揺れる心
信者が脱走した日から、由衣は半ば自棄になっていた。
過去を思い出しては、自己嫌悪に陥る……。
(……私が壊したのは、何人分の人生なんだろう?)
(あの日、捕まっていればよかったんだ……)
由衣は自嘲気味に笑う。
――そこに、信者が駆け寄り手短に報告した。
「怪しい人物がこの辺りで聞き込みを行っています。」
恐らく、あの脱走者から足がついたのだろう。
潮時かもしれない。
由衣は息をつき、差し出されたスマホを見た――。
一瞬、時間が止まったように感じた。
指先から力が抜け、スマホを落としかける。
「……咲希?」
呟いた声が震えている。見間違えるわけがない――。
心臓が胸を打ちつけ、呼吸が浅くなる。
最初に思ったのは、「どうして?」だった。
胸の痛みが治まらない……。
大きく息をしながら考える――。
……咲希は私を探しにきたのだ。
恐らくその為にどこかの組織にでも入って――。
さっきまで、捕まる覚悟さえできていたのに……。
(どうしよう……)
今、頭の中にあるのはそれだけだった。
咲希のことを忘れたことなんてなかった。
(今の私を見たら、咲希はきっと軽蔑する――)
(笑って、名前を呼んでくれるわけがない……)
だから、今更会うのが怖い――。
気付けば、信者たちが不安げに見つめていた。
(でも、咲希を……傷付けたくはない。)
由衣は、最後の命令を伝えた――。
「今から誰が来ても、抵抗しないで……。」
*
咲希は増援部隊と合流し、突入の合図を待っている――。
――やっとここまで来た。
逃げられたって、傷付けられたって、私は由衣を見捨てられなかった。
あの日、由衣との絆を信じてあげられなくてごめんって伝えたい。
多分、由衣は戻れない場所まで来てしまった。
それでも、連れ戻せると信じてる……わたしだけが。
咲希は息を整える――
目に揺らぐことのない想いが宿る。
(由衣、まっててね……)
CPAの部隊が、突入した――。