第16話:ショッピングと痛車の試練
真壁基氏と真壁碧純。
つくば市のアパート。
共同生活が2週間を超えた朝。
朝陽がリビングを照らす。
二人は朝食を食べる。
トーストの香り。
味噌汁の湯気。
碧純がぽつりと言う。
箸を手に持つ。
「お兄ちゃん、靴のサイズ合わないから返品して欲しいんだけど」
「買い物連れてってよ~」
基氏がコーヒーを啜る。
カップを置く。
「イーアスつくばが近いぞ」
「流石に一人でイーアス行くのってハードル高いよ~」
「付き合ってよ~」
「行くか」
「原稿も送ったし、デート取材も兼ねて」
「けど、アニ●イトがあるなら土浦イ●ンの方がいいかな」
「イ●ンは水戸でよく行ってたから、今度でいいよ」
「初めてのとこ連れてって」
「お兄ちゃん、ここら辺案内してよ~」
「まぁいいけど、ちょっと待ってろ」
「着替えるから」
「萌えな絵服は禁止ね」
「クラスメイトに会ったらなんて言えばいいか分からないもん」
「お前な~」
「嫁を身にまとって出かけるからこそいいんだぞ」
「お兄ちゃんの嫁って何人いるのさ~」
「部屋のキャラみんな違うじゃん」
「シャツの女の子だって毎日違うしさ」
「お前、それは言ってはならんのだ」
「オタクの常識なんて分かんないもん」
鋭い突っ込み。
基氏は言い返せず。
無難な服を選ぶ。
黒ジーンズ。
白のシンプルなTシャツ。
淡いブルーのジャケット。
部屋から出てくる。
碧純が念入りチェック。
柑橘系のコロンの香り。
確認して満足げ。
頷く。
彼女は桃色のワンピース。
ふんわりした生地。
ポニーテールを結ぶ。
春の桜のような雰囲気。
優しさが漂う。
部屋を出る。
碧純がバス停へ。
足を向ける。
「おい、碧純、そっちじゃない」
「こっちだ」
「お兄ちゃん?」
「バス停あっちだよね?」
「つくば駅行くんじゃないの?」
「え? 車あるから」
「えぇ!?」
「お兄ちゃん、車買ったなんて聞いてないんだけど」
「車あるなら大子にいつでも帰れるじゃん」
「ん~それは無理?」
「無理?」
「なんで疑問形?」
「お兄ちゃん、実家嫌いになったの?」
寂しげな顔。
碧純の瞳が揺れる。
基氏が慌てて否定。
「違う、違う!」
「単純に物理的に勘弁してくれ」
「俺の車で実家の道走ったらハマるし、腹擦るし、草木でボディ剥がれるから」
「え? ハマる?」
「ボディ剥がれるの?」
「お兄ちゃんの車、ダンボールでできてるの?」
「ダンボールならエコだな」
「軽くて燃費良さそう」
「ただ、よく燃えそうだ」
「お兄ちゃんの『燃えそう』が『萌えそう』に脳内変換されるんだけど」
「幌付きオープンカーとか?」
「ちょっと憧れるんだけど~」
どんなボロ車か。
碧純が想像。
ハラハラする。
基氏がガレージへ。
彼女を連れて行く。
大家のガレージ。
シャッターが上がる。
碧純が言う。
「な~んだ、パパの知り合いから借りるだけかぁ~」
「ん? ガレージ借りてるんだよ」
「大家の息子たちが東京に出て空いてるって」
「俺の車、海外で高く売れるから車窃盗に狙われるんだ」
「アパートの駐車場だとちょっと…ほら、この車」
RX-7が現れる。
痛車だ。
ボンネットに。
『お兄ちゃんのためならパンツもあげるよ』のロゴ。
4人の二次元美少女。
シマシマパンツを差し出すイラスト。
碧純が驚愕。
大混乱。
目を丸くする。
「やだやだ~何これ!」
「お兄ちゃん、バカ兄貴通り越してキモいよ!」
「セクハラだよ、公害だよ、訴えられるよ!」
「スポーツカー嫌い女子か?」
「SUVかミニバンならいいのか?」
「日本は白か黒しか許されない決まりでもあるのか?」
「違うよ!」
「車の形なんて何でもいいよ」
「パパのセダンでもボロくてもいいけど、この絵がダメなんだよ!」
ラッピングの衝撃。
碧純が涙を流す。
ショルダーバッグで。
基氏の尻を叩く。
バシッと音。
「これやだ!」
「電車で行こうよ」
「買い物だろ?」
「荷物多いし、コストコにも寄りたいし」
「え? コストコ?」
「そう」
「車じゃないと厳しいだろ」
コストコの魅力。
碧純が泣き止む。
目を拭う。
「ソフトクリーム買ってくれる?」
「あぁ、あの濃厚なやつは絶対だな」
「ティラミスもいい?」
「二人じゃキツいぞ」
「お前が食べるなら買うけど」
「うん、食べる!」
食欲に負ける。
碧純がRX-7に乗り込む。
車高が低い。
ぎこちなく座る。
「この車、最近あの少年名探偵で人気だぞ」
「コ●ン君?」
「出てきた!」
「え、これなの?」
「お兄ちゃん、イラスト消して真っ赤に塗り直そうよ」
「自慢できるのに」
「絶対嫌だ」
「これで飯食ってるのに、恥ずかしがる必要ないだろ」
「お兄ちゃんの萌え豚」
「萌え豚上等」
「どこで覚えた?」
「ネット」
スマートフォンを見せる。
碧純の手元。
基氏が注意。
「運転中は見るな」
「シートベルトしろ」
ロータリーエンジン音。
独特の響き。
車が走り出す。
「この音がいいんだよ」
「女の子は走れば何でもいいと思うよ」
「なら痛車だって」
「それは絶対ダメ!」
「妹がパンツ差し出すイラストの車に実の妹乗せるなんて、変態兄貴だよ!」
「大洗のアニメなら『茨城愛』でごまかせるけど」
「バカ兄貴が変態兄貴にジョブチェンジか?」
「実の妹じゃないけどな」
「うん、それはね」
「でも、妹でしょ、私」
血縁ではない。
だが、兄妹として育つ。
呼び方が自然。
基氏も「実の妹」と。
自制心を保つ。
「だな」
「お兄ちゃん、この車じゃ実家の砂利道入れないね」
「だろ?」
「パパに言おうか?」
「ショベルカーで山崩して舗装するよ」
「マジで始めるからやめろ」
「父さん、サーキット作りそうだから」
「確かに」
「遊び場も黙々と作っちゃったもんね」
「ザリガニ採りしやすいように川の流れ変えたし」
「岩魚や鮎、ニジマスまで放してたろ」
「池まで作って、今はスッポン飼ってるよ」
「食べるんだって」
「流石、父さん」
真壁家の山奥。
広大な土地。
裕福な暮らし。
二人の未来を支える。
「次の印税で普通のSUVかミニバン買うつもりだけどな」
「普通の車?」
「さっき否定してたのに」
「父さん母さん連れて温泉行きたいからな」
「この車、四人乗りだけど後ろ狭いだろ」
「え? 四人乗りなの?」
後部座席を見る。
碧純が驚く。
基氏が笑う。
「母さんなら見せびらかしに行くよな」
「MT車も平気だし」
15分ほどで到着。
イーアスつくば。
広い駐車場。
車を止める。
「すごい大きい~」
「内ジャスと負けないくらい広いぞ」
碧純が腕にしがみつく。
基氏が注意。
「こら、しがみつくな」
「迷子になるじゃん」
「お兄ちゃんが」
「俺が迷子かよ?」
「うん」
「碧純的にポイント高い?」
「どこで覚えた?」
「何買いたいんだ?」
「運動靴と通学用の小さい鞄」
「教科書置いてていいって」
靴屋へ。
碧純が靴を選ぶ。
基氏は30センチの靴。
探すが好みなし。
試着用の椅子で待つ。
45分後。
碧純が2足持ってくる。
相談する。
「お兄ちゃん、どっちがいいと思う?」
通気性の良いランニングシューズ。
エナメルのバスケットシューズ。
基氏が考える。
「蒸れる季節だから通気性が…」
「いや、雨も多いからエナメルもいいか」
「意外にまともな答えだ」
「足蒸れるんだよね~」
「でも私の足臭くないからね!」
「お兄ちゃんのせいで気になっちゃって」
「蒸れるJKの足…ハァハァ」
「ストップ!」
「変態兄貴にならないで」
「すまん、ラノベ作家脳が暴走した」
「犯罪に走らないでよ」
「二次元の妄想が楽しいんであって、三次元には興味ない」
「キモいよ、お兄ちゃん」
「一足分は俺が出すから、2足買え」
「え? いいの?」
レジを済ませる。
次は鞄と本屋へ。
本屋で。
基氏が店長と話す。
碧純が隠れて聞き耳。
「茨城先生、新刊もいい位置に並べますよ」
「ありがとうございます」
「よろしくお願いします」
感動する碧純。
だが、店外で待つ。
ドアの外。
「お兄ちゃん、ちゃんと社会人してる」
「驚いたか?」
「うん」
「けど、店内放送で呼ばれたら恥ずかしいから外で待ったよ」
「ごめんな」
「タイトル恥ずかしいか」
「少し分かってよ」
買い物を続ける。
基氏が荷物持ち。
袋を手に持つ。
「お兄ちゃん、疲れた」
「昼飯にしよう」
「ここに来たらとんかつだ」
「え~、パスタとかドリアがいいよ」
「とんかつは譲れない」
優しい妹として。
碧純が折れる。
サラダ食べ放題のとんかつ屋。
満足する。
その後。
コストコへ。
広い店内。
ソフトクリームとティラミス。
碧純が笑顔。
「お兄ちゃん、美味いね」
「あぁ、お前が喜ぶなら買った甲斐があるよ」
二人は笑い合う。
買い物デート。
絆が深まる。
日常の一コマ。




