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記憶よりも、深く  作者: 黒猫の凜
第二章
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近づく距離

CPAは咲希からの報告を受けると、すぐさま周辺の監視カメラを洗い直した。

フレームの端、ふらつきながらも必死に走る姿は、どの映像でも一瞬で目を引いた。

映像の断片を繋げていくと、逃走ルートは徐々に、ある地域へと収束していく――。


そこは都市部から離れた場所で、すでに廃墟になっている建物も多い。


連絡を受けた咲希は、すぐさま行動に移した。

既に脱走者が出ている――いつ拠点を変えてもおかしくはない。

多少リスクはあるが、聞き込みを行い早めに建物まで特定しておきたい。



報告のあった地域に到着し、咲希は気を引き締めた。

聞いていた通り廃墟が多く、閑散としている。

辺りに住んでいる人はかなり少ないようだ。


古い商店に入ると、意外にも商品は充実していた。

商品棚には、缶詰や乾麺、保存の利くものが多く並んでいた。

製造日は新しいものが多い――誰かが定期的に買いに来ている証拠だ。


高齢の店主はのんびりした口調だったが、その証言は異様だった。

「若い子が時々まとめて買っていくんだよ。あんな量、いつもどうしてんのかね。」


詳しく聞くと、週に1回ほど、店の商品を在庫も含めてほとんど買い占めるらしい。

単純計算でも、数十人はいないと消費できないようなペースだった。

(この人口密度で、集団生活なんて……ありえない。かなり怪しい。)


店主も、どこから来ている客なのかは知らないようで、

いつもやってくる方角だけ教えてもらい、店を後にする――。



しばらく歩くと、廃墟が密集している辺りに出た。

本部からの連絡では、間もなく増援部隊が到着する。

もう少し絞り込もうと足を踏み出す――。


一瞬、背筋を撫でるような視線を感じた――


あの頃――由衣のクラスメイトから向けられた、“あの目”。

無関係を装いながらも、どこか探ってくるような視線――。

咲希は無意識に呼吸を整え、建物の隅にいる男女に声をかけた。


「すみません、この辺りに泊まれるような場所はありませんか?」


男は“あの”探るような視線を向けた後、固い表情で答えた。


「……いえ、知りません。」


「そうですか……お二人はこの辺りの方なんですか?」


咲希は話を続けようとするが、

女がスマホのカメラを向けていることに気付く――


「あの、勝手に撮影するのは……」


「すみません、忙しいので。失礼します――。」


咲希が手をかざして抗議する間もなく、2人は足早に立ち去った――。

(あの視線――間違いない。恐らく2人は“見張り”だ。)

じわじわと、核心に近づいている実感があった。


緊張と期待を抱きながら、咲希は2人の跡をつける――。

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