第6話 空賊と空の島
上昇する風柱を抜けると、そこは雲海の上。浮かぶ大小の島々が点々と散らばっている。
木々が繁り、滝が空へ落ち、鳥の群れが旋回していた。まさに空の大地。
「わあ……空に森が……!」
「酔いそう……地面が揺れてる」
島に降り立つと、すぐに物騒な声が響いた。
「止まれ! ここは空賊団《嵐の牙》の縄張りだ!」
現れたのは、鎖や羽飾りで武装した男たち。飛行艇が空に浮かんでいる。
俺たちはあっさり囲まれた。
「金か食料か女を置いてけ!」
「いや帰るだけなんで」
言った瞬間、空賊たちの船がぐらりと傾いた。
ノクスが飛び乗って、甲板の上の縄を前足で引っ張ったらしい。マストがぼきりと折れ、船体が勝手に木の枝に絡まって動けなくなった。
「し、沈む!?」
「いや、引っかかってるだけだよ」
空賊たちは慌てふためき、船を捨てて逃げた。結果、俺たちは無血で島を手に入れることに。
その島の中心には、巨大な石の心臓があった。脈打つ光が島全体を浮かせている。
「これが……浮遊石の心臓……!」
「はい、条件その二ゲット」
リリィが涙ぐみながら見上げる。
そのとき、背後から声。
「そこの者! 島を救ったのは貴様か!」
振り向けば、翼を持つ種族の少女。白い羽を広げ、鎧をまとっている。
「我らは空の守護者、竜翼族。島を守るため、空賊に抵抗していた。そなたが嵐の牙を退けたと?」
「猫がやりました」
ノクスが「ニャ」と返事。竜翼族の少女は目を輝かせた。
「その黒猫……神獣の化身……! 貴殿こそ伝説の——」
「伝説じゃなくて帰宅部」
だが話は止まらない。竜翼族は島全体で俺をもてなし、「空の救世主」として讃えた。
翼の長老から、帰郷門の伝承に関する追加情報も手に入れた。条件の三つ目——外聞を脱ぐとはつまり、「世界中に英雄と呼ばれたうえで、それを笑って捨てること」らしい。
「笑って捨てる……?」
「まあ、元からいらないし」
夜、島の広場で宴。竜翼族の少女が真剣に言った。
「英雄殿、どうかこの世界をお救いください!」
「……いや帰るけど?」
静まり返る広場。
次の瞬間、「そうか……異邦の者よ、己の道を貫くのか」としみじみ頷かれた。
勝手に深読みされるのにも、もう慣れてきた。
翌朝、浮遊石の欠片を一つ譲り受け、俺たちは再び地上へ降りた。
次の目的地は聖都。聖女のもとに門の手掛かりがあるという。