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第11話 英雄信仰の鎖を外す

聖都を出てから数日。

 俺たちは再び砂漠を抜け、浮遊石の欠片と竜の涙を手に、いよいよ帰郷門があるとされる場所へ向かっていた。

 夜明け前。石造りの遺跡。半ば砂に埋もれた円形の門。

 そこに古い碑文が刻まれていた。

「竜の涙を捧げ、浮遊石の心臓を添え、

 英雄の外聞を笑い飛ばすとき、門は開く」

「……最後の条件、外聞を笑って捨てる、ってやつですね」

 イリスが神妙に言う。

 リリィは心配そうに俺を見つめた。

「でもカケルさまは……もう各地で英雄扱いされてます。あれを“捨てる”なんて」

「大丈夫。もともと、帰宅部だから」

 俺は門の前に立ち、深呼吸した。

 すると、背後からざわめき。

 振り向けば——砂漠の民、竜翼族、聖都の信徒、王都の兵士……これまでの旅で出会った人々が集まっていた。

 皆が口々に叫ぶ。

「英雄カケルよ!」

「救世主様!」

「帰らないで、この世界を導いてください!」

 ……なるほど。

 これが“鎖”。世界そのものが、俺を縛っている。

 ノクスが肩でしっぽを揺らし、イリスが小さく頷いた。

 俺は人々の前に出て、わざとらしく肩をすくめた。

「俺は英雄じゃない。ただの帰宅部員です。

 ——勇者だ? 違う違う。部活帰りに道に迷ってただけ」

 沈黙が走った。

 人々はぽかんとし、次の瞬間……誰かが吹き出した。

「……ぶ、部活帰り!?」

「え、帰宅部って何!?」

「英雄が……そんな理由で!?」

 笑いが連鎖した。砂漠の民も、聖都の信徒も、王都の兵も。

 世界中の「英雄信仰」が、馬鹿馬鹿しい冗談みたいに笑い飛ばされた瞬間だった。

 門の石碑が音を立てて崩れ、光が漏れ出す。

 巨大な円形の扉が、星空のような空間を映し出していた。

「……開いた」

「これが……帰郷門……!」

 イリスが涙をこぼし、リリィは目を輝かせた。

 ノクスはしっぽをピンと立て、「ニャ」と鳴いた。

 俺は一歩、光の中へ踏み出した。

 ——でも、まだ背後に声が届く。

「カケルさま! 本当に……帰ってしまうんですか!?」

 リリィの声が震える。

 俺は振り向いて笑った。

「帰宅部は帰る。……でもまた来るかも」

 そう言って、光の門へ身を投じた。

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