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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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分かれ道はきっと巡り合う場所でもある


 拓哉は真っ直ぐ家に帰ることはしなかった。


 帰り道のどこかで姫崎にばったり出会ったりしないかな、なんて願望が拓哉にはある。ただ拓哉自身が姫崎に会いたいと思った。

 忘れ物を届けるということは完了したが姫崎の様子を確かめることはできていない。様子がおかしくて心配と言われた上、あんな事情を話されたのだ拓哉自身も心配で仕方がない。


 駅の前、ショッピングモール、公園、なんとなく居そうだと感じた場所をあらかた回った。しかし、姫崎の姿はどこにもない。


 ポトっと顔に何かが当たる。見上げると同時に小雨が降り出した。拓哉は慌てて傘を広げる。


 雨も降り出したことだし、時間もかなり経っているから、今日はもう帰った方がいいだろう。姫崎だって歩いているうちに家に帰っているかもしれない。


 拓哉が足を踏み出そうとするとスマホが音を鳴らす。確認すると宮口母からメッセージが届いていた。スマホの画面を開けて確認する。


『姫崎ちゃんと会ったりした?お母さんから連絡が来たんだけど姫崎ちゃんまだ帰ってないんだって』


 拓哉はスマホを落としそうになった。拓哉は一度首を振って悪い考えを振り払う。


 帰っていないといってももう帰路についているかもしれない。それに落ち込んでいるとも限らない。


 拓哉が返信を打てないでいるともう一件メッセージが届く。


『それにスマホにも連絡もつかないんだって。何か知ってる?』


 拓哉はスマホを持っている手を落とす。なんとかスマホは守られたが、そのための力以外は全て抜ける感覚がした。


 連絡もつかないなんておかしいと思う。姫崎母から言われているのなら、スマホを家に置いて行っている可能性も、鞄に入っている可能性もほぼなくなる。

 つまり、今連絡ができない状況にいるということになる。


 拓哉は手を上げて返信を打ち出した。


『すみません。わかりません。探してみるので、姫崎さんのお母さんに心当たりがあれば聞いておいてくれますか?』


 返信は一分も待たずに帰ってくる。


『わかったわ。何か分かれば、連絡するわね』


 拓哉はスマホをしまって歩き出す。


 何もないかもしれない、頼まれてもないのにこんなことをしたら、嫌われるかもしれない。でも、そんな考えより拓哉は不安の気持ちが強かった。


 来た道は通らないように歩く。道を歩いている人は昼間よりも少ない。

 拓哉はそんなに遠くに行っていないことを願って歩き続ける。


 少しするとスマホがまた音を鳴らした。見つかった、帰ってきたという連絡だと願う。


『ごめん。お母さんに聞いてもわからないって。お母さんもちょっと探しに行ってるみたい。私も外出てみてるけど見当たらないわ』


 考えていたうちのだいぶ最悪に近い文章が書かれている。


 歩いている最中にこんなにも焦る必要はないかもしれないという考えが時々顔を出してくる。

 よく考えてみれば、このぐらいの時間であれば外に出ている高校生なんて多くいる。それに思っているよりも姫崎は思い詰めてなんていないかもしれない。


 しかし、不安をかき消そうと現れる考えは大きすぎる恐怖とも言えそうな感情に飲み込まれる。

 なら、最初から出てこないで欲しいと思うが、これは自分の弱さが故だろうと拓哉は自分を悔やんだ。

 姫崎を信用している、そうなってほしくないと思っているなんて言えば綺麗に聞こえるが、それは考えを一つに決めきれない、もしもの辛い現実から目を逸らそうとしている弱さとだって言えるだろう。


 拓哉はこれ以上考えないように歩くペースを上げた。


 何にしろ、姫崎が心配なことに変わりはないとただ前に進み続ける。


 気がつけば、姫崎が住んでいるマンションの前にきていた。

 先ほど回った場所をもう一度、訪れたが姫崎はいなかった。あとは、冬休みだし、ないだろうと思っていた学校くらいだろうか。


 拓哉は他に当てもないため学校へと向かう。小雨はだいぶ弱まってきているがそれを降らせている雲と時間のせいであたりはもうだいぶ暗い。


 拓哉は進んだ。時々わずかに降っている雨が体に当たる。進み続けると姫崎と一緒に帰る帰り道、その最後の分かれ道に辿り着いた。


 拓哉は一旦ペースを下げて曲がり道を曲がる。学校がある右側を向くと同時に拓哉は傘を落としそうになった。


 姫崎がそこにはいた。


 姫崎は俯いて歩いていて、拓哉に気づいた様子は見せない。


 拓哉は姫崎に向かって歩き出す。近づくと姫崎は傘を持っておらず、髪が少し濡れているように見える。


「姫崎さん」


 拓哉は姫崎の目の前で名前を呼ぶ。姫崎はすぐに顔を上げた。拓哉を見つめるその瞳は次第濡れていくように感じる。


「こんなところで、何してるの?」


 拓哉の心はその時、本日初めてほっとした。


 ***


 姫崎は学校近くで雨宿りをしていた。傘を持っていないし、鞄をどこかに忘れてしまったから動けずにいる。


 突然降られたものだから少し濡れてしまった。季節も季節のため濡れていては寒い。姫崎は上着にくるまって雨が治るのを待つ。


 待っている間、姫崎の中には1人の人が思い浮かんでくる。ここに来るまでもずっと頭の中にいた道原の家にいたあの女の子。


 知らない人のはずなのに、見ているとどうしようもない気持ちが巻き起こった。それを我慢できなくて道原の家を飛び出して、なんだか家に帰る気にもなれなくて歩いていた。

 それでも、収まる気配は一向になく、そこに雨が降り出して、今雨宿りをしている。


 今、知らないということは前の前の自分が知っている人だろうと姫崎は思う。それ以外に可能性は考えられなかった。


 雨が弱まってきて姫崎は家に向かって歩き出す。まだ降ってはいるがこれ以上じっとすることはできなかった。


 最短距離のため、いつもの下校している道を歩き出す。しかし、ふと横を見てもあの人はそこにいなかった。


 何を考えているんだと姫崎は頭を振る。濡れているところが寒かった。


 自分はあの人の隣にはいられないと強く拳を握る。


 今回の件でまた強く思い知らされた。あの人の隣にいる資格はないと、この恋は叶うはずのないものだと。

 それでも、この感情を姫崎は捨てられなかった。

 いつも会いたいと思っていた。もっと長く側に居たいと思っていた。だが、それはできないと姫崎は自分に強く言い聞かせる。


 それなのに今でさえ、会いたいと思ってしまっている。あの人のことを求めてしまっている。


 もうすぐ、いつもの分かれ道だと姫崎は気づいた。


 きっと、自分とあの人はあの道みたいに分かれることが決まっている。いや、自分は行き止まりかもしれないと姫崎は思った。


「姫崎さん」


 俯いて下を見ている視界の端で誰がいるのがわかる。その声に姫崎はパッと顔をあげてしまった。


 やめて欲しい、姫崎はそう強く思うがそれよりも嬉しい感情が込み上げてきた。

 これだから、好きになってしまった。これだから、思いを止めることができない。


 姫崎を見つめる道原の目は優しく微笑む。


「こんなところで、何してるの?」


 姫崎は溢れ出ようとする感情を止めることに必死になった。

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