第20話:アニメと兄への理解
真壁基氏と真壁碧純。
アパートで朝を迎える。
穏やかな光が差し込む。
リビングに朝陽。
碧純がキッチン。
朝食の準備。
卵を割る音。
トーストの香り。
碧純がスマートフォン。
見ながら言う。
笑顔で。
「お兄ちゃん、私、アニメ観てるんだよ」
「サブスク登録したの」
「へぇ、何観てるんだ?」
「『やはり俺の青春ラブコメは間違っている』ってやつ」
「高校生の話だから、自己投影しやすいかなって」
「いいチョイスだな」
「俺も好きだよ」
「あれ、こじらせた男女の話が面白いんだ」
「だよね~」
「ちょっとギャル系のヒロインと妹の口癖、チェックしてたんだ」
「口癖?」
「『だよね』とかか?」
「うん、日常で使いやすいし、違和感ないでしょ」
「碧純的にポイント高いよ」
「お前、アニメからポイント稼ぎ覚えたのか?」
「そだね~」
「お兄ちゃんを2.5次元に引き戻そうと思ってさ」
基氏がコーヒー。
吹きそうになる。
笑う。
「何!?」
「2.5次元って何だよ」
「お兄ちゃん、二次元にどっぷりじゃん」
「私が三次元に連れ戻すには、まず2.5次元まで引き釣り出さないと」
「お前、俺をどこに連れてく気だ?」
「三次元でいいお兄ちゃんになって欲しいだけだよ」
「萌え萌えって中毒から抜け出してさ」
「世のオタクに謝れって言ったろ」
「謝らないよ」
「みんな謎の病気にかかってるんだから」
「病気って、楽しんでるだけだろ」
「俺だって作家として真剣にやってる」
「うん、それは分かってるよ」
「神社でヒット祈願するくらいだしね」
碧純がニヤリ。
基氏が目を逸らす。
コーヒーを啜る。
「けど、お前がアニメ観るのはいいな」
「一緒に楽しめるかも」
「ほんと?」
「じゃあ、今度一緒に観ようよ」
「お兄ちゃんのおすすめ教えてね」
「あぁ、いいぞ」
「『スプラッタ映画』とかどうだ?」
「やだ!」
「昔だまされてトイレ怖くなったやつじゃん!」
「ははっ、懐かしいな」
「あれで実家のトイレリフォームされたもんな」
「絶対言わないでよ」
「恥ずかしいんだから」
二人が笑う。
朝食を終える。
穏やかな朝。
その日。
碧純が学校。
昼休み。
久滋川亜由美と話す。
教室の窓辺。
「碧純ちゃん、アニメ観るの?」
「うん、最近サブスクで観てるよ」
「あゆちゃんは?」
「私も観るよ!」
「『妹のためならなんでもしたいお兄ちゃん』とか最高だよね」
「うっ…うん、そうだね」
「お兄ちゃんいるから、そういうの分かるでしょ?」
「うん…ちょっと変だけど、優しいお兄ちゃんだよ」
「いいなぁ」
「私、弟しかいないから憧れるよ」
「中二病の弟、面白いじゃん」
「バカみたいだよ」
「昨日も包帯巻いて何か宿ってるって」
「ははっ、お兄ちゃんも昔そんな感じだったよ」
「ほんと?」
「オタクっぽいよね」
「うん、極端っていうか…通り越してるかな」
碧純が笑う。
基氏の作家活動。
隠しつつ。
ごまかす。
胸がドキドキ。
夕方。
碧純が帰宅。
キッチンへ。
夕飯の準備。
鶏肉を切る音。
「お兄ちゃん、実家から鶏肉届いてたよ」
「親子丼にするね」
「美味そうだ」
「いただきます」
「いただきます」
「お兄ちゃん、私、アニメでお兄ちゃんのこと理解しようと思ったんだ」
「へぇ、どういうことだ?」
「お兄ちゃんのオタク趣味、二次元に逃げてるみたいでさ」
「私が三次元で支えなきゃって」
「お前、俺を救う気か?」
「うん、ちょっとね」
「お兄ちゃん、真剣にやってるのは分かるけど、健康とか心配だよ」
「健康ならお前が管理してくれてるだろ」
「そだね~」
「でも、もっと三次元に興味持って欲しいな」
「三次元か…お前がいるから十分だよ」
「お兄ちゃん、それポイント高いよ」
「何のポイントだよ?」
「妹的なポイント」
「お兄ちゃん、私のことちゃんと見ててね」
「あぁ、見てるよ」
「お前、俺の大事な女だからな」
碧純が顔を赤らめる。
親子丼を頬張る。
卵のふわふわ。
「お兄ちゃん、私、サブスクで他のおすすめ観てみるよ」
「青春ラブコメ好きになったし」
「いいな」
「次は『青春豚野郎は妹と結ばれることをただ願っている』観ろよ」
「あれ、俺の作家のきっかけだから」
「え!?」
「それって…お兄ちゃんが!」
「いや、俺が書いたわけじゃない」
「あれに影響されて書き始めたんだ」
「そっか…でも、似てるよね」
「お兄ちゃん、私のことモデルにしてるでしょ?」
「フィクションだって何度も言ってるだろ」
「ふーん」
「だよね~」
碧純がニヤリ。
基氏が目を逸らす。
笑いが漏れる。
その夜。
基氏が自室。
原稿を進める。
キーボードの音。
呟く。
「お前がアニメ観て俺に近づこうとしてるなら」
「悪い気はしないな」
一方、碧純。
自室で。
サブスクを開く。
ベッドに座る。
「『青春豚野郎』か…」
「お兄ちゃんのきっかけなら、ちゃんと観て理解しないと」
アニメを再生。
画面が光る。
基氏の二次元への逃避。
真剣さを感じる。
少しずつ。
「お兄ちゃん、バカだけど、真剣なんだ」
「私、もっと支えなきゃね」
翌日。
碧純が朝食。
トーストを焼く。
基氏がコーヒー。
リビングで。
「お兄ちゃん、アニメの続き観たよ」
「お兄ちゃんの気持ち、ちょっと分かった気がする」
「そうか」
「何が分かったんだ?」
「二次元って、お兄ちゃんの逃げ場なんだね」
「でも、真剣にやってるのも分かるよ」
「お前、理解者気取りか?」
「そだね~」
「三次元でもっと支えたいなって」
「お前がいるだけで十分だよ」
「お兄ちゃん、それポイント高いよ」
二人が笑う。
朝食を囲む。
穏やかな朝。
夕方。
碧純が帰宅。
キッチンで。
夕飯の準備。
山菜を炒める音。
「お兄ちゃん、実家から山菜届いてたよ」
「天ぷらにするね」
「あぁ、いいな」
「俺一人じゃ料理しないから、いつも大家さんに渡してたけど」
「もったいないよ!」
「これからは私が作るから、ちゃんと食べてね」
テーブルに並ぶ。
サクサクの天ぷら。
タラの芽とふきのとう。
揚げたての香り。
「いただきます」
「いただきます」
「お兄ちゃん、タラの芽ばっかり食べないで」
「ふきのとうも食べてよ」
「ん~、ふきのとうの苦みがどうも慣れなくて」
「この苦みがいいんだよ」
「お兄ちゃんみたいな冬眠してる人には特にいいんだから」
「いいのか?」
「パパが言ってたよ」
「冬眠してた熊が体内毒素出すのに食べるって」
碧純がニヤリ。
基氏の天つゆの皿。
ふきのとうを3つ。
ポン、ポン、ポン。
基氏が渋い顔。
口に運ぶ。
苦みが広がる。
「お兄ちゃんの毒素ねぇ」
「萌え萌えって中毒症状の毒素だろ」
「碧純、世のオタクに謝れ」
「謝らないよ」
「みんな謎の病気にかかってるんだから」
二人が笑う。
天ぷらを食べる。
家族の味。
絆が深まる。