第29話:母の思惑と新たな波乱
真壁基氏と真壁碧純は、雷雨の帰路からアパートに戻っていた。
車内での結城有紀との一件を終え、碧純が助手席で口を尖らせた。
「お兄ちゃん、委員長に変なこと絶対話さないでよね。会うのも禁止だからね」
「法を犯さないためにああいう手段にしてるんだから。取材だよ」
「リアルな女子高生アドバイザーなら家にいるのに」
「碧純だとヒロインが田舎っぺになるって言ったろ。お前は大事な妹で、モデルじゃない」
基氏が苦笑すると、碧純はモヤモヤしながらも黙った。
家に着き、夕飯を食べながら、碧純がスマートフォンを手に取った。
「お兄ちゃん、ママからメッセージ来てたよ」
「何だ?」
「読むね。『碧純、学校生活どう?』って」
「返事しとけ。元気だって」
碧純が返信を打ち始めた。
『ママ、元気だよ。お兄ちゃんと仲良くしてる』
すると、佳奈子から即座に返信が。
『お兄ちゃんの車が変』
「やっぱり、ママ気づいてたんだ…」
『痛車だよ』
(+。+)アチャー。というスタンプと共に送ると、佳奈子から続けて来た。
『お兄ちゃんがクラスメイトと仲良し』
「うっ…」
『ちょっと碧純、それは阻止しなさい』
「お兄ちゃん、ママ焦ってるよ」
「何だよ、母さん。俺が女子高生と変な関係になるって心配してるのか?」
「みたいだね。私も心配してたけど…」
「だから、取材だって言ったろ。ユエルは仕事だ」
「でも、お兄ちゃん、『大好き』って言ってたじゃん」
「ヒロインの台詞だよ。シミュレーションだ」
「変態…」
「碧純、それ違うって」
佳奈子のメッセージがさらに続いた。
『基氏の小説読んだ?』
『え? ママ知ってたの?』
『そりゃ~そうよ』
『なんで教えてくれなかったの?』
『リアル妹がいる人が妹との青春ラブコメ書いてるの教えられる?』
『うっ…確かに』
『碧純、基氏の頭の中は二次元妹でいっぱいよ』
『うん、お兄ちゃんの部屋キモい』
『現実世界に興味持たせないと、少子高齢化になるわよ』
『なんで?』
『碧純と基氏の子、孫抱きたいな~』
『(;゜〇゜))』
「お兄ちゃん、ママやりすぎだよ!」
「母さん、孫って…気が早すぎるだろ」
碧純が顔を赤らめ、基氏が苦笑した。
その夜、佳奈子は実家で通販サイトを物色していた。
「この衣装とかいいかも。あ、これも。一応、碧純もスクールライフ楽しみたいだろうから、コンドームも…」
「コンドーム?」
忠信が首をかしげると、佳奈子が説明した。
「娘と息子もそういう年頃よ。親が用意してあげないと。碧純が妊娠で学校行けなくなるのは嫌でしょ?」
「孫…早く見たいなぁ~」
佳奈子と忠信は、基氏と碧純の間に孫ができるのを熱望していたが、碧純の学校生活も大切と考えていた。
佳奈子は碧純に使命を委ねた。基氏を「結婚しないオタク」から「結婚するオタク」に更生させることを。
翌日、碧純はモヤモヤを抱えたまま学校へ向かった。
教室で、結城有紀の視線を感じたが、前日と同じく目礼を交わすだけで終わった。
昼休み、久滋川亜由美が話しかけてきた。
「碧純ちゃん、昨日雷雨だったね。大丈夫だった?」
「うん、お兄ちゃんが迎えに来てくれたよ。でも、ちょっと恥ずかしかった」
「車が変ってやつ?」
「うん、痛車なんだ…」
「へぇ~、どんなの?」
「『お兄ちゃんのためならパンツもあげるよ』って書いてあって…」
「え!? それってライトノベル!? お兄ちゃん、作家なの!?」
「うっ…いや、違うよ。変な趣味なだけ」
慌ててごまかす碧純に、あゆみが笑った。
「面白いお兄ちゃんじゃん。優しいんだね」
「うん、だよね~」
その夜、アパートに荷物が届いた。
「お兄ちゃん、ママから荷物だよ」
「何だ?」
開けると、コスプレ衣装とコンドームが入っていた。
「何!? ママ、何!?」
「母さん、やりすぎだろ…」
佳奈子からのメッセージが届いた。
『碧純、基氏を現実世界に引き戻してね。孫楽しみにしてるわ』
「お兄ちゃん、ママ本気だよ…」
「俺を結婚させる気満々だな。けど、お前が大事だから、そんな急がなくていいよ」
「お兄ちゃん、それポイント高いよ」
「またポイントか。お前と一緒なら、母さんの思惑も笑いものだ」
二人は笑い合い、佳奈子の思惑に新たな波乱を感じた。




