第8話 幹部総出の罠、道に迷って壊滅
俺たちは聖都を出て北へ向かっていた。
リリィとイリス、そしてノクス。目的はもちろん「帰郷門」の条件を揃えること。
……だったのだが、なぜか道の両脇に妙に物騒な影がちらつく。
「……カケルさま、気のせいじゃなければ、囲まれてます」
「たぶん気のせいじゃないね」
森の中から現れたのは、黒鎧をまとった一団。人間離れした気配。
前に立ったのは、角の生えた巨漢。背には黒剣。背後には翼や鎌を持った怪人たち。
「異界の勇者よ。我ら魔王軍幹部、直々に葬ってくれる!」
どうやらご丁寧に幹部勢揃いらしい。ラスボス手前のサービスシーン?
俺は剣も持ってないし、帰る気満々だし。正直、戦う気なんてない。
「いや、ちょっと道に迷ってただけで……帰りたいんですけど」
「逃がすと思うか!」
巨漢が剣を振り下ろす。俺はとっさにリリィとイリスの手を取って横に飛ぶ。
その拍子に足が石に引っかかって——盛大に転んだ。
「きゃああっ!」「カケルさま!?」
……のだが、俺が転んだ方向が悪かった。
地面に埋まっていた魔王軍の転移陣の中心。そこに頭から突っ込んだせいで、魔法陣が暴走した。
「な、なにぃ!?」「転移の制御が崩れた!?」
幹部たちは慌てて退避しようとするが遅い。
陣が爆ぜ、周囲の空間がぐにゃりと曲がった。次の瞬間、幹部全員が別方向にバラ撒かれ、森の奥へと吹っ飛んでいった。
「……え、帰った?」
「……か、カケルさま。幹部たちが……壊滅しました」
「俺、転んだだけなんだけど」
地面には、焼け焦げた陣の跡。幹部軍団は跡形もなく散り散り。
森に残っていた魔物も、陣の暴走の余波で消し飛んでいた。
「すごい……! 一瞬で……」
「いや、マジでこけただけ」
リリィが潤んだ目で見上げ、イリスは苦笑しながら首を振った。
「あなた、本当に……無自覚で世界を変えるんですね」
ノクスは肩でゴロゴロ喉を鳴らし、まるで「はいはい」みたいな顔。
——こうして、俺の「道迷い」で魔王軍幹部総出の作戦は勝手に潰えた。