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喉元過ぎれば熱を忘れる  作者: 粗茶の品
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友人として


 週が明けて最初の月曜日。もうすぐ2学期が終わるというのに拓哉は朝からいつものように憂鬱だった。


 クラスの中はいつもと同じような空気が流れている。いつものグループで話し合っている人達もいれば、いつものように机で突っ伏している人もいる。


 拓哉はふと窓の外を見る。


 残念ながら太陽は出ていない。空は一面に雲が広がっている。陽射しの暖かさがないから今日は一段と寒く感じた。


 こんな天気だから憂鬱だと考えてしまうのだろうか。


「おはよう。道原」


 拓哉は声がした反対側を向くと炭谷が手をあげて立っていた。


 さっき教室を見た時はいなかった上、鞄を持っているからちょうど今来たのだろう。顔はいつものような笑顔を浮かべている。


「今日は一段と寒いな」


「そうだな。今日は遅かったみたいだけど何かあった?」


「あー、ちょっと寝坊した」


 炭谷はおちゃらけて笑う。炭谷が寝坊するなんて珍しい。


 拓哉は炭谷と話していると違和感を感じた。


 妙に視線が集まっている気がする。特に集団となっている人達からのものが強い。炭谷は後ろから見られているから気づいていないのか気に留めていない様子だ。


「それじゃ」


 拓哉が尋ねようと思った瞬間炭谷は席に向かってしまった。それと並行して向けられていた視線が徐々に外されていく。周囲は若干の違和感を残しながら元の雰囲気に戻ろうとした。


 ***


 昼休みになって拓哉は席を立ち、食堂へと向かう。


 食堂へと向かっている道の隅で女子達が話しているらしく声が聞こえてくる。食堂に向かうため近づくと少しずつはっきり聞こえてくる。


「バレー部の炭谷って人のこと知ってる?」


「知ってる。なんかあれでしょ。ほら、彼女いるのに浮気して、その上暴力振るってるって人でしょ」


 言い出した女子が「そうそう」と首を縦に振る。拓哉はその手前にある曲がり角で立ち止まった。


 何だその噂は。聞いたことがない。炭谷に彼女がいることは知っている。しかしその他はまるで知らない。


 拓哉はすぐにはその言葉を飲み込めなかった。


 炭谷がそんなことをするはずがない。浮気、ましてや暴力などするはずがない。ずっと友達だからそれはわかる。

 女子達は同じクラスではない。つまりは、噂の発端はクラスではない、またはクラスの外まで広がっているかだ。


「その話、ちょっと教えてくれない?」


 拓哉は女子達に話しかけた。確かめないといけないと使命感のようなものに駆られた。

 「え?」と女子達は戸惑う。しかしすぐにその中の1人が口を開いた。


「何組だったかは覚えていないですけど、2年の炭谷ってバレー部の人が浮気とその相手に暴力をしたらしいんです」


 何度聞いても受け止められない。そんなことするはずがない。拓哉は妙に気持ちがはやった。


「それ、誰から聞いたの?」


 そんな噂が流れて居心地が悪くならない訳がない。早く誤解を解かなければ、炭谷が苦しみ続けてしまう。


 尋ねられた女子は返答に困ったような素振りを見せた。


「えっと、みんなが話してるの聞いただけなんでわからないです。結構話している人いてて」


 拓哉は驚愕した。多くの人が噂するぐらいには話が広がっているらしい。


 段々と怒りのようなものが湧いてくる。その噂を流した人に、どうしようもなくイライラする。突き止めて問い詰めたいがこの女子達からはもう聞き出せることはなさそうだ。


「ごめん。あと、それ嘘だから」


 拓哉は廊下を歩き出した。


 早く噂を流した張本人を突き止めなければならない。そして嘘だと言わせなければ。今日の昼ごはんは自販機に置いてあるパンにでもしよう。そんなことよりもこの誤解を解くことの方が今の拓哉には大切だった。


 ***


 今日の休み時間できるだけ聞き込みをしてわかったことは少しだった。


 噂はおそらく先週の金曜に流されたこと。それと噂は一年生の中でもかなりされていることだ。


 こんな時はわずかでも交友関係を築いていてよかったと思う。それがなければここにも辿り着くことはできなかった。


 話を聞いているとさらに腹が立ってきた。人の噂も75日なんて言うし、いずれは解けるだろうがそれまで炭谷は苦しまなければならない。


「礼」


 学級委員の挨拶でクラス全員が礼をすると放課後となった。拓哉はすぐさま席を立って炭谷のところに向かう。そんなわけないと思うが一応確かめなければと思った。


 しかし、足は途中で止まる。

 果たして聞いてもいいのだろうか。炭谷がまだ知らないとしたら苦しませてしまうのではないか、でも知らなくても違和感を感じているのなら教えた方がいいのか。

 朝のあの時から今日は話す機会がなかった。だから炭谷が知っているのかどうかわからない。聞いてしまえば余計な気を使わせるのではないか。


 嫌な妄想が雪崩れ込んでくる。それでも話そうと決心して歩き出すと炭谷はもう外に向かっていた。追いつこうとするも、運の悪いことにちょうど前に人が通ってしまい、少し遅れる。


「炭谷」


 ドアのあたりで追いついて声をかけると炭谷は立ち止まって振り向いた。


「何?急いでるから後でもいいか?」


「......」


 拓哉は一瞬言葉が詰まった。その瞬間を逃さず炭谷は歩いて教室を出てしまった。


 拓哉には去り際の炭谷の顔がこびりついている。きっとあの顔はーー。

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