第7話 聖都の追放聖女
聖都アルカ。白い大聖堂が空に伸び、鐘の音が響いている。
しかし門前は騒然としていた。信者たちが怒号を上げ、誰かを追い立てている。
「……あれは?」
「追放された聖女様です!」
人々に石を投げられていたのは、ボロ布姿の少女。銀髪に青い瞳。
彼女は必死に叫んでいた。
「私は……裏切ってなどいない! ただ、奇跡が使えなくなっただけ……!」
俺は反射的に前に出た。石を投げようとした信者の腕を止める。
「……やめなよ。痛いし危ないから」
「何者だ貴様!」
「帰宅部」
石は俺の頭上をかすめ、そのまま鐘楼の金具に当たった。カン、と響く音。
すると不思議なことに、大聖堂の鐘が勝手に共鳴し始めた。深い音が街全体に広がり、暴徒たちの動きがピタリと止まる。
次の瞬間、怒号は消え、沈黙のあとに拍手が起こった。
「勇者が聖女を守った!」「奇跡が戻った!」
少女は涙を浮かべ、俺にすがる。
「ありがとう……私はイリス。かつて聖女と呼ばれた者です」
「元聖女でもいいでしょ。肩書きなんて捨てちゃえば」
イリスははっとして、微笑んだ。
その瞬間、彼女の胸元から光の羽が舞い、聖堂の尖塔に飛んでいった。
信者たちが跪き、「聖女の力が戻った!」と大騒ぎになる。
「違う、私は……!」
「まあいいじゃん。戻ったなら」
俺は肩をすくめ、リリィとノクスと顔を見合わせた。
門の条件三つ目、「外聞を捨てる」。——たぶんイリスがその鍵になる。
彼女を仲間に加え、俺たちは再び旅立つ。
その夜、宿で。
イリスは真剣な目で俺を見つめて言った。
「あなたは……英雄の顔をしながら、英雄を拒んでいる。そんな人を、初めて見た」
「俺は帰宅部だから」
ノクスが「ニャ」と相槌を打つ。リリィは笑って「帰宅部……強いです」と小声で呟いた。
こうして俺たちの旅は、世界を救うみたいな顔をしながら、ひたすら帰宅を目指すものとなっていく。
——次なる舞台は、魔王軍の幹部たちが待ち受ける戦場だった。