剣聖会議
パーム王国の王城、最上階に位置する円卓の間。八本の魔剣が放つ微かな輝きが、夜の闇を青く染めていた。
シュタインは、自身の魔剣デュランダルを前に置きながら、深いため息をついた。年に一度の剣聖会議。本来なら団長としての職務に専念したい時期に、こうして時間を取られることへの不満が、胸の中でくすぶっている。
「相変わらず退屈そうな顔をしているな、シュタイン」
声の主は、東方の砂漠国から来たサイファ。赤銅色の肌に刻まれた無数の傷跡が、その戦歴を物語っている。彼の魔剣『ティザーナ』は、砂漠の風のような金色の輝きを放っていた。
「無理もないだろう。彼は今や一国の騎士団長だからな」
氷の国の剣聖、クリスティーナが言葉を添える。彼女の魔剣『フロストバイト』からは、冷気が立ち込めていた。
次々と剣聖たちが集まってくる。南の島々を統べる双子の剣聖、ライラとレイラ。彼女たちの魔剣『タイドブリンガー』と『ストームコーラー』は、まるで共鳴するように波打つ光を放っている。
「おや、光の剣聖は今回も欠席かい?」
角のある仮面を付けた剣聖、バルバロッサが問いかける。彼の魔剣『ヘルファイア』は、不吉な赤い光を帯びていた。
「ああ、相変わらずだな。十年前から姿を見せていない」
答えたのは、修道会の長を務めるセラフィナ。白銀の魔剣『セイクリッド』を持つ彼女は、最古参の剣聖として知られている。
最後に現れたのは、闇市場で「死神」と呼ばれるノクターン。漆黒の魔剣『シャドウリーパー』は、まるで光を吸収するかのように、濃い影を作り出していた。
「さて、今回の議題は例の件だな」
セラフィナが口を開く。その瞬間、シュタインは背筋を正した。
「ええ、北方で発見された古代の魔剣跡について」シュタインは資料を取り出しながら答える。「パーム王国の調査隊が、氷河の下から発掘した遺物に、剣聖の痕跡が」
「待て」バルバロッサが遮る。「剣聖は代々受け継ぐものだろう、新しい魔剣などあるはずがない」
「しかし、証拠は明白です」クリスティーナが反論する。「私の国の古文書にも、かつて十本目の魔剣の記録がありました」
「そんなことより」ノクターンが不敵な笑みを浮かべる。「その魔剣を、誰が継承するのかが問題ではないのかい?」
シュタインは眉を寄せた。この話題の行方は、予想できている。そして、それは必ずや新たな争いを生むことになるだろう。
「私たちの役目は、魔剣を守ることだ」シュタインは静かに、しかし力強く言った。「新たな継承者は、魔剣が選ぶべきもの。我々が介入すべきではない」
「相変わらず潔癖だな、シュタイン」サイファが嘲るように笑う。「だがそれも、お前の魅力といったところか」
会議は深夜まで続いた。結論は出ないまま、それぞれが自身の思惑を胸に、散会となる。
シュタインは月明かりの下、デュランダルを見つめた。
(アグノリカなら、きっと正しい選択ができるだろう)
ふと、そんな考えが頭をよぎる。しかし、彼は即座にその考えを振り払った。彼女を、この混沌とした剣聖の世界に引きずり込むわけにはいかない。
デュランダルが、まるで主の心を理解したかのように、静かな光を放った。