近づく距離
CPAは咲希からの報告を受けると、すぐさま周辺の監視カメラを洗い直した。
フレームの端、ふらつきながらも必死に走る姿は、どの映像でも一瞬で目を引いた。
映像の断片を繋げていくと、逃走ルートは徐々に、ある地域へと収束していく――。
そこは都市部から離れた場所で、すでに廃墟になっている建物も多い。
連絡を受けた咲希は、すぐさま行動に移した。
既に脱走者が出ている――いつ拠点を変えてもおかしくはない。
多少リスクはあるが、聞き込みを行い早めに建物まで特定しておきたい。
*
報告のあった地域に到着し、咲希は気を引き締めた。
聞いていた通り廃墟が多く、閑散としている。
辺りに住んでいる人はかなり少ないようだ。
古い商店に入ると、意外にも商品は充実していた。
商品棚には、缶詰や乾麺、保存の利くものが多く並んでいた。
製造日は新しいものが多い――誰かが定期的に買いに来ている証拠だ。
高齢の店主はのんびりした口調だったが、その証言は異様だった。
「若い子が時々まとめて買っていくんだよ。あんな量、いつもどうしてんのかね。」
詳しく聞くと、週に1回ほど、店の商品を在庫も含めてほとんど買い占めるらしい。
単純計算でも、数十人はいないと消費できないようなペースだった。
(この人口密度で、集団生活なんて……ありえない。かなり怪しい。)
店主も、どこから来ている客なのかは知らないようで、
いつもやってくる方角だけ教えてもらい、店を後にする――。
しばらく歩くと、廃墟が密集している辺りに出た。
本部からの連絡では、間もなく増援部隊が到着する。
もう少し絞り込もうと足を踏み出す――。
一瞬、背筋を撫でるような視線を感じた――
あの頃――由衣のクラスメイトから向けられた、“あの目”。
無関係を装いながらも、どこか探ってくるような視線――。
咲希は無意識に呼吸を整え、建物の隅にいる男女に声をかけた。
「すみません、この辺りに泊まれるような場所はありませんか?」
男は“あの”探るような視線を向けた後、固い表情で答えた。
「……いえ、知りません。」
「そうですか……お二人はこの辺りの方なんですか?」
咲希は話を続けようとするが、
女がスマホのカメラを向けていることに気付く――
「あの、勝手に撮影するのは……」
「すみません、忙しいので。失礼します――。」
咲希が手をかざして抗議する間もなく、2人は足早に立ち去った――。
(あの視線――間違いない。恐らく2人は“見張り”だ。)
じわじわと、核心に近づいている実感があった。
緊張と期待を抱きながら、咲希は2人の跡をつける――。




