第18話:神社へのドライブと妹の決意
真壁基氏と真壁碧純。
週末の土曜日。
朝を迎える。
つくば市のアパート。
リビングに朝陽。
二人が朝食を食べる。
珍しい週末の時間。
基氏が提案。
箸を置く。
「碧純、ここら辺案内して欲しいんだろ?」
「筑波山神社行くから用意しろ」
「え? デート?」
「ヒット祈願の祝詞を上げてもらうんだよ」
「お兄ちゃん、そんなことしてるの?」
「作家さんってみんなしてる?」
「ん~、Twitter仲間の作家でやってるのはほとんど見ないな」
「初詣で商売繁盛の御札もらう人はたまにいるけど」
碧純が目を丸く。
驚きの顔。
「お兄ちゃん、寺社仏閣や史跡巡り続けてたんだね」
「いいだろ、別に」
「うん、いい趣味だよ」
「悪いなんて言ってないよ~」
「ほら、軽く山登りになるからズボンスタイルで」
基氏の趣味。
寺社仏閣や史跡巡り。
御朱印集めが流行る今。
立派なもの。
批判されない。
二人が出発。
痛車RX-7。
ガレージから出す。
碧純が2回目。
抵抗感あり。
諦めモード。
乗り込む。
約1時間弱のドライブ。
窓の外。
碧純が呟く。
田園風景。
「同じつくばなのに一気に山だね」
「田舎だね~」
「田植え終わったね~」
「つくばが都会の人に人気なのは、このおかげだろ」
「駅近くはほどよく都会で、山に行けば自然が溢れてる」
「だよね~」
「碧純、なんかアニメ観たのか?」
「うん、お兄ちゃんかまってくれないから、サブスク契約して観てるよ」
「かまってやってるだろ」
「こうしてドライブ連れてってるし」
「碧純的にはもっとかまってくれたらポイント高いのに」
「なんのポイントだよ?」
「春のパン祭りか?」
「得点はわ・た・しって…」
「お兄ちゃん、危ない!」
ハンドルに力。
痛車がセンターライン。
はみ出す。
対向車なし。
事故回避。
「碧純が変なこと言うからだろ!」
「危ねえ!」
「ねえ、筑波山神社って恋愛の神様だよね?」
「夫婦の神様だから、そうなんじゃないか?」
「けど、伊弉諾と伊弉冉って死別したんだっけ…」
「え? 神様も死別するの?」
「伊弉諾が黄泉の国まで迎えに行ったけど」
「朽ちた伊弉冉に驚いて逃げたとか」
「私なら好きな人がゾンビになっても抱きしめてキスしたいけどな~」
「脳みそくれ~ってゾンビでも?」
「お兄ちゃんの好きなスプラッタ映画じゃん」
「昔だまされて観たやつ」
「ははっ、あったな」
「おかげでトイレ怖かったんだろ」
「実家の別棟トイレがリフォームされた事件だよ」
「他で言わないでね」
「言わないけど、書く機会があったら書くかも」
「ますますお兄ちゃんの作品だって言えないじゃん」
口を尖らせる。
碧純の顔。
基氏が笑う。
柔らかい声。
駐車場に到着。
大きな鳥居。
一礼する。
10分ほど歩く。
社務所へ。
週末の賑わい。
観光客が多い。
カタクリの花。
温泉宿目当ての人。
基氏が受付。
巫女さんに言う。
「あの~、ヒット祈願のお祓いをお願いしてる茨城基氏です」
「はい、社殿にお進みください」
「先にきてる方の祭祀が終わったら始めます」
手を清める。
口を清める。
社殿へ向かう。
石畳の道。
「碧純、ここ初めてだっけ?」
「ん~、多分」
「笠間稲荷とか金砂郷、日立の神社なら行ったけど」
「だな」
「あ、御岩神社が最近人気らしいぞ」
「女優さんがネットに上げてたよね」
「昔は水戸藩主の祈願所だったとか」
「鉱山が盛んな頃は繁栄してたな」
「一本杉の近くだ」
「道路の真ん中の木だよね」
「懐かしいな」
「今度、実家帰る時に寄ろうか」
「日立中央インターからなら通るだろ」
「この車で実家帰るの?」
「やめて~、早く買い換えようよ~」
「買い増しだ」
「この車は直せなくなるまで乗る」
「イラストどうにかしようよ」
「実家の山の下に止めて、パパに迎えに来てもらえばいいし」
「新刊に合わせてラッピング変えるか?」
「表紙はスクール水着だぞ」
「バカ兄貴、やめてよね」
「ますます乗りにくいじゃん」
社殿前。
お賽銭を入れる。
二礼二拍手一礼。
巫女さんに祝詞の件。
伝える。
「お兄ちゃん、私、久しぶりなんだけど、こういうの」
「大丈夫、頭下げてればいいから」
他の参拝者と合同。
祝詞が始まる。
神主が言う。
「本日はお日柄も良く、参拝者が多いため合同で上げさせていただきます」
祝詞が響く。
神主の声。
厳かに。
『払いたまへ清めたまへ守りたまへ幸与えたまへ…』
『願い奉りますは茨城県つくば市に商いを行いますライトノベル作家茨城基氏~』
『『妹のためならなんでもしたいお兄ちゃん』4巻~』
『『お兄ちゃんのためならパンツもあげるよ』3巻~』
『ヒット祈願のよし~』
周りがざわつく。
笑いを堪える声。
小さなクスクス。
基氏は真剣そのもの。
背筋を伸ばす。
碧純が顔を真っ赤に。
震える。
恥ずかしさ爆発。
頭を下げる。
お祓いが終わる。
御札を受け取る。
社殿を出る。
碧純が爆発。
「この変態兄貴!」
「神主さんに何てこと言わせるのよ!」
「神様もビックリだよ!」
基氏の尻を蹴り上げる。
バシッと音。
怒りをぶつける。
「バカはお前だ」
「こっちは商売だ」
「真剣に書いた作品のヒット祈願が何が悪い」
「もう知らない!」
「帰る!」
「おい、せっかく来たんだから山頂行こうよ」
「やだ!」
「こんな恥ずかしい思いするなら、お兄ちゃんに付いてこなければ良かった!」
参拝者の囁き。
聞こえてくる。
小さな声。
『あの子がお兄ちゃんのためならパンツあげる妹?』
『結構可愛い妹だな。書きたくなるわ』
碧純が耳を塞ぐ。
逃げるように車へ。
痛車を見つめる。
蹴り上げたい衝動。
抑える。
内心呟く。
「秘密ならあげてもいいけど…」
「ほら、バカ兄貴、さっさと帰るよ!」
追ってきた基氏。
急かされる。
肩をすくめる。
帰り道。
ファミレスに寄る。
テーブルに座る。
碧純が注文。
これでもかと食べる。
基氏の財布を空に。
怒りを収める。
「次はヒット祈願、ペンネームだけにしなさいよね」
「変態ラノベ作家のクソ兄貴」
「碧純、言葉が汚いぞ」
「お兄ちゃんにだけよ」
「なんだかなぁ~、だよね」
基氏が苦笑。
碧純の顔。
少し緩む。
その夜。
アパートで。
碧純が考える。
ベッドに座る。
ネックレスを手に持つ。
「お兄ちゃん、バカだけど、真剣なんだよね」
「私もちゃんと支えなきゃ」
基氏の部屋。
原稿に向かう。
キーボードの音。
呟く。
「お前のおかげで、真剣にやれるよ、碧純」
二人の絆。
新たな形で。
深まる。
週末の出来事。
未来への一歩。




