第10話:新たな日常と隠された思惑
真壁基氏と真壁碧純。
朝の光が差し込むリビング。
向かい合って座る。
朝食を食べる。
味噌汁の湯気。
トーストの香り。
昨夜、二人は新たな一歩を踏み出した。
兄妹を超えた関係。
初めて異性として距離を縮める。
基氏が碧純の額にキスをした瞬間。
二人の間に流れる空気。
変わっていた。
「お兄ちゃん、味噌汁どう?」
「あぁ、美味いよ」
「いつもありがとうな」
「うん」
「お兄ちゃん、私のことちゃんと見てくれるようになったよね」
「……あぁ、見てるよ」
「お前、女としてな」
碧純は顔を赤らめる。
小さく笑う。
頬が緩む。
「嬉しいよ」
「お兄ちゃん、私、ずっとこうなりたかったんだから」
「俺、駄目な兄だよ」
「お前をこんな風に思っちまって」
「駄目じゃないよ」
「お兄ちゃん、私のこと愛してくれてるなら、それでいいよ」
基氏はコーヒーを啜る。
目を逸らす。
心がざわつく。
心の要石が崩れた今。
碧純への愛情と欲望。
混ざり合う。
抑える必要がなくなった。
だが、その先に何が待つのか。
不安が胸をよぎる。
その日。
碧純は学校へ。
制服を着て出かける。
ポニーテールが揺れる。
基氏は自室で原稿に向かう。
キーボードを叩く。
新作の妹キャラ。
もはや碧純そのもの。
笑顔の描写。
彼女の声が聞こえるよう。
仕草が目に浮かぶ。
「お前がそばにいるから」
「こんな話しか書けねえよ」
苦笑する。
締め切りが迫る。
だが、執筆は順調。
言葉が溢れる。
夕方。
碧純が帰宅。
玄関を開ける。
キッチンから音。
基氏が料理をしていた。
「お兄ちゃん、珍しいね」
「料理してるの?」
「あぁ、お前いつもやってくれるから」
「たまには俺がな」
「カレーだけどいいか?」
「うん、大好きだよ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
テーブルに座る。
カレーを食べる。
スパイスの香り。
碧純がぽつりと言った。
「お兄ちゃん、私たち、これからどうなるの?」
「どうって……一緒に暮らしてるだろ」
「うん」
「でもさ、私たち、兄妹じゃなくて」
「恋人みたいだよね」
「……そうだな」
「お前がそれでいいなら、俺もそう思うよ」
「嬉しいよ」
「お兄ちゃん、私、お兄ちゃんの彼女でいいよね?」
「あぁ、いいよ」
「お前、俺の大事な女だよ」
碧純は目を輝かせる。
基氏の手を握る。
温かい感触。
「お兄ちゃん、私、幸せだよ」
「俺もだよ」
「けどさ、母さん達にどう説明すんだよ」
「……そっか、ママとパパに言うの、難しいよね」
「あぁ」
「俺たち、血縁じゃないけど、兄妹として育てられたんだから」
「でも、私、お兄ちゃんと一緒にいたいよ」
「ママ達に反対されても」
「俺もだよ」
「けど、少し考えようぜ」
二人は笑い合う。
だが、心のどこかに不安。
小さな影がちらつく。
その夜。
電話が鳴る。
佳奈子から。
基氏が受ける。
スピーカーから声。
「基氏、元気?」
「碧純はどうしてる?」
「あぁ、元気だよ」
「碧純もな」
「そう」
「仲良くしてるみたいね」
「ふふふっ」
「……何だよ、その笑い」
「何でもないわよ」
「基氏、碧純のことよろしくね」
「あぁ、分かったよ」
電話を切る。
基氏は違和感。
佳奈子の声。
どこか含みがあった。
眉を寄せる。
「母さん、まさか気づいてるのか?」
実は、佳奈子。
二人の関係を薄々察していた。
基氏のシスコンぶり。
碧純の兄への執着。
昔から知っていた。
実家の居間。
佳奈子が呟く。
「ふふふっ、基氏と碧純が結ばれれば」
「真壁家の跡取りも安心ね」
夫・忠信が隣で。
農具を磨く。
黙って聞く。
手を止めた。
「佳奈子、お前、企んでるな」
「企むなんて人聞き悪いわよ」
「ささやかな願いよ」
佳奈子は笑う。
基氏と碧純が結ばれること。
望んでいた。
血縁ではないとはいえ。
我が子同然に育てた二人。
幸せなら、それでいい。
翌日。
碧純は学校。
教室でクラスメイトと話す。
窓から風が入る。
「ねえ、真壁さん」
「『茨城基氏』の新作楽しみだよね」
「う、うん、そうだね」
「妹物最高だよ」
「お兄ちゃん欲しいなぁ」
「……私、お兄ちゃんいるよ」
「え!?」
「ほんと!?」
「どんな人?」
「優しくて、ちょっと変だけど」
「大好きだよ」
「いいなぁ」
「私もそんなお兄ちゃん欲しいよ」
笑顔で返す碧純。
だが、心の中は複雑。
「お兄ちゃん、私の恋人でもあるんだよ」
言えなかった。
胸が締まる。
帰宅後。
アパートのリビング。
基氏が原稿を読む。
赤ペンを手に持つ。
「お兄ちゃん、ただいま」
「お帰り」
「夕飯、ピザ頼んだぞ」
「やった!」
「都会の味だね」
ピザを食べる。
チーズが伸びる。
碧純が切り出す。
「お兄ちゃん、私、クラスで『お兄ちゃんいる』って言っちゃった」
「そうか」
「どうだった?」
「羨ましがられたよ」
「でも、私、お兄ちゃんのこと恋人だって言えなかった」
「……そりゃそうだろ」
「世間じゃ兄妹だもんな」
「うん」
「でも、私、お兄ちゃんのこと」
「ちゃんと彼女として愛したいよ」
「俺もだよ」
「お前、俺の大事な女だからな」
碧純は基氏に寄り添う。
肩にもたれる。
温もりが伝わる。
「お兄ちゃん、私、ずっとそばにいるよ」
「あぁ、俺もだよ」
二人は寄り添う。
新たな日常を受け入れる。
穏やかな時間。
だが、数日後。
荷物が届く。
佳奈子から。
箱の中に手紙。
『基氏、碧純、元気にしてるみたいね』
『そろそろ実家に帰ってきなさい』
『話したいことがあるわ』
「……母さん、何だよ、これ」
「ママ、何か企んでるのかな?」
二人は顔を見合わせる。
不安と期待。
入り混じる。
心がざわつく。
その夜。
基氏と碧純。
リビングで話す。
手紙を手に持つ。
「お兄ちゃん、ママ達にどう言う?」
「正直に言うしかねえだろ」
「俺たち、こうなっちまったって」
「ママ、怒るかな?」
「怒るかもしれねえ」
「けど、母さんなら分かってくれる気もする」
「うん、ママ、優しいもんね」
「パパはどう思うかな?」
「父さんは……分からねえな」
「黙って受け入れるか、俺を殴るか」
「殴らないよ、パパ優しいもん」
「でも、私、心配だよ」
「俺もだよ」
「けど、隠してても仕方ねえ」
「いつかバレるんだから」
「うん、そうだね」
「お兄ちゃん、私、実家帰るの怖いけど」
「一緒なら大丈夫だよね?」
「あぁ、大丈夫だよ」
「俺がそばにいるからな」
碧純が基氏の手を握る。
強く握る。
笑顔を作る。
「お兄ちゃん、私、頑張るよ」
「俺もだよ」
「お前と一緒なら、なんでも乗り越えられる」
二人は見つめ合う。
新たな試練が近づく。
佳奈子の思惑。
動き出す。
翌朝。
基氏は原稿を進める。
キーボードの音。
碧純が朝食を作る。
トーストを焼く。
「お兄ちゃん、実家帰るのいつにする?」
「来週末はどうだ?」
「原稿終わらせてからな」
「うん、いいよ」
「私、学校の予定調整するね」
「あぁ、頼むよ」
「母さん達に何て言うか、考えとこうぜ」
「うん」
「お兄ちゃん、私、ママに正直に言うよ」
「お兄ちゃんのこと愛してるって」
「……俺もだよ」
「お前が大事だからな」
二人は笑い合う。
不安を抱えながらも。
決意を固める。
その日。
碧純は学校で。
友達と話す。
教室の喧騒。
「真壁さん、週末何するの?」
「実家帰るよ」
「お兄ちゃんと」
「お兄ちゃん!?」
「いいなぁ、仲良いね」
「うん、仲良いよ」
「大好きだから」
笑顔で返す。
だが、心の中。
実家での試練。
胸が締まる。
帰宅後。
基氏がリビングで。
原稿を読み返す。
赤ペンが動く。
「お兄ちゃん、ただいま」
「お帰り」
「夕飯、どうする?」
「私、作るよ」
「お兄ちゃん、原稿頑張ってね」
「あぁ、ありがとうな」
碧純がキッチンに立つ。
鍋の音。
基氏が呟く。
「碧純、実家帰ったら、正直に話そうぜ」
「うん、決めたよ」
「お兄ちゃん、私、ママ達に言うよ」
「お兄ちゃんが恋人だって」
「あぁ、俺もだ」
「お前が俺の女だってな」
二人は笑う。
新たな日常。
試練が迫る。
佳奈子の手紙。
その思惑が動き出し。
二人の関係に波乱が訪れる。
どんな未来が待つのか。
まだ誰も知らない。




