第10話 魔王、元異邦人
荒野の向こうに、黒い城がそびえていた。
周囲の空は曇り、雷鳴が走る。けれど城門前には、思ったより静かな人影が立っていた。
「待っていたぞ、勇者よ」
漆黒のマント。だが顔立ちは驚くほど整っていて、どこか現代的な雰囲気を持っていた。
魔王——と呼ばれる存在。だがその目は、憎悪よりも疲れをたたえている。
「お前も……異世界から呼ばれたのだろう?」
「……え?」
魔王はゆっくりと近づき、手を広げた。
「俺は十年前、この世界に召喚された。勇者として。だが帰れず、利用され、最後には“魔王”の役を押し付けられた」
イリスが息を呑む。リリィは震えながら俺の袖を掴む。
魔王は続けた。
「お前も帰りたいはずだ。この世界は俺たちを役に縛り、帰る道を塞ぐ。だから俺は、役を壊すために“魔王”を演じている」
……頭の声が言っていた。「魔王は元異邦人」。どうやら本当らしい。
俺は口を開いた。
「俺も帰りたい。だから魔王とか勇者とか、どうでもいい。帰宅部で帰る」
魔王の目が大きく見開かれ、次の瞬間、笑いが漏れた。
「……そうか。なら、俺とお前は同類だな。だが——この世界は簡単に帰さない。英雄の鎖を断てるかどうか……見せてもらうぞ」
空に雷鳴。地面が震え、魔王軍の残党が姿を現す。
けれど俺はため息をひとつ。
「帰りたい」
その一言で、空を覆っていた雲がぱかりと割れ、光が差し込む。
残党たちは怯えて後退し、城門すら軋んで勝手に開いた。
「……無自覚にも程があるな」
魔王は肩をすくめ、ゆっくりと俺に背を向けた。
「次に会うときが、決着の時だ。——帰るためにな」
黒いマントが翻り、雷鳴とともに魔王は城へ消えた。
俺は空を仰いだ。
残る条件はただひとつ。英雄の外聞を、笑って捨てること。
世界が俺を縛ろうとするなら、それを冗談で切り捨ててやるだけだ。
ノクスが「ニャ」と鳴き、リリィとイリスが力強くうなずいた。
帰宅部の最終戦が、近づいていた。




