記憶との別れ
夢の中で、何度も聞いた声がまた蘇る。
『わたしも、由衣に変えられてるの……?』
あの日、校門の側で。
咲希の表情まで、今でも鮮明に思い出せる――。
何度繰り返しても、あの言葉だけは忘れられなかった。
(あの時、咲希のことを変えたりするわけないって思ったけど……)
(結局……私は咲希の人生を変えちゃったんだね……)
(ごめん……本当にごめんね。)
咲希は怒っているだろうか?
復讐しにきたんだろうか?
軽蔑しているだろうか?
それとも、今でも心配してくれているのだろうか――?
……怖い。
咲希に会うのが――
咲希にどう思われているか知ることが――
どうしようもなく怖い――。
遠くで足音が聞こえる――。
私は大勢の人生を壊した。
(来ないで……。咲希に会いたい……でも……)
咲希に会ったら、きっと拒絶される。
軽蔑されて、責められて……私は、全部失う。
(咲希に突き放されるのが怖くてたまらない―――)
足音が近づく。逃げられない。
喉が詰まって、声にならない音を漏らす――
(お願い、来ないで……でも、声が聞きたい……名前を呼んでほしい……)
由衣の心のヒビが、取り返しがつかないほど大きくなっていく――。
手の震えが止まらない……
もう嫌だ…
足音がひときわ大きくなる―――
「ああ、咲希が来る………」
その一瞬で、脳裏にいくつもの過去が走馬灯のように流れ、由衣は目を閉じた―――。
心の中で、何かが静かにほどけていく音がした。
((もう、許して……。全部忘れさせて―――!!!))
由衣の能力が、今までで一番強く発動する―――
世界から、色が……音が……感情が、ひとつずつ消えていく――
咲希の足音さえ、今はもう聞こえない――
まるで、自分ごと世界を閉じ込めたみたいだった。