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第7話：封印の試練と妹の告白

週末の朝。

真壁碧純はキッチンに立つ。

朝食の準備。

フライパンでパンケーキを焼く。

甘い香りが広がる。

兄・基氏に声をかけた。

「お兄ちゃん、起きてよ」

「今日はパンケーキだよ」

「うぃ～、今行く」

寝ぼけ眼でリビングに現れた基氏。

ふわふわのパンケーキ。

コーヒーの香り。

目を覚ます。

鼻を鳴らした。

「おお、豪華だな」

「いただきます」

「ねえ、お兄ちゃん、今日は何するの？」

「原稿だよ」

「締め切り近いからな」

「また妹物？」

「……まあな」

「もう、私のこと書かないでよね」

「恥ずかしいんだから」

「書いてねえよ」

「安心しろ」

基氏は笑ってごまかす。

だが、新作の妹キャラ。

確かに碧純の影響を受けていた。

仕草や笑顔。

無意識に滲む。

食後。

碧純は洗い物。

シンクでスポンジを動かす。

提案した。

「お兄ちゃん、今日は天気いいから」

「どっか出かけない？」

「ずっと部屋に籠もってると体に悪いよ」

「出かけるって、どこに？」

「筑波山とかどう？」

「梅祭り終わったけど、まだ綺麗だよ」

「……いいけど、俺、締め切りが」

「締め切りばっかり！」

「たまには息抜きしないと、頭おかしくなるよ」

「頭おかしくなってるのはお前だろ」

「何！？」

「お兄ちゃん、私のことバカって言った！？」

からかい合い。

笑い声が響く。

基氏は碧純の笑顔に負けた。

「分かったよ」

「昼まで原稿やって、午後から行くか」

「やった！」

「じゃあ、私、お弁当作るね」

昼過ぎ。

二人は筑波山の麓へ。

バスに揺られる。

登山道を歩く。

碧純が懐かしそうに言った。

「昔、パパと山菜採りに来たよね」

「お兄ちゃん、猪に驚いて転んだことあったっけ」

「あぁ、あれは恥ずかしかったな」

「お前、笑ってただけじゃん」

「だって面白かったんだもん！」

笑い合う二人。

頂上近くの展望台に着く。

木々の間から風が吹く。

弁当を広げた。

筑波平野を見下ろす。

「お兄ちゃん、このおにぎり、どう？」

「美味いよ」

「母さんの味に近いな」

「でしょ」

「私、料理上手くなったよね？」

「うん、認めるよ」

「お前、いい嫁さんになるな」

「えっ！？」

「お、お兄ちゃん、何！？」

顔を赤らめる碧純。

基氏は慌ててフォロー。

「いや、褒めただけだよ！」

「変な意味じゃねえ！」

「もう、びっくりしたんだから……」

気まずい空気。

誤魔化すように。

二人は景色を眺めた。

山の緑が広がる。

遠くに街並み。

その時。

碧純がぽつりと言った。

「お兄ちゃん、私のこと、どう思ってる？」

「どうって……大事な妹だよ」

「それだけ？」

「……それだけだよ」

「嘘つき」

「お兄ちゃん、私のこと女として見てたでしょ」

基氏の心臓がドクンと跳ねる。

喉が乾く。

汗が滲んだ。

「何だよ、急に」

「何見てんだよ」

「本だよ」

「お兄ちゃんの作品読んでると」

「私のことそんな目で見てたんじゃないかって思う」

「フィクションだって言ってるだろ！」

「でもさ、小さい頃」

「私の胸チラッと見えた時、変な顔してたよね」

「……覚えてたのか」

「あの時、お兄ちゃん、顔真っ赤だったよ」

「私、気づいてたんだから」

基氏は言葉に詰まる。

あの夏の記憶。

鮮やかに蘇る。

封印したはずの感情が疼く。

胸が締め付けられた。

「お前、それ……わざと言ってるだろ」

「ううん、本気だよ」

「お兄ちゃん、私のこと好きだったよね？」

「好きだよ」

「妹としてな」

「違うよ」

「女としてだよ」

空気が張り詰める。

風が止まる。

静寂が二人を包む。

基氏は目を逸らし。

深呼吸して答えた。

「そんなわけねえだろ」

「お前、勘違いすんな」

「勘違いじゃないよ」

「お兄ちゃん、私がここに来てから」

「変な目で見てる時あるもん」

「変な目って何だよ！」

「分かるよ」

「私、女なんだから」

「お兄ちゃん、私のこと意識してるでしょ」

「……黙れよ」

基氏の声が低くなる。

碧純は一瞬怯む。

だが、意を決して続けた。

「お兄ちゃん、私、お兄ちゃんのこと大好きだよ」

「昔からずっと」

「何！？」

「実の兄妹じゃないって知った時、悲しかった」

「でも、お兄ちゃんが優しくて」

「私を守ってくれて」

「だから大好きになったの」

「碧純、お前……」

「私、お兄ちゃんのこと」

「兄妹以上の気持ちで好きだよ」

告白に。

基氏は頭が真っ白。

封印していた欲望。

一気に溢れそうになる。

慌てて抑え込んだ。

「お前、冗談だろ？」

「冗談じゃないよ」

「本気だよ」

「お兄ちゃん、私のことどう思う？」

「……俺は、お前を傷つけたくない」

「傷つけるって何？」

「お兄ちゃん、私のこと嫌い？」

「嫌いじゃねえよ」

「大好きだよ」

「妹としてな」

「嘘だよ」

「お兄ちゃん、私のこと女として見てたよね？」

「正直に言ってよ」

基氏は目を閉じる。

深く息を吐く。

心が乱れる。

「……見てたよ」

「昔からな」

碧純の目が潤んだ。

涙が光る。

「ほんと？」

「あぁ」

「でも、だから離れたんだ」

「お前を汚したくなくて」

「汚すって何？」

「お兄ちゃん、私のことそんな風に思ってたの？」

「思ってたよ」

「許せねえよ、自分が」

沈黙が流れる。

風が再び吹く。

二人の間に冷たい空気。

碧純は涙を拭う。

笑顔を作った。

「お兄ちゃん、バカだね」

「私、汚されてもいいよ」

「お兄ちゃんになら」

「何！？」

「お前、頭おかしいのか！？」

「頭おかしいのはお兄ちゃんだよ」

「私、ずっとお兄ちゃんのこと待ってたんだから」

基氏は立ち上がる。

碧純から距離を取る。

足が震えた。

「お前、そんなこと言うな」

「俺、我慢してるんだぞ」

「我慢しなくていいよ」

「お兄ちゃん、私のことちゃんと見てよ」

「見てるよ」

「妹としてだよ」

「嘘つき」

「私、女だよ」

「お兄ちゃんの前で女でいたいよ」

その言葉に。

基氏の心の要石が大きく揺らぐ。

欲望と愛情が混ざり合う。

抑えきれなくなる。

「碧純、俺……お前を」

言葉を続けられず。

基氏は山道を駆け下りた。

足音が響く。

木々が揺れる。

「お兄ちゃん！」

「待ってよ！」

追いかける碧純。

だが、基氏は止まらない。

息が切れる。

涙が滲む。

アパートに戻った基氏。

部屋に籠もる。

頭を抱えた。

額に汗。

「駄目だ……」

「こんなんじゃ、お前を壊す」

心が乱れる。

碧純の告白。

その言葉が頭を巡る。

抑えきれぬ衝動。

その夜。

碧純は部屋に戻る。

泣きながら。

目を腫らす。

「お兄ちゃん、私のこと嫌いじゃないよね？」

ドア越しに呟く。

その言葉は基氏に届かない。

静かな夜。

嗚咽だけが響く。

翌朝。

基氏は目を覚ます。

寝不足で顔が青い。

リビングに出ると。

碧純が朝食を作る。

「おはよう、お兄ちゃん」

「お、おはよう」

気まずい空気。

テーブルに座る。

パンとスープ。

黙って食べる。

「お兄ちゃん、昨日、ごめんね」

「……俺の方こそ」

「私、言いすぎた」

「お兄ちゃんに嫌われたくなくて」

「嫌ってねえよ」

「お前は大事な妹だ」

「うん」

「それでいいよ」

碧純は笑顔を作る。

だが、心の中。

まだ揺れている。

基氏はスープを飲む。

目を逸らす。

欲望を抑える。

必死だった。

その日。

学校での碧純。

教室で友達と話す。

窓際の席。

「真壁さん、週末何した？」

「筑波山行ってきたよ」

「お兄ちゃんと」

「お兄ちゃん！？」

「いいなぁ、仲良いんだね」

「うん、まあね」

笑顔で返す。

だが、心の中。

昨日の告白が重い。

「お兄ちゃん、私のことどう思ってるんだろう」

帰宅後。

アパートの玄関。

基氏が原稿に向かう。

キーボードの音。

「お兄ちゃん、ただいま」

「お帰り」

「お兄ちゃん、昨日、どうして逃げたの？」

「……怖かったんだよ」

「怖い？」

「お前を傷つけるのが怖かった」

「俺、自分を信じられなくて」

「お兄ちゃん、私、傷ついてもいいよ」

「お兄ちゃんが好きだから」

「碧純、そんなこと言うな」

「俺、お前を守りたいだけなんだ」

「守るって何？」

「私、お兄ちゃんに守られるだけじゃ嫌だよ」

基氏は立ち上がる。

碧純を見つめる。

目が潤む。

「俺、お前を妹としてしか愛せねえよ」

「それが俺の限界だ」

「嘘だよ」

「お兄ちゃん、私のこと女として見てたよね」

「……見てたよ」

「でも、それ以上はダメだ」

「どうして？」

「お前が大事だからだよ」

碧純は涙をこらえる。

笑顔を作る。

「うん、わかった」

「お兄ちゃんの妹でいいよ」

その言葉に。

基氏の胸が締め付けられる。

封印が試される時。

欲望を抑えられるのか。

碧純の気持ち。

届くのか。

二人の心は大きく揺れていた。