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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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閑話 いつかのあの日


「姫崎ちゃん、お待たせ」


 姫崎は顔をあげると宮口が目に入ってくる。


「ほんとだよー。何してたの?」


 宮口と一緒にパフェでも食べに行こうって話になって駅の前で待ち合わせすることになっていた。

 待ち合わせは20分前。その10分前には到着していたから姫崎はそこそこの時間を待たされていた。


 別に怒ってなどいない。むしろ怒る理由など何処にも見当たらない。宮口のことなどなのだから必ず事情がある。そう信じている。


「ごめんね。ほんとに遅れて」


「大丈夫、大丈夫。それより、早く行こ」


 姫崎は宮口の背中を押して目的地へと向かう。宮口は最初は戸惑いを見せていたが、すぐに自分の力だけで歩き出した。


 喫茶店へとついて注文を済ませる。2人とも同じパフェを頼んだ。


「最近、どうかしたの?」


 姫崎は宮口に心配そうな顔を向ける。


 宮口と出かけることは度々あったが、今日は目的地に着くまでの会話が少なかった。なんだか俯いて会話がよく途切れた。


 宮口は高校に入ってから引っ越してきたが、姫崎とはすぐに仲良くなった。よく気が合って、会話していて楽しいと思える相手だ。

 そんな相手の様子がおかしいから心配してしまう。


「ちょっと最近、俊二と上手くいってないの」


 宮口は店員に渡された水を飲みながら話す。


 俊二とは姫崎の幼馴染だ。松野俊二はすごい個人的な話になるが幼い頃に離婚して双子だったそうだが、もう1人は父親の方について行ったらしい。


 この2人は少し前から付き合いだしている。様子がうまくいっていないとはどのようなものだろうか。姫崎は誰かと付き合ったことがないから詳しくはわからなかった。

 とりあえず、仲が悪くなっているというのことであれば姫崎は心配になった。


「姫崎ちゃんがいなくなったら寂しくなるなー」


 宮口は話を逸らすように言葉を放つ。


 よりにもよってこの話かと姫崎は思った。

 姫崎は2年生からは同じ学校に通うことができなくなる。仕方ないとはいえ、姫崎も寂しく思ってこの話題はできるだけ出さないようにしていた。


「ま、そんな話より、今は楽しも」


 姫崎は話を区切るため手を叩く。ちょうど頼んだ料理が届いた。


 ***


「それじゃ、私はもう行くね」


 宮口はそう言って先に帰る。このあとショッピングモールで買い物に行くらしい。姫崎もこの後は家族との予定があるため、ついて行くことはできない。


 姫崎は宮口と別れて歩き出す。


「あれ、姫崎」


 姫崎は歩いていると松野と出会った。どうやら息切れしている。


「どうかしたの?」


 姫崎が尋ねると松野は一歩前に出てきて浜崎の肩を掴む。その手には力が入っていた。


「姫崎、麗奈がどこにいるか知ってるか?」


 緊迫した顔で松野は質問する。


 先ほど、宮口からうまくいっていないと言われた。その相手が今度は何をするために宮口を探しているのだろう。


「謝りたいんだ」


 姫崎が尋ねる前に松野は自分から聞きたいことを言う。その顔には汗が滲んでいた。


「ショッピングモールで買い物に行くって言ってたよ」


 松野は「そうか」と言ってどこかに走っていく。


 嵐みたいだなと姫崎は思った。謝りたいと言っていたし、仲直りするだろう。2人がうまくいくことを姫崎は願う。


 姫崎はそのまま家へと戻った。


 ***


「愛菜。ご飯、置いておくわね」


 母は優しい声で伝える。ドアの前で何かが置かれる音がした。


「愛菜、大丈夫よ」


 ドアの前から足音が聞こえ、次第に遠くなっていく。


 昨日、宮口に会ってきた。しかし、今日はいつもと違う場所、病院でだ。


 宮口は一昨日、階段から落ちたらしく入院している。それも松野と言い争ってらしい。その場を目撃していた人がそう証言したらしい。


 宮口が怪我をしたのは松野のせいだということだ。つまり、松野に宮口の場所を教えたのに問題があったということではないだろうか。


 すなわち、自分のせいだと姫崎は強く思う。


 姫崎はペンを持って目の前にある手帳に文字を書き連ねる。


『私のせいで 私のせいで 私のせいで』


 同じぐらいに『ごめんなさい』と書く。これまで日記を書いてきた手帳が姫崎の本心で埋まっていく。ついには見開き1ページが一面黒くなった。


 どうしたらいいのだろう。どうすれば許されるだろうか。いや、きっとこれは許されることではない。


 宮口は「あなたのせいじゃない」と言った。しかし、怪我をした原因は紛れもなく自分にあると姫崎は思う。


 姫崎は部屋の外に出た。そしてそのまま家の外に出る。


 理由は耐えられなくなったからだ。自分を責めること、謝り続けることしかできなくなった自分が姫崎は嫌になった。


 外では涼しい、というよりも寒い風が姫崎を強く吹き付ける。


 風にすら責められているように姫崎は感じた。


 目的もなく姫崎は歩き続ける。頭の中は自分を卑下にする言葉で満たされている。目は景色をまともに捉えようとしない。


 姫崎はぼんやりとした目で青信号を確認すると横断歩道を歩く。その道はいつもの倍以上長く感じる。


 姫崎の視界は突如光に包まれた。


 その原因はわからない。しかし、危険なことだけはわかる。足は動かそうとしても言うことを聞かない。


 姫崎は次第に強くなる光を受け入れる。


 もし、これが罰だと言うのなら全身を持って受け止めよう。自分はそれだけのことをしたとこれが償いとなるならと姫崎は思う。

 こんなことは償いになんてならないと心ではわかっている。しかし、逃げ出してしまいたいと思ってしまった。そしてもういっそのこと忘れてしまいたいと姫崎は思った。


 最後に映った暗い空の中で姫崎は自分の弱さを恨んだ。

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