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霊ノ謳  作者: しろくろあめ
第8章 未完迷宮

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第101話 銃と毒

「何故……お前がッ!」

「……萌葱(もえぎ)の『星雷花(せいらいか)』による花火を見たからだ」

「くっ……あの女ァ! 私への攻撃はブラフか!」


 すれ違いざまに硬化させた霊鞭(れいべん)で女性の腹を切った祥蔵(しょうぞう)は、翻しざまに立ち上がり睨みつける。

 

 対する女性は、切られた腹部から漆黒の血を流し、その場に蹲っていた。

 

 しかし、その右手の狙撃銃が、静かに散弾銃に変わっていくのを、祥蔵は見逃さない。

 それは、女性も想定内である。


「お前の力はこの二日間で大体分かった。廃材や霊力を取り込んで銃を創り出す、そういう物だろう。霊界(れいかい)を襲撃した時にバラクラバが持っていた銃……あれもお前が創ったものだな?」

「……何だ、タネは割れてんのか。ああそうさ、私は極悪霊(ごくあくりょう)のジュン。能力は……概ね正解だよ。それにしても、さっき転送されたはずだろ、お前が何でこんな近くに居るんだ」

「……『星雷花』で発見したと言ったろう」

「なるほどな……()()()の花火か」


 ジュンの足元に刺していた霊鞭を引き戻し、手の甲で硬化させて構えを取る。

 傷はそれほど深くないのか、話ながらでもジュンの出血が減っていくのが垣間見えた。

 

 本来であれば追撃したいものであったが、既にジュンの腕には狙撃銃から形を変えた散弾銃が控えている。迂闊に近寄れば餌食になるのは必至。


「確かに、この未完迷宮(みかんめいきゅう)の結界は、私達を移動させない……いや、正しくは頼めば移動できるがお前らを動かした方が効率は良い。だからお前は転送が始まる前にこのビルに入ったんだな」

「……仮説だったが、正解か。座標で掴んでいるんだろ、俺達の位置を」


 ゆっくりと立ち上がるジュン。

 祥蔵の仮説は、この結界『未完迷宮』の特徴を上手く掴んでいた。

 

 先程突入した(あずさ)とは違い、結界内時間で二日を要している萌葱と祥蔵は、何度も視界の暗転による転送を喰らっている。

 

 時には敵の前に、時には見知らぬ場所に移動させられる度に体力と精神力を使っていた。

 

 しかし、移動させられるごとに条件を分析していたのだ。


「……ご明察、よく分かっているじゃないか、初見にしては理解が早いな」

「そして、この結界を操る奴がもう一人居ることも分かっている」

「ふうん……まあ、分かったってどうしようもないだろ!」


 突然語気を強めたジュン。直ぐに散弾銃を祥蔵に構えた。

 

 即座に撃鉄音が轟き、発砲される散弾。冷静にそれを見ていた祥蔵は、矢庭に身を翻し、ビルから飛び降りた。


「なっ! 小癪な!」


 発砲された散弾は衝撃と共に部屋を更に壊す。

 それでもそこには祥蔵はいない。


 空っぽになった空間に跳び出し、即座に追いかけるジュン。散弾銃を再び狙撃銃に変え、身を乗り出した。

 

 だが、その判断が間違っていたと、直ぐに気づくこととなる。


「お前のことも、この二日間で分析したよ」

「……は?」


 飛び降りて逃げたと思われた祥蔵。

 その実は左手の霊鞭をビルの壁に刺し、潜伏しているだけに過ぎなかった。

 

 気づけなかったジュンは狙撃銃を構えるために身を乗り出し、銃身は完全に斜め下を向いている。

 眼下に構えている祥蔵には、絶対に向けられない射線だった。

 

 刹那、右拳をジュンに向けて振るい、硬化された霊鞭が伸びていく。防ぐこともままならなかったジュンは、左目から頭を貫かれ、弾き飛ばされた。


「痛てえな……」


 背中から地面に叩きつけられたジュン。その顔には夥しい一本線の傷が残る。

 

 黒い霊力がそれを治すために包んでいく中、左手の霊鞭を巻き戻して部屋に戻ってきた祥蔵は追撃を構えた。

 

 しかし、ジュンは構えを取らず、ニヒルな笑みを浮かべる。


「お前とは相性が悪いな……カイ! 転生しろ!」

「なッ!」


 空に向かって叫んだジュン。同時に祥蔵の視界が暗転する。

 

 咄嗟に霊鞭を繰り出すも、手ごたえは無かった。

 視界が晴れた先は、どこか別のビルの上。


「座標指定ではなかったのか……? いや、今のは結界の顕現者に向けたものか……どれだけ敵を追い込んでも転送させられるならジリ貧が過ぎる」


 ビルの上で周りを見渡す。戦闘の音は響いていない。

 誰の気配もしないことを確認すると、霊鞭を使ってビルとビルの間を進み始めた。


「銃を使うヤツが『相性が悪い』というなら、狙われはしない……なら、俺がやるのは結界の顕現者を仕留める事か」





「『毒蛇(どくじゃ)』!」

「くっ!」


 同じく霊鞭でドクが操る紫色の大蛇から逃げ惑う(あずさ)

 

 容赦なく噛みつこうとしてくる大蛇に対し、両手の霊鞭を駆使してビルとビルの間を移動し続ける。

 

 しかし、蛇から飛び散った紫色の液体が地面や壁を汚す度に、刺激臭を漂わせる煙を上げて溶けて行くのが目に見えていた。


「あなた……毒を使うのね。だから名前も『ドク』……安直!」

「おお! よく分かったねぇ、凄いよ君。それに今、僕のことを名前で呼んでくれたよね! 良かったらもっと呼んでくれないかな! 彼女みたいに!」

「誰があなたの彼女なんかになるか!」

「ふふ……直ぐにそんなことも言えないようになるさ、能力が分かったからって、なんだって言うんだ」


 ドクのアプローチに本気で引いている梓。それでも大蛇は噛みつきを繰り出し続ける。

 間一髪当たらないように身を翻し続けているが、それも長くは続かない。

 

 更に、全身に纏う毒液を地面に垂らし始めたドクを見て、梓は絶句した。


「ああ! その顔良いよ! 一匹でもままならなかったのに、二匹目を増やされたら困るよね! そうだよねぇ! だから、増やしちゃう」


 まるで語尾にハートマークがついているのかと錯覚させるほど頬を赤らめるドク。

 

 そんな言葉とは裏腹に、地面に溜められた毒液からは、二匹目の大蛇が顔を出した。


「一か八か……『狐火(きつねび)』!」


 二匹目の大蛇が顔を出し、梓へと迫りくる。

 一匹でも捌くのにリソースを全て割いていたこともあり、避け続けることは無理だと判断した。

 

 だからこそ、淡紅色(たんこうしょく)の霊力を燃え上がらせ、手に携えた『狐火』を繰り出す。

 

 狐火が当たったのは先程から梓を食おうとしていた一匹目。霊力で創られた特殊な炎に身を焼かれると、逃げるように飛び散った毒液の中に姿をくらませる。


「……消えないのか」

「あたしの炎は特別性だよ!」


 消化のために液体に身を着けたが、それが逆効果となる。

 

 月音(つきね)を憑依させ、特殊な霊力を使用することで創り出された狐火は、水では消化できない性質を持つ。それは毒液であろうとも同じで、飛び込んだ毒液ごと焼かれた大蛇は、大声を上げて蒸発していった。


「狐火なら通じる……なら!」


 迫る二匹目の大蛇を翻して避け、続けて狐火で燃やしていく。

 

 悲鳴を上げて蒸発していく大蛇を他所に、ドクへと振り返った梓は、両手に携えた霊力を更に燃え上がらせた。


「ぶっつけ本番! 喰らえ! 『狐の嫁入り』!」

「……火の雨!」


 霊力を薄く延ばし、無数の狐火を創造する。

 空中でそれを振り下ろすことで、鋭く伸びた狐火が雨のように地面に降り注いだ。

 

 ドクは直感的に毒液を傘のように頭上に展開し、直撃を免れる。それでも毒の傘は狐火が引火した。


「嫁入り……僕のお嫁さんになってくれるのかな?」

「なるわけないでしょ!」


 降り注ぐ火の雨の中、地面に着地した梓は自身の身体に狐火が当たることも厭わずドクに突進する。

 

 頭上を気にしていたドクは寸前で梓の接近に気付くも遅く、毒の傘から滴り落ちる毒液を退けた梓は、瞬く間にドクの懐に入った。

 

 靴が毒液を踏み、忽ち刺激臭が漂う。

 それでも狐火を付与し、鉤爪状にした霊鞭を使い、腹部を殴りつける。


「どうだっ!」

「やっと……入ったね、ツンデレさん」


 殴り飛ばされ、地面を転がったドク。その表情は笑っていて、ギザ歯が見え隠れしていた。

 

 溶け続ける靴を案じ、直ぐに跳び上がった梓だったが、ドクはそれを目で追いながら指を鳴らす。

 

 同時に、ポコポコと音を立てた地面の毒液溜まりから毒液の網が繰り出された。

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