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ラスボスと空想好きのユア

ゲームの魔王と現実世界でデート!?

作者: レセラン
掲載日:2025/03/14

※本作は「ラスボスと空想好きのユア」本編のネタバレが出て来ます。

「攻略本を買いに行くぞ!」


 魔王・ディンフルが呆れるように、少女・ユアへ言った。

 異世界・フィーヴェの国王へ、イマストV(ファイブ)の攻略本を渡す約束をしていたが、ユアはすっかり忘れていた。


「“行くぞ”? 一緒に? ……こ、これって、デート?!」


 ユアは空想の物語が大好き。

 最近は「イマジネーション・ストーリーV(ファイブ)」のラスボス・ディンフルを推している。

 同じゲームのフィトラグス(通称・フィット)、ティミレッジ(通称・ティミー)、オプダット(通称・オープン)とも出会い、ユアは夢のような日々を送っていた。


 ディンフルは自身のマントを頭からすっぽりとかぶると、濃い紫色の短髪に紫色の眼鏡を掛け、黒いジャケットを着た青年に変身した。

 現実世界・リアリティアでは、ゲームキャラの姿では歩けないため、ディンフルは青年・ディーンへ姿を変えていた。


 出掛ける前にディーンは、ユアの勉強机に目を止めた。

 開いたままの参考書と勉強用のノートがあった。


「学校は卒業したのではなかったか?」


「仕事をしながら、来年に向けて勉強してるんだ。やっぱり、大学は出てた方がいいからさ」


 ディーンは参考書を取ると、ページをパラパラとめくり始めた。


「リアリティアでも同じような問題を解くのだな」


「フィーヴェにも数学、あるの?!」


「ああ。もっぱら、お前がしている問題は、七年から九年の間に修了した」


「七年から九年?」


「小学校が一年から六年だから、中学校は七年から九年と言う」


 つまり、ディンフルらフィーヴェの住人は、中学時代に大学入試レベルの数学を習っていた。


「中学でこんな難しいの、やるの……?」


 衝撃の事実に、ユアは顔が青ざめた。


「さらに言うと、お前が解いたやつ、すべて間違えているぞ」


 ノートを見たディーンの指摘で、さらに愕然(がくぜん)とした。


「時間掛けて解いたのに……」


「帰ったら教えてやる。時間があればな」


「“帰ったら”……? そうだ、これからデートだったね!」


 推しとのデートが待っていることを思い出し、ユアはすぐに立ち直った。

 ディーンが「デート……?」と顔をしかめて聞き返す。


「あ、デートっていうのは、好きな男女同士が愛を深めるために遊びに行くことで……」


「それはわかっている」


 言葉の意味を知らないと思ったユアが説明するが、さえぎられた。


「何故、本を買いに行くのがデートなのだ?」


「リアリティアの本屋の周りって、遊ぶところがたくさんあるんだよ!」


「俺は遊びに来たのではない! 国王から攻略本を持って来るよう頼まれたのだ! つまり、任務中だ!」


「任務中って、ディン様も一応休みなんでしょ?」


 ディンフルは最も手の掛かる魔物退治の罰を受けていたが、わずか一週間で終わらせていた。

 今は、国王の依頼がある時以外は時間を持て余していた。


 何より、ユアにとっては推しと二人で都会へ行くのだ。

 ただ、本を買って帰るだけでは物足りなかった。


「さすがにリアリティアでは、監視されないでしょ?」


「それはそうだが……」


 どうしてもデートをしたがるユアへ、ディーンは答えを渋った。


「そうそう。こないだ、ラーメン屋の新しいクーポン券、もらったんだよ!」


「行こう」


 クーポン券を見た瞬間、彼は即答した。


 リアリティアのラーメンは、彼のお気に入りになっていた。

 クーポン券のおかげで、デートが決行された。


◇


 早速、街へ繰り出す二人。

 ユアもデートということで、初任給で買ったチェック柄のチューリップハットをかぶって行った。


 電車に揺られること十数分。

 二人は、大型のショッピングセンターに到着した。


 一階には食料品やフードコート、二階には本や雑貨、三階にはゲームセンターなどが並ぶ大型施設だった。

 もちろんフィーヴェには、こんなショッピングセンターはない。

 たくさんの店が一つの建物に入っていることを知ると、ディーンは言葉を失った。


「すべて、店なのか……?」


「そうだよっ!」


 信じられずにいるディーンへ、ユアが明るく返事をした。

 自分の世界のものを早く彼へ紹介したくてたまらなかったのだ。


「フィーヴェにはない食べ物とか雑貨がたくさんあるから、今のうちに覚悟しときなよ~」


 今から驚くディーンが楽しみで、ついドヤ顔をしながら言った。


「勝ち誇った気でいるが、色々な面では俺が上だからな」


 冷静に言い返すディーンに、ユアはうなだれた。

 今、リアリティアの知識があるのはユアの方だが、負けず嫌いのディーンが独学で調べると簡単に追い抜かれるだろう。


「それで、本屋はどこだ?」


「二階。だから、エスカレーターで行こう」


「エスカレェタァ?」


 わからないでいるディーンを、ユアが実物がある場所まで連れて行った。


「階段が動いている?! 魔法か?!」


 予想以上に驚く彼に、ユアは笑い転げた。


「魔法じゃないよ! 機械で動いてるんだよ!」


「フィーヴェにも機械はあるが、こんなに動く階段は見たことがない……」


 エスカレーターを使って、二階に上がる二人。

 移動している間も、ディーンの目にはすべてが目新しく映った。

 あまりにもキョロキョロしながら歩くので、何度か通行人にぶつかりそうになった。


「気になるのはわかるけど、前見て歩こう? 人にぶつかっちゃうから」


「すまぬ……」


 色々なものが気になりながらも、本屋に着いた。

 ディーンは、今度は本屋の広さに圧倒された。


「色々なジャンルがあるのだな。ティミレッジが見たら、どれほど喜ぶことか……」


「いつか連れて来よう。攻略本はこっちだよ!」


 驚くディーンを見て、ユアは嬉しそうに笑った。

 うきうきしながら、彼の手を引いてゲーム本コーナーへ走った。


 イマストV(ファイブ)の攻略本はすぐに見つかった。

 ユアは、すでに持っているものと同じ本を手に取った。

 その間、ディーンは自分たちのイラストが載った複数の本を見つけていた。


「他のものは違うのか?」


「あとはイラスト集だったり、ファンブックだったり、設定資料集だよ」


 得意げに説明するユアだが、途中でイマストV(ファイブ)の新しい本が目に止まった。


「こ、これ……、発売したら買おうと思ってたやつだ! もう出たんだ?! 時が経つのは早いな~」


 思わずテンションが上がるユア。

 しかし、今日は国王のために攻略本を買いに来ていた。


「まいったな。これを買うと、あとが困る……」


「金なら、国王が出すはずだぞ」


「そうだけど、この後のデート代がなくなるんだよ……」


「なら、デートを中止しても良いぞ?」


「それはダメ! せっかくの機会だよ!」


 ディーンが提案すると、ユアは勢いよく叫んだ。

 本屋は静かなので、周囲の客や店員が一斉にこちらを睨んだ。


「すいません……」と謝った後で、ユアは小声で決意した。


「決めた! 新しい本はあきらめて、デートにつぎこんでやる!」


「こうなるか……」


 ディーンは小さくため息をついた。

 二人は攻略本を買ってから、本屋を後にした。


◇


 次に来たのは、ゲームセンター。

 やはりフィーヴェにはない娯楽なので、ディーンは騒音に耳を塞いだ。


「ずいぶんとうるさい場所だな……!」


「すぐに慣れるよ!」


 ユアが大声で言うが、耳を塞いでいる彼には聞こえなかった。


「何だって?」


「すぐに慣れるよ!!」


「何を言っているかわからぬ!!」


 ディーンが耳を塞いだままなので、もちろん会話は成立せず。

 ユアは学園から借りて来たスマホを取り出し、「すぐに慣れるよ」と文字を打ち、彼に見せた。


 ユアの言うとおり、しばらくするとディーンはすぐに耳が慣れ、塞がずに歩けるようになった。

 だがゲームセンター内にある機械は、彼にとって目移りするものばかりだった。


「ねえねえ! まずはプリクラ撮ろうよ!」


「ぷりくら……?」


 ユアの案内で、個室のようなプリクラの機械内に入る二人。

 機械の指示でポーズを決めたり、撮影後に付属のペンで落書きをしたり(ディーンは慣れていないため、ほとんどユアが書いた)、慣れないながらも二人は楽しんだ。


 出て来たシールを見てユアは感動し、ディーンは唖然(あぜん)とした。

 何故なら……。


「顔がおかしくないか? 特に目が……」


 撮影に使ったプリクラは、自動で目が大きく映る仕組みになっており、プリントされた二人の目は不自然に大きくなっていた。


「最近のプリクラって、こんな感じなんだよね……」


 ユアもさすがに苦笑いした。

 出来に納得がいかなかったのか、ディーンは眉間にしわを寄せた。


「……これでは魔物みたいだ」


「そこまで言う……? あっ!」


「どうした?」


「せっかく撮るなら、ディーンじゃなくてディンフルの姿の方が良かったかも……」


「魔王でこの目は、魔物以上の恐怖になるぞ……」



 プリクラを撮った後は、ゲーセン内にあるゲームで遊んだ。


 ユアがお金を入れて、クレーンゲームを始めた。

 巨大な透明の箱の中には、イマストV(ファイブ)のぬいぐるみが入っていた。

 ボタンを押し、アームを動かして取ろうとするが、なかなか難しい。


 ユアが狙っているのは、ディンフルのぬいぐるみ。

 つかんだと思ったら、ゆるいアームから落ちてしまった。


「俺のぬいぐるみが欲しいのか?」


「うん。でもこの機体、取りにくいって評判なんだよね……」


「任せろ」


「取れるの?!」


 ゲームの仕組みなど知らないはずなのに、ディーンは自信満々だった。

 負けず嫌いもあるので「ぬいぐるみも取れるんじゃ……?」と、ユアは期待に胸を膨らませた。


 ところが次の瞬間、ディーンは左手から光の球体を出した。

 察したユアが、急いで止めた。


「ダメッ!!」


 周りの音より大きく聞こえた声にディーンは驚き、球体を手の中で消した。


「な、何故だ……?」


「魔法を使おうとしたよね?! 前にも言ったけど、リアリティアには魔法がないの! だから、使ったらダメなの!」


「しかし、この箱を壊せば、手に入るが……?」


「壊したら犯罪なのっ! これはボタンでアームを操作して、ぬいぐるみを取るゲームなの! それ以外の方法で取っちゃダメ!!」


「面倒くさい世界だな……」


◇


 結局ぬいぐるみはあきらめ、次は映画館に入った。

 すぐに見られる映画を見た。


 二人が見たのは、ホラー映画。

 真っ暗な中、スクリーンに薄暗い映像が映し出されていた。


 何かから逃げまどう画面の中の女性。

 彼女は一室の部屋に逃げ込み、鍵を掛けた。

 追手の足音が部屋の外で止まり、ドアノブを何度もガチャガチャと回し続けた。


 やがて再び足音がすると、部屋の前から遠ざかって行く。

 安堵の息を漏らす女性。

 ドアを開けると……目の前には、長すぎる黒髪で顔が覆われた人物が立っていた。


「キャーーー!!」


 館内が悲鳴に包まれた。

 今の叫び声はスクリーンの女性だけでなく、ユアと他のお客さんのものも含まれていた。


 怖くなったユアは、思わず隣のディーンに抱きつくが、彼は微動だにせず画面を睨みつけていた。


◇


 映画が終わると、次は少しだけカラオケ。

 個室で二人っきりになると、先ほど見た映画の感想を言い合った。


「さっきの映画、怖かったな~」


「そうか? 俺は終始、疑問だった。“何故、戦わぬのか”と」


「戦う……?」


「怖れるなら、戦う術を身に着ければ良かろう。ましてや、逃げ回っていた建物には武器になりそうなものがいくつかあったはず。それらを駆使すればあのような追手、何とでもなるだろう」


 戦闘経験が豊富のディーンらしい意見だと、ユアは納得するしかなかった。

 同時に、二度と彼とホラー映画は見ないことと、遊園地のおばけ屋敷には連れて行かないと決めた。

 ディーンなら、仕掛けのおばけまで倒しそうだったからだ。


 映画の話が終わると、カラオケスタート!

 ユアは、リアリティアの人気歌手・ミカネの曲を数曲歌った。


「あ~、スッキリした! いい曲でしょ? 今の全部、ミカネが作詞作曲したんだよ!」


「確かに曲は良かった。……だが、上手くはなかったな」


「ミカネみたいなプロじゃないし、カラオケだから下手でもいいの!」


 ユアの歌は下手ではないが、聞き入るレベルでもなかった。

 ディーンからすると、評価しづらかったようだ。


「そういえば、ディン様って歌えるの?」


「あまり、人前で歌ったことはない。施設にいた頃、子供の寝かしつけでウィムーダ(ディンフルの恋人)が率先して子守唄を歌っていたし、舞台の仕事をやっていた時も歌は任されたことがない」


「ちょ……! 舞台、やってたの?!」


「いかに仕事が出来るか証明するために、短期間だけだ。それと、舞台と言ってもホールのような大きいところではない」


 ユアは、ディンフルは色んなことが出来ると知っていたが、舞台経験は予想外だった。


「舞台をやってたなら……歌えるかも?!」


「自信がないことはないが、なかなか機会がなかった。それゆえ、上手いかはわからぬぞ」


「他の人がディン様に嫉妬して、わざと歌わせないようにしてたんだよ! イケボだから上手いに決まってるよ!」


「……“イケボ”の意味がわからぬが、一曲だけなら歌おうか?」


「本当に?! これに歌えそうなの、入ってるかな?」


 ユアはカラオケの機械を指して言った。

 フィーヴェとリアリティアでは音楽の文化も違うので、カラオケで探しても出て来ない可能性があった。


「古くから伝わる“フィーヴェの子守唄”という曲なら歌えるが?」


「それなら、あったはず!」


「フィーヴェの子守唄」は、イマストV(ファイブ)で人気の歌付きのBGMで、発売後すぐにカラオケで配信されていた。


「あった!」


 見つけたユアが早速、「フィーヴェの子守唄」を流した。

 ディーンはその場で立ち、マイクを持った。

 一応フィーヴェにもマイクはあるので、使い方はわかっているようだ。


(ディン様、初めてのカラオケか。どんな歌声だろうな……?)


 胸をときめかせ、目を閉じて耳を澄ますユア。


 まもなく、そのときめきは打ち砕かれるのであった。


 静かに歌い始めるディーン。


(……ん?)


 目を閉じながらユアは、すぐに違和感に気づいた。

「フィーヴェの子守唄」は、動画サイトで何度も聞いた曲だった。

 だが明らかに、動画で聞いた歌とは違う旋律が流れて来た。


 歌い終わり、マイクを置くディーン。


「どうだ?」


 感想を求められたユアは、硬直していた。


「う、うん。良かったんじゃないかな……」


 それしか言葉が出なかった。

 あまりにも一生懸命だったので、正直には言えなかったのだ。

 ディーンは、彼女の異変に気づいた。


「顔色が悪いが、大丈夫か?」


「ひ、久しぶりに遊び回ったから、疲れたのかも……」


「そうか。気づかず、すまぬ。ラーメン屋はパスだ。また次の機会にして、今日は早く帰ろう」


「いや、行こう! そこまで疲れてないから! ディン様もラーメン食べたいでしょう?」


 必死に取りつくろうユア。

 口には出さずに、また一つ決意を固めた。


(本人には申し訳ないけど、カラオケにも連れて来ないようにしよう。ウィムーダさんが歌いたがるのも、舞台で歌を任されなかった理由も、わかった気がする……)


◇


 一時間ほど過ごしたカラオケを出て、二人はショッピングセンターの入口へ向かって歩いた。

 途中、店頭に飾られた色々な写真を見て、ユアが足を止めた。


「ディン様、ちょっといい?」


 二人は、写真館に入って行った。


「写真を撮る店か?」


 彼には答えず、ユアは暇そうにしている店員に声を掛けた。


「すいませーん。急で申し訳ないんですけど、今って撮れます?」


「おい! 何故、急に写真など?」


 理解出来ないでいるディーンへ、ユアは頼み込むように言った。


「お願いっ! 私、どうしてもディン様と写真が撮りたいの!」


「写真なら最初に撮っただろう? あの、プリクラとやらを」


「ディン様、あの出来は気に入らないんでしょ?」


 ディーンはうなった。

 確かに、異世界育ちの彼は、不自然に目が大きくなったプリクラには慣れていない。

 もしフィーヴェの者に見つかれば怖がられる、もしくは笑い者になるのは確実だった。


「……わかった。ただ、急に来て店側は迷惑でないのか? そこが肝心だぞ」


 二人の会話を聞いていた店員は満面の笑みを浮かべて、一言返事をした。


「いいよ~」


 店員の笑顔につられて、ユアも笑顔で返した。


「いいんだ?! ありがとうございます! じゃあ、お願いします!」


(この感じ、どこかで……?)


 ディーンがデジャブを感じながらも、心の中でその店員を「いいよ店員」などと命名した。


 ユアたちは早速、準備に取り掛かった。

 と言ってもユアからの注文は少なく、衣装もそのままで撮影はいつでも始められる状態だった。


 ユアが帽子を取って髪を整えていると、更衣室からディーンが出て来た。

 そこにいたのは、ディーンではなく魔王の姿のディンフルだった。


「何故、この姿が良いのだ?」


 ディンフルはマントを着けながら尋ねた。


「プリクラの時に言ったじゃん? “ディーンじゃなくて、ディンフルの姿で撮って欲しかった”って」


「この写真が、他の者にバレたらどうする?」


「大切にしまっておくし、もしバレても頑張って説明するよ!」


「本当に、大丈夫か……?」


 誰かに見られることを想定していなかったユアは、焦りながら答えた。

 たどたどしい彼女を見て、ディンフルはますます不安になった。


 ディンフルを見た、いいよ店員は感激の声を上げた。


「うわぁ~! 人気ゲームのコスプレだね?! すっごく似てるよ! たしか、フィトラグスだっけ?」


「ディンフルだ」


 満面の笑みで名前を間違われ、食い入るように訂正するディンフル。


(コスプレでなく、本人なのだが……)



 真っ白な背景をバックにして、ユアが左側、ディンフルが右側に立った。

 ユアは前に手を重ね、ディンフルは腕を組む。彼らしい威厳のあるポーズだった。


「撮りますよ~」


 いいよ店員の合図で、シャッターが押された。


 写真は約二週間後に出来上がるので、その時はユアが取りに行くことになった。


◇


 二人はショッピングセンターを出た。外はすっかり真っ暗だった。


「楽しかったね~」


 満足げなユアとは違い、ディンフルは疲れ気味なのか無言だった。


「ご、ごめんね、一人ではしゃいじゃって。ディン様にとったら初めての経験ばかりだったよね」


「確かに疲れが出た。だが、異世界の文化を新たに知れて、刺激にはなった。ティミレッジたちへ良い土産話が出来そうだ」


 仲間の中では、特にティミレッジがリアリティアに興味津々だった。

 ユアもそのことを知っており、「いっぱい聞かせてあげて」とドヤ顔でうながした。


「“聞かせる”と言えば、俺の歌だな。お前からもお墨付きをいただいたのだ。どこかで機会があれば、歌うか」


 歌の話を聞き、ユアは身震いがした。

「やめた方がいいよ」と言うべきか迷っていると、周囲の視線が二人へ突き刺さった。


「ディンフルじゃない?!」


「本当だ! クオリティ高くない?」


「本人だったりして」


 通行人の中でも、特に女性たちがディンフルを見て騒ぎ出した。

 中にはスマホを取り出し、勝手に撮影を始める者までいた。


「まずい……。変身を解いたことを忘れていた!」


 その場を走り去るディンフル。ユアもその後を追いかけた。


◇


 二人は建物と建物の間に来た。

 走って来たので、ユアは息が切れていた。


 ディンフルのマントには変身能力があるが魔力を大量に消費するため、一日に一度しか使えない。

 一度ディーンから戻ると、翌日まで力が使えなかった。


「ごめんね。“ディンフルの姿で撮って欲しい”って言ったから……」


「良い。今宵は寮へは送れぬ。よって、ラーメン屋もやはり今度だ」


「楽しみにしてたのに、本当にごめんね……」


「クーポンの期限はまだあるだろう? それまでに行けば良い」


 ユアは彼がラーメン目的で来たことを思い出し、心から申し訳ないと思った。

 それでもディンフルは怒らずに許してくれた。クーポン券があれば、いつでも行けると知っていたからだ。

 同時に「せっかくのデートなのに、謝ってばかりだな」と、ユアへ指摘した。


「ここでお別れだ」


「今日は、付き合ってくれてありがとう!」


「うむ」


 ディンフルは簡単に返事をすると、無言でユアを見つめた。

 先の言葉を待つ彼女へ、ディンフルは「それで?」と言った。


「ん?」


 ユアは目を丸くした。


「“ん”じゃない。攻略本だ! 国王の分を買いに来ただろう!」


「そうだった! 重ね重ね、ごめんなさ~い!」


 ユアは謝ると、自身のリュックから買ったばかりの攻略本と、本屋のレシートをディンフルに手渡した。


「これが証明書か。国王に渡し、代金は後日、両替して持って来る」


「てことは、また近いうちに会える?!」


「そうだな。ただし、今日みたいなデートはしない! 金銭の受け渡しとラーメンを食べに行く! あとは勉強会だ!」


「勉強もあったね……。二週間後なら、写真も渡せるよ」


「なら、その時に来よう」


 二人はもう次に会う約束もした。


「一人で帰れるか?」


「大丈夫」


「そうか。また二週間後に会おう。さらばだ」


「うん、ありがとう!」


 去って行くユアを見送ったディンフルは、その場でイマストV(ファイブ)の攻略本をパラパラをめくった。

 暗がりなので内容は見えなかったが、重さとページの多さは伝わった。


「本当に膨大なページ数だ。国王らの反応が楽しみだ」


 彼は攻略本を眺めながら、今日一日の出来事を思い返していた。


「これを買うためだけに来たが……悪くはなかったな」


 微笑み、空間移動をしようとしたその時、ユアの悲鳴が聞こえた。

 急いで駆けつけるディンフル。


 彼女は、駅の入口で電光掲示板を見て呆然としていた。


「どうした?」


「あ、ディン様……。電車、止まってるんだよ」


「止まってる?」


「信号トラブルらしいんだ」


「なら、徒歩だな。門限には間に合いそうか?」


「それならギリ……、あぁーーー!!」


 ユアは腕時計を見てから、再び悲鳴を上げた。


「今度は何だ?!」


「よく見たら、時計も止まってる~!」


 電池が切れたのか腕時計は止まっており、真っ昼間の時間を指していた。

 スマホを出して見ると、門限の時間が三十分後に迫っていた。


「ダメだ、間に合わない……」


「最後まで世話が焼けるな……。来い!」


 ディンフルはユアの手を引っ張り、再び建物の間に来た。



 人目がないのを確認すると、ユアをマントで包みながらお姫様抱っこをし、空へ飛んだ。

 突然の飛空に、ユアが三度目の悲鳴を上げた。


「下を見るな! 門限に間に合わせるためだ!」


「最後まで、すいません……」


「もう良い。お前の世話も慣れた」


「下を見るな」と言われたユアだが、どうしても見てしまう。

 初めは高所に怯えたが、もう夜なので都会のネオンが輝いていた。


「キレイ……。夜の街を高い場所から見るの、初めて!」


 ユアの感想に、ディンフルも都会の光に見入った。


「これが、街の灯りか……?」


「うん。お店が多いから全部の灯りを点けると、こんなに輝くんだよ」


「フィーヴェの夜は真っ暗だ。街の灯りが、こんなに煌(きら)びやかとは思わなかった」


 ユアは夜景を初めて生で見たが、ディンフルにとっては夜景そのものを初めて知った。

 彼は今日のデートの中で、一番感動しているように見えた。


「まさか、このような光景が見られるとは……」


 ディンフルの様子を見て、ユアはまた満足した。


(ディン様が感動してる。これって、もう夜景デートだよね……?! 今度会う時は、夜景の絵はがきでもあげよう!)


◇


 女子寮の前に降り立つと、ディンフルはユアを下ろした。

 門限にはギリギリ間に合った。


「本当にありがとう、ディン様! 最後の最後まで、お世話掛けました……」


「気にするな。送迎がなければ“夜景”というものに出会えなかった。こちらこそ、感謝する」


「へ……? 感謝?」


 突然礼を言われ、混乱するユア。

 詳しく聞こうとしたが、そこまでの時間がもうなかった。


「早く行け。門限になってしまうぞ」


「あ、うん。ディン様、色々とありがとう! また今度ね!」


「ああ。次回までに、勉強も頑張るのだぞ」


 ユアが大きく手を振り、寮のドアを閉める様子まで見届けると、ようやくディンフルは一人になった。


「今度こそ帰るか。さすが、幻の世界は刺激がたっぷりだ……」


 リアリティアの良さを改めて知った彼は、空間移動の魔法でフィーヴェへ帰った。


◇


 二週間後。ディンフルは国王から預かったお金を魔法で両替してから、ユアへ渡した。

 交換するようにユアも、出来上がった写真と新たに購入した夜景の絵はがきをディンフルへ渡した。

 絵はがきを見た彼は、満足げな表情を浮かべた。


 その後は二人で念願のラーメンを食べに行った。


「やはり、美味い。今日まで延ばして正解だったな」


「いつか、みんなも連れて来たいね」


 ディーンは改めてラーメンに感動し、ユアは次回へ期待に胸を膨らませた。


◇


 そしてデートから一ヶ月後、写真館で撮ったユアとディンフルの写真が店のウィンドウに飾られた。

 いいよ店員いわく「今年一番の出来」らしく、看板写真として使わずにはいられなかったそうだ。


 しばらくの間、ユアが身近のイマストファンから「あのクオリティの高いコスプレイヤーさん、誰?!」と質問攻めに遭ったのは、言うまでもなかった。


(完)

ゲームの魔王と現実世界でデートするお話、いかがでしたでしょうか?

面白いと思った方はリアクション、ブクマ登録、星をお願いします。

セルフチェックはしておりますが、気になる箇所がありましたらご指摘ください。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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