2人が選んだ道
由衣が姿を消して、3年の月日が流れた――
咲希のデスクには、特殊能力事件の資料が無造作に広がっている。
いつも新しい情報が入り次第、すぐに目を通す。
そこに由衣の影を探すかのように――。
咲希はあれから、知人への聞き込みやネットで由衣を探し続けた。
しかし想いは届かぬまま、卒業式を迎えた。
このまま個人で探すことに限界を感じ、思い至ったのが、
CPA――あの日、咲希に聞き取り調査をした国の機関だった。
とはいっても、簡単な道ではなかったが……。
運動神経には自信があった。
学力は……あの日の後悔を胸に、必死に食らいついた。
その結果、最年少でCPAに所属することができた。
特殊能力者について学ぶ中で、思ったことがある――。
多くの特殊能力者は、視力や腕力など、身体的な資質が突出する。
だが――由衣の力は異質だった。
彼女は「記憶を書き換える」ことができる……それも、恐らく念じただけで。
由衣の力は強すぎる――。
年月が経った今では、由衣もその強い力に振り回された1人なのかもしれないと感じていた。
(ちゃんと見つけるから……まっててね。)
*
薄暗い廃ビルの一室で、跪く人影が並んでいた。
由衣は端から順に記憶を操作していく――。
この3年間、何かから逃げる為、生き延びる為、能力を使い続けた。
今では、記憶を操作された人々が半ば“信者”のように由衣を囲っていた。
それでも安心できない由衣は、週に一度はこうして記憶の操作を重ね、裏切る者、反抗する者が現れないようにしている。
生活に必要なものは、食事でも着替えでも、周りの誰かが用意してくれていた。
どこで調達したものかは分からないが、今の由衣にはどうでもよかった。
思い出すのは、過去の後悔と、いつも側にあった優しさ……。
(咲希……ごめんね。もう、戻れないよ……。)
忠実な眼差しに囲まれながら、
それでも彼女は、誰より孤独な眠りに落ちていった。