第19話:天ぷらと健康への一歩
真壁基氏と真壁碧純。
筑波山神社でのヒット祈願から帰宅。
夕方を迎える。
つくば市のアパート。
リビングに夕陽が差し込む。
ファミレスでの騒ぎ。
碧純の怒りが収まり。
痛車の余韻が残る。
基氏がソファに座る。
一息つく。
碧純がキッチンから。
声をかける。
「お兄ちゃん、実家から山菜届いてたよ」
「天ぷらにするから、食べようね」
「あぁ、いいな」
「けど、俺、料理しない時は大家さんに渡してたんだよな」
「もったいない!」
「これからは私が作るから、ちゃんと食べてよ」
テーブルに並ぶ。
サクサクのタラの芽。
ふきのとうの天ぷら。
揚げたての香り。
緑が鮮やか。
「いただきます」
「いただきます」
「お兄ちゃん、タラの芽ばっかり食べないで」
「ふきのとうも食べてよ」
「ん~、ふきのとうの苦みがどうも慣れなくて」
「この苦みがいいんだよ」
「お兄ちゃんみたいな冬眠してる人には特にいいんだから」
「いいのか?」
「パパが言ってたよ」
「冬眠してた熊が体内毒素出すのに食べるって」
まことしやかに言う。
碧純が基氏の天つゆの皿。
ふきのとうを3つ。
ポンと入れる。
戻すわけにもいかず。
基氏が口に運ぶ。
渋い顔。
「お兄ちゃんの毒素ねぇ」
「萌え萌えって中毒症状の毒素だろ」
「碧純、世のオタクに謝れ」
「なんでよ?」
「みんな謎の病気にかかってるんだよ」
「秋葉原病的な?」
「お台場病?」
「脳みそくれ~の萌えゾンビになってるよ」
「ニュースで見たけど、うなだれて歩いてるじゃん」
「それ、夏コミだろ」
「暑くてぐったりしてるだけだ」
「わかってるよ、っとに」
「それより、外食ばっかりだったんでしょ?」
「こうやって健康志向になろうよ」
「ちゃんとサラダ頼んでたぞ」
「ちょっぴりじゃん」
「これからお兄ちゃんの健康管理は私がするよ」
「ポイント高くないぞ…」
「いいの!」
「作家って不摂生になりがちってネットで見たよ」
「わざわざ調べたのか?」
「たまたまよ」
「お兄ちゃんのために調べたんじゃないんだから」
「勘違いしないでね、キモッ」
「キモ言うな」
「キモいよ」
「キモ食べたいなぁ~」
「鮟鱇の季節は終わりましたー」
基氏がニヤリ。
苦いふきのとう。
薬だと思って食べる。
渋い顔が笑みに。
「よくできた妹だな」
「料理もしっかりしてるし、経済的で健康的だ」
「でしょ?」
「お兄ちゃん、私のことちゃんと見てよね」
「あぁ、見てるよ」
「お前、俺の大事な女だからな」
食後。
碧純が片付け。
キッチンで皿を洗う。
呟く。
「お兄ちゃん、神社で恥ずかしかったけど」
「真剣にやってるんだね」
「当たり前だろ」
「商売なんだから」
「うん」
「私もお兄ちゃんのこと、ちゃんと支えなきゃって思ったよ」
「ありがとな」
「お前がいてくれるから、俺も頑張れる」
二人がリビング。
ソファに座る。
笑い合う。
穏やかな夜。
翌日。
碧純が学校。
教室で。
クラスメイトと話す。
久滋川亜由美。
隣の席。
「碧純ちゃん、週末どうだった?」
「うん、お兄ちゃんとドライブ行ったよ」
「筑波山神社ってとこ」
「へぇ~、デートっぽいね」
「お兄ちゃん優しいんだ」
「うん、優しいけど、ちょっと変だよ」
「オタクって言ってたよね?」
「どんな感じ?」
「うーん…極端っていうか、通り越してる感じかな」
「面白いお兄ちゃんじゃん」
「私、弟しかいないから羨ましいよ」
「弟って中二病なんだっけ?」
「うん、左手に包帯巻いて何か宿ってるって」
「バカみたい」
「ははっ、お兄ちゃんも昔そんな感じだったよ」
「ほんと?」
「どんなだったの?」
「うーん…今よりオタクっぽかったかな」
「アニメとか大好きで」
碧純が笑う。
基氏の作家活動。
隠しつつ。
ごまかす。
胸がドキドキ。
その夜。
アパートで。
基氏が原稿。
キーボードの音。
碧純が声をかける。
荷物を開ける。
「お兄ちゃん、実家からまた荷物届いてたよ」
「野菜と鶏肉だって」
「父さん、絞めたてか?」
「一人暮らしじゃ困るくらい届いてたけど、お前が来て助かったよ」
「うん、私が料理するからね」
「お兄ちゃん、健康管理任せてよ」
「ありがとな」
「けど、カロリーメイトも非常食で買ってるからな」
「そんなにいらないよ」
「お弁当作ってあげるからさ」
「実家から米も野菜も届くし」
基氏の両親。
自然災害で亡くなった過去。
碧純が知る。
心の傷に触れず。
言葉を選ぶ。
「じゃあ、水も買っとくか?」
「うん、でもあの変な車に入るの?」
「変な車言うな」
「後部座席倒せば入るよ」
「そうなんだ~」
碧純が車の構造。
疑問を抱く。
基氏に任せる。
笑顔で。
「でも、お肉の買いだめはできないよね」
「実家みたいに冷凍庫ないし、牛肉も食べたいな」
「父さんに牛肉頼むなよ」
「飼い始めて自分で絞めるぞ」
「パパならやりそうだね…」
「冷凍庫が普通にあるってのも田舎の証明だから」
「あんまり言わない方がいいぞ」
「お兄ちゃん、それは古い考えだよ」
「今は冷凍食品充実してるから、冷凍庫買い増す家も普通だって」
「テレビでやってたよ」
「そっか」
「ガレージに置けなくはないから、検討するか」
「物語でも気をつけないとな」
「お兄ちゃんの車じゃ運べないけどね」
「実家みたいに軽トラはないからな」
田舎の軽トラ文化。
思い出し。
二人が笑う。
懐かしい記憶。
「お兄ちゃん、ティラミス忘れないでね」
「バケツサイズ、ほんとにお前食えるのか?」
「俺は1人分でいいぞ」
「大丈夫、私みんな食べるから!」
白い歯を見せる。
碧純の笑顔。
基氏が虫歯を心配。
だが、代謝の良さに安心。
「ちんまりした胸にも栄養行けばいいのにな」
「何!?」
「お兄ちゃん、今何て!?」
「いや、なんでもない」
「健康ならいいよ」
「変態兄貴!」
碧純が蹴りを入れそう。
基氏が逃げる。
笑い合う。
賑やかな夜。
翌日。
基氏が原稿。
新企画を進める。
異世界冒険。
碧純が夕飯。
鶏肉を焼く。
「お兄ちゃん、実家の鶏肉、美味しいね」
「あぁ、父さんの絞めたては格別だ」
「お前が料理してくれて助かるよ」
「うん、お兄ちゃんの健康、私が守るからね」
「お前、ほんとよくできた妹だな」
「でしょ?」
「お兄ちゃん、私のことちゃんと見てよね」
「あぁ、見てるよ」
「お前、俺の大事な女だからな」
二人が笑う。
食卓を囲む。
穏やかな時間。
絆が深まる。




