信頼の崩壊
咲希の不安げな顔を見る――。
こんなに近くにいたのに、気付かなかった。
それほどに、心に余裕がなかった。
「今の……嘘、だよね?」
咲希はたどたどしく言葉を紡ぎながら、何かを確かめようとする。
「……だから、みんな変わっていったの?」
言葉が出ない――。
咲希にこんな思いをさせたくなかった。
でも……それでも、咲希には能力を使いたくない……。
葛藤する由衣に、ぽつりと咲希が口を開く――。
「わたしも?」
「……え?」
「わたしも、由衣に変えられてるの……?」
息が詰まる――。
(違う、違う……!!そんなことするわけない!!)
言葉が出ない――。
何を言っても証明になんてならない。
何人もの記憶に手を出したのは事実だ……。
大好きな咲希が、見たことのない表情をしている――。
疑念と不安にまみれた、悲しげな顔……。
それを見て、
由衣の中で、ぷつんと何かが切れた――。
視界が滲んで、咲希の顔が見えなくなった。
足が勝手に動いていた――。
わたしは――大切な人の信頼を、この手で壊したんだ。
(なんで、こうなったのかな……)
本当は分かっていた。
間違いだらけの能力者生活を振り切るように、涙を拭いながら走り去った――。
*
あれから咲希は、国の機関の人達に話を聞かれ、解放された頃には昼を過ぎていた。
家まで送ってもらい、玄関のドアを閉めた瞬間、全身から力が抜けた……。
靴も脱がずに、ただその場に座り込む。
頭がぼんやりして、現実味がなかった。
由衣は、まだ見つかっていないそうだ。
昨日まで近くにいた由衣は、もういない――。
重い身体を起こし、部屋へ入る。
なにもかも嘘だったのだろうかと部屋を眺めると、ふと目に留まったものがあった。
それは、長年に渡る、由衣とのアルバムだった……。
写真に写る由衣は、咲希に頭を預け、安心しきった笑顔を向けている。
そこから湧き上がる確かな記憶に触れ、咲希の頬に涙が伝う――。
(そうだ……これも、きっと本当だった。変えられた記憶なんかじゃない――)
感情の波に押され、嗚咽が漏れる……。
「なんで、信じてあげられなかったのかな……。どうしたら、助けられたのかな……。」
写真の中の由衣が、涙で滲んでゆれる。
笑っているはずなのに、どこか寂しそうに見えた――。




