表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶よりも、深く  作者: 黒猫の凜
第一章
7/14

信頼の崩壊

咲希の不安げな顔を見る――。


こんなに近くにいたのに、気付かなかった。

それほどに、心に余裕がなかった。


「今の……嘘、だよね?」


咲希はたどたどしく言葉を紡ぎながら、何かを確かめようとする。


「……だから、みんな変わっていったの?」



言葉が出ない――。


咲希にこんな思いをさせたくなかった。

でも……それでも、咲希には能力を使いたくない……。


葛藤する由衣に、ぽつりと咲希が口を開く――。


「わたしも?」


「……え?」


「わたしも、由衣に変えられてるの……?」


息が詰まる――。

(違う、違う……!!そんなことするわけない!!)


言葉が出ない――。

何を言っても証明になんてならない。

何人もの記憶に手を出したのは事実だ……。


大好きな咲希が、見たことのない表情をしている――。


疑念と不安にまみれた、悲しげな顔……。


それを見て、

由衣の中で、ぷつんと何かが切れた――。


視界が滲んで、咲希の顔が見えなくなった。

足が勝手に動いていた――。

わたしは――大切な人の信頼を、この手で壊したんだ。


(なんで、こうなったのかな……)


本当は分かっていた。


間違いだらけの能力者生活を振り切るように、涙を拭いながら走り去った――。



あれから咲希は、国の機関の人達に話を聞かれ、解放された頃には昼を過ぎていた。


家まで送ってもらい、玄関のドアを閉めた瞬間、全身から力が抜けた……。

靴も脱がずに、ただその場に座り込む。

頭がぼんやりして、現実味がなかった。


由衣は、まだ見つかっていないそうだ。


昨日まで近くにいた由衣は、もういない――。


重い身体を起こし、部屋へ入る。


なにもかも嘘だったのだろうかと部屋を眺めると、ふと目に留まったものがあった。


それは、長年に渡る、由衣とのアルバムだった……。


写真に写る由衣は、咲希に頭を預け、安心しきった笑顔を向けている。

そこから湧き上がる確かな記憶に触れ、咲希の頬に涙が伝う――。


(そうだ……これも、きっと本当だった。変えられた記憶なんかじゃない――)


感情の波に押され、嗚咽が漏れる……。


「なんで、信じてあげられなかったのかな……。どうしたら、助けられたのかな……。」


写真の中の由衣が、涙で滲んでゆれる。

笑っているはずなのに、どこか寂しそうに見えた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ