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記憶よりも、深く  作者: 黒猫の凜
第二章
9/14

綻び

由衣が信者に繰り返す記憶の上書き。

薄暗い室内にひれ伏す姿は、まるで儀式のようだった――。


由衣にとって、もはや習慣となっていたその儀式の最中、

1人の信者が苦しそうな声を上げた――。


ほとんど感情を失っていた由衣も、思わず顔をあげた。


頭を抱え、呻き声を上げる――。

こんなことは今までなかった。

彼女は、由衣に視線を向ける――怯えるような、助けを求めるような。

次の瞬間、その身体は逃げるように走り出していた――。


由衣は慌てて手を伸ばし、“去っていく背中”を見た――。



遠い記憶が蘇る……。


『あー、ごめん。あたし用事あるから。』


初めて能力を使った時。

急に態度を変えて去っていく背中を、茫然と見つめていた――。

あれから、どれだけの人生を壊してきたのだろうか……。


(自分は一体、何をしてるんだろう……)


言いようのない虚無感――。


「いい……。追わなくていいから。」


由衣は、他の信者を制止した――。



しばらくして、錯乱している人物の情報がCPAに寄せられた。

奇しくも、その連絡を受け、現場に向かったのは咲希だった。

警察に保護されたが、記憶の混乱がみられ、特殊能力との関連を疑われたそうだ。


今までで最も由衣を思い起こさせる事案――。


はやる気持ちを抑え、保護された人物と接触を図る。



相手は落ち着かない様子で辺りを見回していた。

咲希は、できる限り刺激しないように聞き取りを行った。

それでも途中、取り乱す相手を何度も宥めることになった……。


調査結果をまとめると、

・名前などは答えられるが、最近までどこで何をしていたかは答えたくない様子。

・出身校や職歴を尋ねていくと、途中で記憶の乱れがある。


ここまででもかなり確信めいたものはあった。

記憶の乱れは、恐らく無理に記憶を上書きされたからだろう。


最後の決め手――

咲希は、ゆっくりと息をつき、一枚の写真を見せた。


「見覚えはありますか?」


相手は一瞬目を見開き、答えた――。


「……知りません。なにも。」


その様子をじっと見つめ、咲希は何かの結論を得たようだった。


「そうですか。ありがとうございました。」


声は静かだったが、咲希の内心には確かな手応えがあった。


――本部に報告を終えた咲希の目は、ようやく由衣の影を捉えた。

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