし不思議と、梓は立ち上がった。

 そして、笑みを向ける。


「じゃあ、もう消耗とか気にしなくてもいいわけだ」

「……は?」


 梓の言葉に、ドクの眼が見開かれる。

 期待していた答えではなかったのか、明らかに苛立った様子を見せると、口を開いた。

 

 瞬間、梓の全身から淡紅色の炎が放出される。


妖狐化(ビースト)!」


 明らかに正気ではない、梓の狂ったような瞳がドクを射貫く。

 そして、獣のように四つん這いになった途端、噴き出していた霊力は梓へと集まっていく。

 

 頭からは狐耳が生え、犬歯が力強く伸びる。尻尾が九つに割れ、毛並みが鋭くなっていく。

 

 そして何よりも、瞳が赤く光り輝いていた。


「さっきまでの可愛かった君はどこにいったんだい!」


 驚きを隠せないドク。対する梓は歯を食いしばりながら涎を垂らす始末。

 

 呻く梓、それは痛みからであったが、毒なのか、身体の変化ゆえなのか、本人にすら分からなかった。


「とりあえず……鎮まれ!」

「ううううッ! アアアアアッ!!」


 目の前の道を包み込むように、大蛇を出すドク。

 毒液を撒き散らす大蛇は、一直線に梓に向かう。

 

 しかし、最早被毒など気にしない梓は、大蛇に向かって跳び出すと、鉤爪状に硬化させていた霊鞭に狐火を纏い、容易く斬り伏せた。

 

 更に、大蛇の身体を突き破り、背後に立っていたドクの身体にバツ印の傷跡を付ける。


「冗談じゃない……『監紫獄』!」

「『化け狐』!」


 身体を斬りつけられ、バックステップで距離を置くドク。

 

 すかさず監紫獄を繰り出し、梓を捉えようとするものの、身体から噴き出した霊力が狐の形を取り、収縮しようとする網を掴んで引き千切った。


「マ……マジか!」

「ガアアアアアッ!」


 梓の全身から普通ではない軋み音が響き渡るものの、監紫獄を壊されたドクは完全に慄いていた。

 

 踵を返そうとするドク。当然許さない梓は、そのまま捨て身でドクに頭突きし、突き飛ばす。


「ふ、ふざけんなよ!」


 地面を転がり、死に物狂いで大蛇を生成するドク。

 迫りくる大蛇に対し、梓が選んだのは静観だった。

 

 口を開ける大蛇に対し、自ら飛び込むという暴挙。

 

 驚くドクだったが、即座に大蛇が苦しみだし、身体が崩壊する。現れた梓は、再び狐火を纏っていた。


「アアアアアッ!」


 そのまま地を蹴り、ドクの腹部に鉤爪状の霊鞭を突き刺す。

 しかし、同時にドクの身体が液状化し、地面に浸透してしまった。


「えっ! ど、どこに……!」


 間一髪逃れたドク、正気に戻った梓は辺りを見渡す。

 

 けれども、散乱する毒溜り、どこから出て来てもおかしくない。

 

 そして、その懸念を表わすが如く、毒液で創造された刀が梓を突き刺した。


「危なかった……間一髪だよ」


 刀を刺され、瀕死になった梓。

 安堵しながらドクが刀を引き抜こうとした、その瞬間だった。


「え……」


 ドクの右腕が斬り落とされたのだ。

 

 斬撃が来たのはドクの真横、恐る恐る視線を動かすと、そこには淡紅色に光る月音(つきね)が睨みつけながら立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ