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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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前に進むこと


 噂を聞いてから2日が経った。

 拓哉は炭谷に対する悪評の出所を掴めずにいた。


 はなからそう簡単に掴めるとは思っていなかったが、時間が経つにつれ気持ちに少しばかり焦りが出てしまう。

 噂なんてすぐ忘れる人もいれば、まず気にしない人、信じていない人だっているだろう。しかし、それは全員じゃない。いずれ忘れられるとしてもしんどいことに変わりはない。


 現状知っていそうな話せる人には大体聞いた。だが全員知らないの一点張り。すでに流れた噂の元凶を突き止めるのは至難の業だ。


 拓哉は食堂へと向かう。

 非常に悔しいが今できることはない。やり尽くした後で次どうすればいいのか悩んでいる状態だった。


 商品を頼み、受け取って席につき食べ始める。味はいつもと変わらない。でも、薄いわけではないけれど味がわかりにくく感じる。


「道原。隣いいか?」


 横を向くと水田がおぼんを持って立っている。他に席は空いていない訳ではないが、ほとんど誰かの隣になるため、ここに座ることを求めているのだろう。


 拓哉が頷くと水田はおぼんを置いてから席に座った。


「それで、何かわかったか?」


 水田は数口食べてから拓哉に尋ねる。


 水田には尋ねたことがある。もちろんの如く知らないと返答が返ってきた。尋ねたのは聞いた当日のことだったか。


「全然」


 拓哉は少し唸るように言う。


 言葉に出すと自分の無力さが悔しくなってくる。どうしてやれることがもう見つからないのか。


「あれから、ちょっと俺も聞いてみたんだ」


 水田は一旦箸を置く。拓哉ははっと顔をあげて水田の方を見る。


「こんなこと言い出したのはたぶん一年の田中っていう人と伊藤っていう人じゃないかって話を聞いてな。一応伝えとこうと思って」


 水田は少し横目で拓也のことを見る。拓哉は驚きですぐには反応できなかった。


「それ、誰から聞いた?」


 拓哉のいきなりの質問に水田は少し戸惑った様子を見せる。


「えっと、廊下でたまたま杉宮って人に会って、聞いてみたらそう言ってたんだ。その人達が話してからよく聞くようになったから、何か知ってるんじゃないかって」


 拓哉は少し感激してしまった。わずかながらでも希望を持てるような情報を水田が持ってきてくれた。


 杉宮というと中橋の友達の杉宮だろうか。杉宮には会うタイミングがなく、そこまでの仲でもないと思っていたから聞けていない状態だった。

 それに伴って田中と伊藤という名前にも少し引っかかるものがある。ありふれた名前で学年に複数人いるような名前だが、もしかしたら知っている人かもしれない。

 会ったことはないから厳密には知らないがその名前は少し印象に残っている。確か中橋をいじめていた主犯格がそのような名前の2人組だったはずだ。

 こんなこと考えているが間違っていたらものすごく失礼だなと拓哉は思った。


 どのみち聞いてみる価値はあるだろう。拓哉は人目さえなければ抱きつけるくらいには嬉しかった。


「じゃあ、その2人何組かわかる?」


「いやー、そこまでは知らない」


 水田は少し考えるような態度を取るが結局はわからなかったらしい。


「じゃあ、杉宮さんのクラスわかる?」


 杉宮に聞いてみればわかるだろうと思ったが、中橋のクラスならわかるのだが杉宮のクラスはわからない。


「確かな、3組だったはず」


 水田は腕を組みながら答える。しばらく会っていなかったのか少し不安な部分があるらしい。


「ありがとう」


 拓哉がお礼を言うと水田は「おう」と言って食事に戻った。


 別に解決したわけでも確実に犯人がわかるわけでもない。しかし、協力してくれたこと自体が嬉しく、ありがたかった。


 拓哉も残りの料理に戻る。何だか先ほどより味がした気がした。


 ***


 昼食を食べ終わって一年の教室へと向かう。クラスはもちろん3組。拓哉は教室にいることを願いながら階段を登った。


 一年のクラスが立ち並ぶ廊下に来ることはあまりなく、雰囲気も大して変わらず、特別一年という感じはしない。別に、他の学年でその学年らしさを感じたこともほとんどないが。


 3組に着いて後ろのドアを開ける。中はクラスの人数の半分くらいはいそうだった。他のクラスの人もいるのだろうが。


「どうかしましたか?」


 杉宮がいるかちょっと見ていると後ろから話しかけられて拓哉は驚いた。眼鏡をかけた女子が拓哉のことをじっと見てくる。


「杉宮さんにちょっと用があって」


 拓哉が説明すると眼鏡女子は納得したように頷く。「ちょっと待ってください」と言うと教室に入っていった。


 ドアの辺りを少し離れて待つと杉宮が教室から出てきた。どうやら運良く教室にいたらしい。


「どうかしましたか?」


 杉宮はもじもじしながら拓哉に尋ねる。

 知っている人とはいえ、いきなり先輩に呼び出されたらそういう反応になってしまうのもしょうがないだろう。


「水田から聞いたんだけど、田中さんと伊藤さんの話ってほんと?」


 杉宮は俯いてさっきよりも小さな声で「たぶんですけど」と返事をする。


 もしかすると本当にいじめていた人達なのかもしれない。そうだとすれば、聞かれるのも抵抗があるのかもしれない。


「ごめんなんだけど、その2人、何組かわかる?」


「どうしてですか?」


 拓哉は杉宮からトーンを変えずに質問された。


「噂になってるの、俺の友達なんだ。だから、こんな誤解早く解きたくて、流した人を探してるんだよ」


「本人を見つけて違うと理解してもらっても、噂が完全に消えることは無いかもしれませんよ」


 杉宮から鋭い返しが飛んでくる。


 確かにその通りかもしれない。周りから見れば『そう思われるようなことを言われるようなことをしているかもしれない』と思われるかもしれない。

 でも、それでも少しはましになるはずだ。このままではそういうやつだという烙印を押されることになる。見つければその可能性があるで止まるのだ。なら、やらない理由はない。


「たとえ、そうだとしても今よりましになるのなら、俺はやるべきだと思うしそうしたい。それに友達が悪く言われて我慢なんてできないよ」


 拓哉の言葉を聞いた杉宮は大きくため息を吐いて顔をあげた。


「伊藤は私と同じクラスです。田中は2組だったはず」


 杉宮は少し明るくなった声の調子で述べる。


「ありがとう」


「でも、今からはやめといた方がいいですよ。もうすぐ授業なので」


 杉宮が言い終わって、拓哉はドアに近づき教室内の時計を見るともうすぐ5分前だった。


 確かにこの時間では拓哉は次の授業は移動しなければいけないので少し厳しいものがある。気持ちがはやってしまって時間をあまり気にしていなかった。


「ごめん。今日はありがとう」


 振り返って杉宮にお礼を言う。杉宮はその様子でクスッと笑った。


「私の勘違いかもしれないこと忘れないでくださいね」


 杉宮は念を押してくる。わかっている。それで何もなかったとしたら、もう一回その時どうするか考えよう。


「私も......」


 拓哉が戻ろうとすると杉宮が話し出した。視線は拓哉の顔を捉えている。


「私も友達のために動けるようになれるかな?」


 杉宮は少し自信なさげに呟く。聞いているというよりは独り言のような感じだ。


「そうやって思えるならなれるし、君はたぶん、もうなってるよ」


 杉宮ははっとした顔を浮かべる。そして、少し笑った。


 初めて会った時とは雰囲気が全然違う。随分と明るく元気になった。


「ありがとうございます」


 杉宮がお礼を言うとそれぞれ自分の教室に戻った。


 聞きにいくのは今日の放課後にしようと拓哉は決心した。

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