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記憶よりも、深く  作者: 黒猫の凜
第二章
14/14

2人の帰る場所

由衣は、すぐに病院に搬送され、検査を受けた――。


……結果として、身体に異常は見つからなかった。

彼女が抜け殻のようになっている理由について、医師たちはこう結論づけた。


「自身の能力によって記憶を失った可能性が高い――」


それが事故だったのか、それとも彼女の意思によるものか。

……真相は、今も分からないままだ。



あの廃ビルにいた、由衣の“被害者たち”にも事実は告げられた。

彼女の能力によって記憶を操作されていたこと。

そして、その記憶が元に戻る見込みがほとんどないことも。


それでも皆、一様に由衣の身を案じていた……。

「彼女は大丈夫なのか」と、咲希に問いかけてきた。



その後、由衣は専門の施設に移送された。

外界から遮断されたその場所で、国の監視下に置かれている。


咲希は、定期的に彼女を訪ねるようになった。


最初の頃は、

顔を合わせる度に感情が込み上げてきて、涙が止まらなかった。


(あの時、あんな言葉をこぼさなければ……)

(もっと、早く見つけ出せていたなら……)


悔いは消えない。


そんな時、由衣はいつも、

心配そうな顔で咲希を見つめてくれた。


そのたび咲希は、彼女の頭をやさしく撫でながら、こう声をかける。


「……だいじょうぶだよ。」


返事はない――

だけど不思議と、慰められているような気がした。





あれから半年が過ぎた――。


面会証を首から下げ、咲希は今日も施設の門をくぐった。

今では道順を覚え、この広い建物の中でも迷うことはない。


由衣の記憶は、いまだ戻る兆しを見せない。


だが、それでも……咲希は歩みを止めない。



面会室に入ると、由衣は嬉しそうな顔を見せた。


おぼつかない足取りで近くまで来ると、

咲希の胸元に頭をあずけ、ほっとしたように甘える。


まるで……自分を母親だと思っているかのように。


咲希は、そんな彼女の髪をそっと撫でながら、静かに想う――。



由衣は――

あまりにも多くの、取り返しのつかないことをしてきた。

社会的には、決して許されるものではない。

能力に翻弄されたとはいえ、それが免罪符になるわけでもない。



……それでも。



“由衣”が、生きていてくれること――

こうして、目の前にいてくれるだけで――

わたしは、何より嬉しい。



咲希は、そっと由衣の背中に腕をまわし、抱きしめる――

悔しさも、悲しみも、愛しさも、全部まるごと抱きしめながら。


その腕の中で、由衣は、

ようやくなにかを見つけたかのように微笑む――

咲希もまた、静かに微笑みを返した。


それが、2人の――

帰るべき場所だった。

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